4章ー7 アリアトの森2日目-無事帰還す-
アリアトの森を出ると、太陽は西に傾き、辺りを赤く染めていた。
私達5人は朝ここに来た時よりも随分と汚れ、そして、疲弊していた。
今日のアリアトの森は通常通りで昨日の異変が嘘のようだった。
当初計画していたように実践訓練が進められた。
私達3人は初めて魔物と戦ったのだ。
最初は皆同じように一瞬固まり、そのすきをつくように襲ってくる魔物をザックかマッケンローが払ってくれた。魔物に襲われて動けなくなる人間はここにはいなかった。3人3様戦い方は違ってもしっかりと魔物と戦い勝利した。最初の最初だから、みんな魔物から傷を負わされたけれど深い傷はなく、テオと私の魔法で直ぐに治癒出来た。
魔物との戦闘は問題なくこなしたテオとリックだったけれど、倒した後が大変だった。
魔物から魔石をとらないといけない。
それが大変だった。
魔石は心臓と一体化しているから、心臓を取り出す必要があるのだ。勿論、毛皮が素材になる場合もあるし、食べられる魔物もいる。つまりは、魔物を解体しなければならない。
私は、一度だけどゲオの魔石を取り出しているし、ゲオが魔物を解体するのを見たことがあったため、恐れや抵抗がなかった。ただ、リックもテオも初めての経験で、見てるだけでも辛そうだった。二人は本当に優しい心根をしているのだと思う。
今日私が倒した魔物はミーアと言ってうさぎのような魔物だ。ミーアは下級魔物に分類される最も倒しやすい魔物であり、数も多い。肉は食べられるし毛皮も使用できる。だからこそ、魔石は小さくてお金にはならないけれど、クエストが達成できない冒険者の良い食料になっていた。今日はアリアトの森に誰もいなかったが、それは昨日の異変を冒険者ギルドの方に伝えていたからだ。冒険者ギルドの判断で今日はアリアトの森へ行くことを禁じられていた。本日帰還後、アリアトの森の異変がなくなっていたと伝えれば、冒険者がそこかしこでミーアを狩りに来ることだろう。
そして、テオが倒したのは鳥の魔物でスメラと言った。テオの魔法はもう中級以上の威力で彼は傷を負うことなく火魔法でスメラを焼き殺していた。とはいえ、中級魔法では魔物は死んでも体は残る。テオはサッカーボールほどのスメラの心臓にナイフを突き刺し、魔石を取り出した。スメラは食べることもできるけど美味しくないらしい。スメラの素材としては魔石と羽だが、テオが燃やしてしまったので羽はない。
魔石を取り出すときのテオが泣きそうで、変わってあげようとしたら、ザックとマッケンローに怒られた。魔王討伐の旅をしていてマッケンローのように一人になることもある。その時、魔物をさばけなければ、食料に困ることになるかもしれない。生きるために必要なスキルだと言われた。
そして、リックは私と同じミーアと戦闘した。彼は傷を負うことなく、魔物を真っ二つに切り離した。勿論、最初は体がすくんでいたようだったけれど、剣を振るうと一発で終わってしまった。リックは真っ二つになったミーアの体から魔石を取り出した。そこまでが精いっぱいだったみたいで皮をはぐことは明日以降に引き延ばしてもらっていた。マッケンローが「情けない」と言った直ぐ後で「まぁ、俺も実は最初出来なかったんだよな」と昔を懐かしんでいて、意外過ぎてびっくりした。
ザックが種明かしをしてくれる。
「まぁ、君は元々貴族だからなぁ、今じゃあ、元貴族って言われても誰も信じないだろうな」
私はマッケンローが貴族出身の勇者だと知らなかったため穴が空くほどに真剣にマッケンローを見つめてしまう。この人も貴族らしくない貴族だったのかな。そんな事を考えていたら、「あーだからなんだ。妙に食べる姿勢がいいなって思ってたんだ」とテオがいい。大きな声でリックが「あーーー!マック!!マッケンローってマック?時々僕の遊び相手になってくれてたマック?」とマッケンローを指さす。マッケンローが「そうですよ、俺はマックですよ」と小さく呟いて、ザックがやっと気付いたのかという顔をしながら、うんうんと頷いている。
そっか、マッケンローは貴族らしくない貴族だったわけじゃないのかもしれない。勇者になって変わったのかも……
王城に着くともうすっかり辺りは暗くなっていた。
今日は私とリックが戦った魔物、ミーアを調理してもらって夕食を食べる。
昼食が携帯していたサンドウィッチ2切れだけだったからお腹がすいた。
本来は狩った魔物を自分たちで調理するのだけど、まだリックは王子の籍があり、なんでも口にすることが出来ないようだ。王族は勇者石の儀式から3年は勇者と王子を兼ねることになっている。3年で勇者の力をつけながら、王子の職務もこなすのだ。そのため、リックの部屋は未だに勇者塔に移されてないのだ。その制度を聞いたのも今日、みんなで食事をしたいと提案すると教えてくれた。
そんな訳で今日の夕食は王族専用の調理師の手によってミーア料理を作ってもらい、勇者塔で5人で食べるのだ。本当はリリーにも一緒に食べて欲しいけど、リリーはきっと給仕に専念するだろう。リックは自分の母親に少しだけ持って行ってもらうように調理師の方に依頼しているようだった。
初めて、魔物と戦い、自分で仕留めた魔物の肉を食べる。
生きてると感じる。
そして、ゲオとフローラルが教えてくれた食事の楽しさ。
自分で獲ってきたミーアだから美味しいわけじゃない、王族専用の調理師が作ってくれたから美味しいわけじゃない、テーブルを5人で囲み、リリーが笑顔で給仕してくれているこの瞬間の仲間の存在が今日のミーアを最高なものにしてくれていた。
私は今生きている。
しみじみと心の中で呟いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます