第29話

 え?


 あれ?


 見間違い……じゃないよな?


 俺は地図と道を何度か見直すが、やはり間違いない。


 いやある意味で間違いな気がするな。


「いや……デカ過ぎんだろ……」

「なんでこんな場所に建てたんだろ……」

「あの、一体どのような感じなのでしょうか?」


 俺達のニューハウスを一言で表すなら、豪邸。


 いや盛りすぎな気もするが、インパクトはそれくらいある。


 しかも場所は人里離れた場所にあり、何故建築しようとしたのか不思議で仕方ない。


「よくネインはこんな家見つけられたな」

「でも、ここなら私でも大丈夫そう」

「私もあまり人がいない方が落ち着いて好きですね」

「んじゃ細かいことは忘れて、早速お邪魔するか」


 早速とばかりに俺達は家の中へと入った。


「中も綺麗だな」


 見た目通り中も広く、物はないが新品同然の清潔感で満ちていた。


「凄いけど、掃除大変そう」


 芽依は入って早々文句を言う。


 文句というか事実だな。


 確かに俺もこれを掃除するとなると気が滅入ってきたな。


「私がしましょうか?」


 凛は提案する。


「いやいや悪いって」

「大丈夫です。昔からずっと家にいて、お掃除が趣味といっても過言ではないので」


 そんな人本当にいたんだ。


 漫画の住人かと思ってた。


 だけど


「大丈夫なのか?その……倒れたりとか」

「えっと……家の方に呪いをかけさせてもらえば怪我をすることは無くなると思いますが……大丈夫ですかね?」

「そういうことなら答えは勿論イエスだ。芽依もいいよな?」

「ん、大丈夫」


 凛は包帯を取り、家を散策し始めた。


 今からここは呪いの家となるわけだ。


 今後事故物件とかで紹介されそうだな。


 いや、そもそも俺らが直した家って全部呪われてるのか。


 じゃあもし凛に危険が及べば、あの家全部が一斉に動き出すのか……へぇ。


「……襲ってみるか」

「「!!!!」」


 ま、さすがに冗談だけどな。


 そんなことしたら今度こそ指名手配にでもされそうだ。


「まさか清が……」

「い、いくら文清君の頭がおかしくても、そこは男性ということなんでしょうか……」

「私、清を殺さないように刺激を抑える」

「はい、頑張って下さい」


 芽依と凛が二人でコソコソと話してる。


 何の話だろうか?


 混ぜてもらいたいが、今はとりあえず


「それぞれの部屋決めるか。どこか希望あるか?」

「私はキッチンと近い部屋がいいですね」

「私は広い場所。本とか置きたい」

「えっと……じゃあ芽依はあそこ。凛はまず道を覚えてもらうか」


 芽依は荷物を運びに行き、俺は凛に入り口からの行き方や、特徴的な場所から部屋への行き方を教える。


「すみません。私のせいで」

「ああ大丈夫大丈夫。別に俺は気にしないし、それでも気になるなら料理とか掃除とか、その辺で今後お返ししてくれ」

「は、はい!!」


 元気な声が返ってくる。


 こういった他人に罪悪感を覚えるタイプの人は、何かしらの形で恩返しさせてあげた方がいいという持論がある。


 これを学会へと発表すれば、おそらく俺は世界の権威になるんだろうな。


「清、ニヤニヤしてて気持ち悪い」

「人聞き悪いこと言うな芽依」


 通りすがりの芽依が文句を垂れる。


 せっかく妄想の世界に耽っていたのに、間が悪いな全く。


「もしかして私……狙われてる……」


 凛がボソリと何かを呟く。


 よく分からないが、とりあえず今日はこんなもんでいいだろ。


「凛の荷物はないのか?」

「あ、無いですけど大丈夫です。今度一人で買いに行ってきますので」

「いやいや、さすがに一人は大変だろ。俺か芽依が手伝うって。な?」

「うん。でも私は買い物行けない」


 どうして……ってそっか。


「そういえば芽依って呪い持ちだったな」


 すっかり忘れてたぜ。


 呪いって割にはあまりにも馴染み過ぎてつい忘れるんだよな。


 思わず芽依にハイタッチとかしそうだし。


 そんなことを考えていると、なぜか二人からクスクスと笑われていた。


「ホントバカだね」

「文清君のそういうバカなところ、私好きかもです」

「え?嫌味?」


 最近そのノリ多くない?


