第29話~2022年12月24日のお話(オンボロタクシー会社での面接)~

2022年12月31日更新


一昨日受けたタクシー会社(営業次長の会社)は最初は昼間勤務で働かせてくれるが、近い将来に隔日勤務(1日20時間勤務で深夜にまたがる勤務)をやる事を前提という条件だったので、そこが引っかかっていた。


私は昼間勤務をやりたい。それで稼げるならそれをずっと続けたいと思っていた。勿論、昼間勤務をやったらやったで不満が出てくるかもしれない。そうしたらまた隔日勤務をやりたくなるかもしれない。昼間勤務と隔日勤務を好きな時にやらせてもらえるような都合の良い会社。あった。別のタクシー会社に連絡したら面接をしてくれるという。早速面接をしてもらった。行く前に会社の口コミを見ていた。星のレビュー獲得数がやたら低い。


会社に着いて思った。


寂れている。事務所も掘っ立て小屋でボロボロ。今にも崩れそうな小屋。タクシーも汚れている。オンボロ会社。もちろん営業車ではないだろうが、それを一般の人が見える目立つ場所に置いてある所にこの会社の品格の乏しさが出ていた。これではこの会社に面接に来た人は入社をためらうだろうと思った。私もこの光景を見たときに一瞬、面接をしないでこのまま帰ろうかなと思った。とりあえず事務所の中に入った。


「すみません。本日面接のお約束をしている佐々木と申します」。


強面の黒いサングラスをした社員らしき怖そうなおじさんがでてきて、「面接だってよ」と言った。

ギシギシ音を立てながら、ボロボロの階段の上から降りてきた人物がいた。

部長と呼ばれていた。若い。好青年でイケメン。


「お持たせしました。部長をやらせてもらっています、錦織と申します。こちらへどうぞ」と通された部屋は、ダンボールやら書類の山で散らかっている足の踏み場のない小さな部屋だった。こんな応接室見たこともない。やばい会社だと思った。これは星のレビュー数も少ないわけだ。確かにこの会社のタクシーを町で見かける事は少なかった。タクシー保有台数も26台と書いてあった。小規模な会社だ。


社長が応接室に入ってきた。

「今日はようこそおいで下さいました。社長の錦織です」。


あれ、好青年の部長と苗字が同じだ。


社長がすかさず言った。「部長は、私のせがれです。よろしく」と笑って言った。


社長が聞いた。「なんでまたうちの会社に応募してくれたんですか。この町には他にも沢山タクシー会社はありますよ」。


「はい。実はいくつか他のタクシー会社にも問い合わせをしたのですが、どこも募集しているのは隔日勤務で、昼間勤務の募集をしているのは御社だけだったので応募させて頂きました」。


「なるほどね~。うちはね年齢層でいうと60代、70代が中心なんですよ。30代はいなくて、40代も一人しかいない。もし佐々木さんが入社されたら最年少になりますよ」と笑った。

「そうなんですか。怖い人とかいませんか。例えば添乗研修する際の先輩とかはどんな人ですか」と聞いた。


「まあ、色々な人がいますからね。ただパワハラをするような事はないですよ。昔ながらの運転手が多いですからね。うちの社風は良く言えば自由。悪く言えばファジーですかね」と笑って好青年が言った。


私はファジーという言葉の意味が分からなかったので聞いた。「ファジーとはどんな意味ですか」。


「う~ん。適当という感じですかね。運転手に細かい事は任せていますから。例えば休憩もしっかりとる人もいれば、待機時間を休憩と思っている運転手もいます。その辺りは任せています」。


私は今年半年働いた会社と似ていると思った。親子の同族経営の会社で、次期社長が若い。ベテランドライバーには強く言えないので、色々な事が「なあなあ」となっている体質の会社なのだと思った。私にはこういう会社が合っていると思った。


イケメン部長が私の履歴書を見ながら言った。

「何社も転職されて逆に凄いですね。というより辛くないですか。なかなかこんなに転職するのはできないですよ」。


私は「今回の転職を最後にしたいと思います」と過去に何度言ったか分からない、いつものお決まりのセリフを吐いた。そして待遇面などを一通り聞いた。


「定年は何歳ですか」と聞いた。


社長は笑って言った。「60歳ですけど、それを聞いてどうするの?どの会社も数年で辞めてるんだから、そこまで考えなくていいんじゃないの?」と小ばかにしながら言われた。


社長は続けて言った。

「このタクシーという職業が向いている人は、バリバリ仕事をして、終わったらさっと帰る職人のような人だね。長く続けるには嫌な事にも耐えて、それを乗り越える事が大切だ。うちにとっては若い人が長く働き続けてもらいたいし、そういう人が重宝されるよ」という話をした。

この社長は私の事を採用したいと思っているのか採用したくないと思っているのか、どちらなのか分からなくなった。とりあえず私がすぐにまた辞めるのではないかという疑いを持っている事だけは分かった。


「趣味は何?」と聞かれた。


「ジョギングですね。フルマラソンを走れます。あとはラーメンの食べ歩きが好きですね。お金があればテニスもしたいです」と答えた。


好青年の部長が言った。

「フルマラソンは凄いですね。ジョギングをされるんですか。意外ですね。そういうストイックな部分も持っているんですね」と笑った


転職ばかりの傷だらけの履歴書を見て、私の事を駄目駄目人間で堕落した生活をしている人間と思ったのだろうか。


社長もラーメンが大好きという事で話が盛り上がった。

その勢いでつい本音をしゃべってしまった。


「とにかく私は営業も合わない。肉体労働もできない。事務の仕事も人間関係などあるし問題がある。清掃の仕事もきつくて合わなかった。雨に濡れる仕事は嫌だ。そうやって色々な仕事を消去法で消した結果、残った仕事がタクシーなんです」と。


普通の会社でこんな事を言えば即退場だろう。御社を志望した理由は「消去法で残った会社だからです」と言っているようなもんだ。

しかしこの親子は違った。

「そうだね。消去法は必要だよね。私もそうでした。」と感心された。


とにかく合否の連絡は明後日の9時にしますと言われ、最後に洗車場を見せてもらった。

屋根もしっかりある。私の恐れていた雨には濡れないで洗車ができる。

とにかく、この会社は昼間勤務でずっと働かせてくれる事を約束してくれた。稼ごうと思ったら夜に働く形態でもいいという点に惹かれた。


会社は今にも崩れそうな、おんぼろ小屋だがそんな事は関係ない。

海外営業職の会社は立派な建物だったが1週間で辞めた。


いかに仕事を続けられるかだ。とにかく、この会社から採用されたら働こうと思った。

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