第17話 ~2022年12月10,11日の話(子供とのギャップ)~

2022年12月20日更新


12月10日土曜日。今日は次男のお遊戯会。幼稚園年長の最後の行事だ。次男は併設されている保育園にも2歳の頃からお世話になっていたので、この幼稚園・保育園には5年間通った事になる。本当に長かった。もう卒園式以外ではここに来ることもないだろう。次男のクラスに入る事もないだろう。私はお遊戯会が始まる前と後で次男の教室をくまなく見た。次男が書いた絵や、工作が壁に貼ってあった。写真を撮った。この幼稚園は妻がパートで働く事を念頭に入れていたので、親御さんが働きやすい環境が整っていたのでわざわざ車で片道20分もかけて妻が送り迎えを5年間頑張った。もうこの送り迎えをしなくてよいと思うと、ホットする。妻はそう言い自分を褒めたいと言っていた。

次男は男っぽい。幼稚園の先生やママ友からも「かっこいいね」とか「男だね」と言われるぐらいだ。そのお父さんはさぞかし、たくましくて男っぽい父親なのだろうと誰もが想像をすると思う。幼稚園に久しぶりに行った。パパやママが私の事を見る。明らかにみんな目を丸くするような感じで私を見てくる。男っぽい次男とはまるで正反対な風貌だ。華奢で、頬がやせこけ、なよなよしていて、元気がない。覇気がない。暗い。おとなしい。しゃべらない。妻の後ろに隠れている。ましてや、ついこの間マンションの手すりをよじ登って飛び降り自殺しようとした直後である。その陰湿さがまだ抜けていない状態だ。みんな誰もがその次男とのギャップを感じずにはいられないのだろう。どうしてこのお父さんからこんな元気な男の子が生まれたのだろうと不思議そうな顔をしているような空気を感じた。

幼稚園の行事に行って、他のパパやママに会うたびに毎回感じる事だった。


12月11日日曜日

毎週の恒例の子供の習い事の付き添いの日。今日は日曜日だから長男のそろばんだけだ。

特に何の問題もなく終わり、子供たちをお金のかからない公園に連れて行き遊ばせて帰る。夕飯は妻も合流して久しぶりに外食をした。妻に心配をかけてばかりだったので久しぶりに妻の食べたいものを食べさせたかった。「何を食べたい?」と聞くと妻は「イタリアン食堂の「ゴマ油の丘」でイタリアンの気分かな」と言った。私はこの後、趣味であるジョギングをするつもりだったので、ゴマ油の丘では何も注文しなかったが、久しぶりに妻も、子供たちもお腹いっぱいになって満足そうだった。久しぶりの外食だった。妻の笑顔を久しぶりに見た気がした。


私は来週から始める深夜のお掃除のバイトを控えていて、心が軽かった。もちろん、不安な面はある。深夜の御仕事。初めての掃除の仕事。肉体的なキツさは計り知れない。どれほど汚い汚れを掃除する事になるのか。しかし、難しい資料を読み込むことはない。コミュニケーション能力も必要ない。難しい仕事を覚える事はない。雨に打たれることはない。必死にお金を稼ぐプレッシャーもない。アルバイトだから合わなければすぐに辞めればいい。とにかく気持ちが軽くなっているのが分かる。


毎日10キロのジョギングが趣味で、1週間に一度25キロのジョギングをしている。この日は25キロ走ったが、ジョギングのキツさと精神はリンクしていると思う。この日は25キロだったが軽やかに爽快に走れた。逆の日もある。10キロでも気持ちが重いと、めちゃくちゃキツイ時がある。


もう、妻も、親も、私の弟たちもみんな私が病気であり、正社員できつい仕事をできるとは思っていない。病気の事を理解してくれている。妻も次男が学童を卒業する3年後くらいには正社員で働くと言ってくれている。もう何が何でも家族を扶養しなければならないというプレッシャーからは抜けられた。

体に鎧のような重荷から解き放たれた心は軽くなった。バイトでもいい。

年収250万円だろう。1年続けられたら次は年収300万円を目指せばいい。

その後は年収350万円。とにかく少しずつ頑張ろう。将来の事は今は考えなくていい。1日1日仕事を続けられるようになろう。まずはそこだ。

死ぬ事は怖くてできない。首を吊るのって苦しくてできない。手首をリストカットしたぐらいでは死ねない。マンションから飛び降りる事も怖くてできない。だったら生きるしかないのだ。だからと言って引きこもって何もしないで家にいることはしたくない。だったら働くしかない。生きていくしかない。私は妻と約束をした。そしてそれを紙に書き、リビングのみんなが見える所に貼った。


「私、佐々木信一は、以下の事を誓います。

1 妻にモラルハラスメントをしない。

2 妻と子供たちに暴力をしない。

3 妻に会社の事や仕事の事での愚痴や不満を言わない。

4 家で大声を上げない。家具を叩いたりしない。」


私は毎日朝起きたらこれを見て1日を過ごしている。

辛い時、守れなくなりそうな時もこれを見て自分を戒めている。

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