 もしかして俺のこと嫌いなの?


 ……そんなわけないか(ポジティブ)。


「あ、そういえば」


 呪いで思い出す。


「なぁ芽依」

「何?」


 俺はとあることに気付く。


「家だとその仮面、外してくれるのか?」

「仮面?」

「……」


 別に強制するつもりはないが、今後常にその格好は色々と窮屈だと思う。


 俺は芽依ともっと気安い仲でありたいと思ってる。


 だから


「ダメか?」


 俺の願いに芽依は


「……まぁ、家の中だけなら」

「マジ!?」


 遂に芽依の顔が公開されるのか!!


 一体どんなだろ?


 めちゃくちゃ不細工だったらどう反応しよう。


 笑った方がいいのか、もしくは何もしない方がいいのか?


 やっべどうしよう!!


「じゃあ外すから」


 芽依はそっと仮面に触れる。


 まぁ芽依ってなんだかんだ優しいし、俺が粗相をしたところで毒を吐きながら許してく……れ……


「……どう?」


 芽依の素顔が露わになる。


「あ……え……その……」

「変……かな?」


 首を傾げる。


「わ、悪い!!ちょっと部屋行く!!」


 俺は部屋へと駆け込む。


「……もしかして、私の顔相当悪い?」

「ど、どうなんでしょう?私見えませんし……」


 俺は荒げる息を整える。


「マジ……かよ」


 俺は心臓を抑える。


「可愛……過ぎだろ……」


 黒く美しい髪が顔にかかり、少し汗ばんだ顔がその白い肌を強調する。


 幼さが残りながらも、美人と評される資質がそこにはあった。


「あーこれ……やべぇな」


 一瞬だけ、ほんの一瞬だけ、俺は芽依の友達をやめたいと思ってしまった。



 ◇◆◇◆



「ま、慣れてしまえば余裕なんだけどな!!」

「ん?」

「んぎゃああああああああああああああああああああああああああ可愛いぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい」


 顔を近付けた芽依から逃れるように地面に転がる。


「これ、少し面白いかも」

「声だけで文清君の行動が手に取るように分かりますね」


 俺は激しくなる心臓を抑える。


「嘘だろ?苦節17年、女の子相手にここまで動揺するのは初めてだ……」

「凄いですね。私も芽依ちゃんの顔が見てみたいです」

「私も自分の姿とか苦手だから見てこなかったけど、清がこうなる程とは思ってなかった」


 俺は地面に頭を何度も叩きつけ、冷静さを取り戻す。


「あれ?いつに間に世界は真っ赤になったんだ?」

「清、頭から凄い血が出てる」

「だ、大丈夫ですか!!」


 なーんだ血か。


「お、これなら芽依の顔が見えない。やっぱり俺天才だな」

「奇才の間違いじゃない?」

「そうなると私、自分の見た目が気になってきます。芽依ちゃん、私はどうでしょうか?」

「凄く美人。向こうでだと、清と仲良かった二人と遜色ないくらい」

「そ、そうなんですか?ですが文清君は私にそこまで動揺していませんよ?」

「確かに」


 まぁ確かに凛も凄い可愛い。


 愛菜とかネイン、認めたくないが師匠も凄い顔面偏差値の高さだ。


 前世の基準で普通を50としたら、今上げたメンバーは120くらいある。


 芽依もおそらくそれくらいなのだが、いかんせんどちゃくそ俺のタイプなのだ。


 ドストライクなのだ。


「よかった。今までのみんなの顔面のお陰で、俺はなんとか平静を保つことが出来るている」

「みんなの力を合わせる系でここまでカッコ悪い人見たことない」

「むぅ、やっぱり目が見えないと不便です」


 怒る凛。


 揶揄《からか》う芽依。


 もしこのまま家にいたら、俺は多分爆発四散する。


 ここは逃げるが勝ちだ!!


