トーテムポール殺人事件 真相

前提として、部屋は密室状態だ。

この状態で部屋に入ることができるのは、部屋の住人である被害者と管理人のみ。

玄関のドアがオートロックではないこと、鍵が盗まれていないこと、争った形跡がないことから、誰かが殺害後に部屋を抜け出した線は否定される。


では密室に閉じこもった被害者をどうやったら殺害できるのか。

外部から干渉する以外に道はない。

被害者が住んでいるのはマンションだ。当然ながら、壁の向こうにも部屋がある。

これは文中でも、『両隣の住人』という存在から明示されている。


ここまで言えばわかった人もいるのではないだろうか。

重要なのは、トーテムポールが壁際に置かれていたこと、そのトーテムポールが倒れやすくなっていたこと、被害者が死亡した夜に歌を歌っていたことだ。

きっと犯人は、夜中の騒音が我慢できなかったのだろう。

騒がしい被害者を黙らせようと、壁を殴った。ごくありふれた行動だ。

しかしそれが、被害者に永遠の沈黙をもたらす結果となった。


壁を殴った衝撃で、トーテムポールが倒れたのだ。それが偶然、被害者の頭部に直撃した。

おそらく、それなりの音が出たことだろう。

そしてそれ以降、被害者の部屋から音が発されることはなかった。

犯人は心配になったのか、不安になったのか、隣室の様子を確かめようと思ったのだろう。

まずはインターホンを押して謝罪にでも行ったのかもしれない。

しかし一向に返事がない。不安は加速し、犯人は「おい、大丈夫か!」と叫んだ。これが通行人が聞いた大声の正体だ。

しかしその大声にも被害者は反応しない。


この時点で何が起きたかを察した犯人は、この事実を隠し通すことに決めたのだ。

この犯行が可能なのは、当然ながら一人しかいない。

トーテムポールが立っていた側に住んでいた、隣室の住人だ。


他者の死の隠蔽を図ったとはいえ、不運にもほどがある犯人には同情を禁じ得ない。

皆様も、隣室の壁を殴る際にはご注意を。

もしかしたら、殺人犯になってしまうかもしれませんので。

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