この世界は勇者より付与術師をお求めです
闇
第1話 ありふれた日常
「……綺麗だな」
自教室の窓から海に沈みゆく夕日を見て呟く。時刻は午後三時前なのだが、冬の日没は早い。最近の例だと五時には薄暗くなっている。
俺の名前は
地元の中学に通う卒業を間近に控えた三年生。四月からは近所にある県立の工業高校に進学が決まっている。
「ジャナイ、何を黄昏れてんだ?」
声の主は
実家が剣術の道場で、幼少の頃より親父さんに鍛えられており、剣道部に在席していた。中学最後の大会では全国三位になった程の猛者で、身体能力は学校一と言われているが、頭脳はかなり残念な感じ。
よく耳にするあれだ(笑)
因みに先程の会話内にあるジャナイとは俺の
「卒業が近いから思う所があるんだろ。ジャナイ君は意外と乙女だからな」
そして……もう一人の幼馴染みである此奴が渾名の由来である。名前は
で、此奴のスペックが
平均的なスペックの俺は、同姓同名の影響もあって「優秀じゃない方のたかと」「イケメンじゃない方のたかと」等と呼ばれる事となり、それが略されて「じゃない方のたかと」、さらに略されジャナイとなった。最近では家族や教師以外から名前で呼ばれる事はない。
この不名誉な渾名の名付親は航汰だ。某テレビ番組内で、ある芸人さんを『じゃない方芸人』と紹介しているのを見て「これだ!」と思ったらしい。
「誰が乙女や。俺はお前みたいにリア充な中学生活は送ってねぇから思う所なんてないわ。寧ろ、お前と離れられる高校生活が待ち遠しい。ジャナイの渾名も一緒に卒業できるしな」
はぁ……と深い溜息を吐き、手を左右に広げ首を振る。ヤレヤレといった感じで。まぁこの返しは嘘ではないが、本心とも言えない。
崇斗は国内で最高と称される全寮制の有名私立高校に進学が決まっている。幼稚園から始まり、小学校・中学校と続いた腐れ縁も一旦は終止符を打つ事になるのだが、少し寂しく思う部分もある。渾名の事もあり、複雑な感情があるのは事実だが、崇斗は良い奴だし、脳筋(あっ)の航汰と三人で過ごした日々は純粋に楽しかった……
「そんな冷たい事言うなよぉ。僕とジャナイ君は幼馴染みじゃないか……そうだ、学校終わったらカラオケ行こうか?航汰も一緒にどう?」
数々の女生徒を魅了してきた笑みを浮かべ、右手にエアマイクを持ち歌うフリをする崇斗。
「を、いいね~。んじゃ
「待て待て待て!勝手に話を進めるなよ」
「ふん、ジャナイよ……貴様に拒否権はないのだ」
「あるわ!今日は妹の
そう俺が言った瞬間、六時限目の授業が始まるチャイムが鳴り、教室に国語担当の村上先生が入ってくる。「また、後で」と、二人は自分の席に戻っていった。
通学鞄から教科書とノートを取り出し、シャーペンをクルクルと指で回す。
「確か古文だったな。他の教科も大差ないが、これからの人生で一番必要ないよな。まぁ、睡魔に支配される俺が言うのも可笑しな話か」
その言葉通り、授業開始から五分経った頃には夢の世界に旅立ったのであった。
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