「とりあえず俺は師匠のところに行ってくるけど、二人はどうする?」

「私はとりあえず何もしない。清の暇な時が出来たら声を掛けて欲しい」

「私も少し家の中を調べておきます。家の中で迷子だと恥ずかしいので」

「そっか」


 んじゃ心置きなく


「行ってきまーす」


 手を振る二人に見送られ、俺は家を後にする。


 それがなんだか、少し嬉しかったりした。



 ◇◆◇◆



「どこだここ!!」


 俺は『落ち着いたらここに来い』と師匠が言っていた場所に向かった。


 最初はどんな所だろうとワクワクしながら歩いていたが、突然周りから家が無くなり始め、途中からぱったりと視界が開ける。


 分かりやすく世界観が変わっていく景色に、徐々に不信感が高まる。


 そして現れたのは巨大な建物。


 異世界っぽいといえば異世界っぽいが、実際にお城みたいな建造物があると尻込みしてしまう。


「本当にここであってんのか?」


 俺は地図を何度も確認する。


 間違っていない。


 俺は地図に書かれた通りの道を進んできている。


 つまりこれは


「師匠のことだしミスったんだろ」


 そんなわけで俺は帰ることにした。


「お兄さん!!」

「ん?」


 突然声を掛けられる。


 振り向くと、びっくりする程ピンクの髪をした女の子がそこにいた。


 見た目は小柄で、芽依達よりも年下に見える。


 13歳くらいか?


「私は15だぞ……です」

「あ、そうなんだ」


 しょんぼりしている。


 なんかごめん。


「それよりも、多分合ってると思うです」

「合ってるって……何が?」

「場所、多分合ってると思うます。帰らない方がいいと言っておいてやるです」

「お、おう」


 もしかして独り言聞かれてたか?


 それにしてもこの子、変な言葉遣いだな。


 なんだか言葉を習ったばかり野生児みたいな喋り方になっている。


 ちょっとカッコいい。


 俺もそういうキャラ付けしようかな?


「それにしても」


 この子もまたとびっきりの美少女だな。


 この世界って顔が良いように設計されてるのか?


 いやでも受付のお姉さんとかは普通だったし、やっぱり俺の周りがおかしいだけか。


「えへへ」

「どうした急に」

「あ、いや、なんか褒められた気がしただけです。じゃあ僕もう行くぞです。また会おうね、文お兄さん」

「おう、よく分からんがありがとな」


 俺はそのまま手を振り、名もしらぬ美少女とお別れする。


 多分良い人なんだろうな。


 俺と一緒じゃん。


 ところで


「俺……自己紹介したっけ?」


 まさか……


「有名人になっちゃった?」


 やはり強過ぎる威光が露天してしまったらしい。


 全く、異世界にて遂に俺の存在が認知され始めてきちまったか。


「さて、冗談は置いといて」


 先程の言葉を思い出す。


「合ってると言ってたし、行ってみるか」


 そのまま巨大な建物に向かって足を進める。


「あれは……騎士?」


 近付いていくと、入り口の方に騎士っぽい格好をした人が立っていた。


 芽依の話でしか聞いたことがない存在だったが、本当にいたんだな。


 あまり良い印象はないが、挨拶はしておくか。


「ちっすちーっす、こんちゃーす」

「あ、ああ。最近は変わった生徒が増えたな……」


 何かボヤを吐いているが、気にせず中に入る。


 と思ったが


「イテ!!」


 何もない入り口にぶつかる。


「な、何だこれ!!」


 手を前に出すと、見えない壁があることに気付く。


「これ結界じゃねーか!!」


 なんでこんな所に結界があんだよ!!


 しかもこれ絶対師匠のやつじゃ


「おいお前」


 後ろから声


「まさか、生徒じゃなかったとはな」

「へ?」


 俺は嫌な予感がし、反射的に頭を引っ込める。


「あっぶ!!」


 俺の頭上を剣が通り過ぎる。


「んだよ、いきなり攻撃とかストレス溜まってんの?」

「ストレスは溜まってる。だからこういう時に、相手をボコす機会がありがたく感じてきている」


 騎士は剣を構える。


「これより、侵入者を排除する」


 俺は笑いながら


「やってみろバーカ」


 冷や汗を流した。

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