第18話
「なぁ師匠。友達と喧嘩しちゃったんだけどさ、どうすれば仲直りできる?」
「うむ、過去の友人知人が皆死んだ儂にそれを聞くか」
「なんかごめん」
本日のノルマを終え、最近日課となっている師匠の魔法を避けましょうゲームをしながら相談する。
ちなみに魔法は直径一メートル程の水の球体だったり、炎だったり、時々魔法に飽きたと言って外のモンスターから逃げ回ったりしている。
下手したら死ぬのは内緒だ。
「喧嘩の原因はなんじゃ?」
「なんだろう、勘違いで傷つけた?」
「よくあることじゃな」
師匠は俺には何が書いてあるかも分からない本を読みながら、動き回る俺に的確に攻撃する。
もしかして第三の目とかあるのだろうか?
「儂の価値観は少し古いが、それでもよいか?」
「まぁ師匠の言うことは半分は信じてるから、大丈夫」
「全部信じろバカ弟子」
師匠は怒りながらも、いくつかの答えを出してくれる。
「儂としては、そう言う時は儂が悪くないと言い張るのじゃが、主はそう言うのは望んでないじゃろ?」
「うーん、どちらかというと今回は俺が悪い寄りなんだよなぁ」
「その場合じゃったら、素直に謝ってみたらどうじゃ?」
「許してもらえるだろうか」
「なら何かプレゼントでもしたらどうじゃ?」
「プレゼント?」
「ほれ油断した」
「最悪」
全身びしょ濡れになる。
「いちいち乾くの待つのだるいんだけど」
「当たった主が悪い。バカ弟子は少し油断が多いの」
「最近それめっちゃ言われる」
俺はタオルで顔だけでも拭く。
「プレゼントか、愛菜は何が好きだろ」
「なんじゃ、主まさか喧嘩の相手は恋仲か?」
「いやいや、ただの女友達だって」
「儂はそう言って結婚していった連中を五万とみたのぉ」
そういえば師匠って恋人いるのだろうか?
正直師匠の体に興奮する人間なんて絶対変
「おいバカ弟子。儂の魅惑のボディーにケチをつけなかったか?」
「俺は全然師匠いけるっすよ」
「主は変態か?」
「でも師匠合法ロリババアじゃん。だから俺は変態じゃない。はい論破」
「儂の体は12歳の頃から成長が止まっておるからの。つまり主はこの幼体に反応する男というわけじゃ。はい論破」
「はぁ?自分で魅惑のボディーとか言ってたくせにズルいぞ師匠!!」
「弟子が師匠をバカにするからじゃ!!このバカ弟子!!」
ギャースカギャースカと喧嘩する。
「逆らってずみまぜん」
そして結局魔法でボコボコにされる俺。
「それで?その友達に主は何を送るのじゃ?」
「やっぱり武器とか?」
「ばっかもん!!
「でもここだと普通なんじゃ……」
「……確かに儂も昔プレゼントに聖剣を贈られことはあるが、それとことは話が別じゃ。もっと可愛らしい物はないのか?」
「可愛らしい……あ、師匠をプレゼントってのは?」
「可愛いで真っ先に儂が出てきたことは褒めるが、儂はいつから主の物になったのじゃ」
「文句が多いな〜」
「文句をつけられるのを選ぶ主が悪い」
可愛いもの可愛いもの
カッコいいものだったら無限に思いつくけど、可愛いものとなると……
「あ」
◇◆◇◆
「文清は本当にバカ。なんであんなこと平気でしちゃうかなぁ」
「別に私達との約束は一年以内にCランクに上がるかどうかなのだから、他とパーティーを組んだらダメなんて話はないでしょう?」
「そうだけど……でも、私達とのパーティーは断るのに違う人とパーティー組むって……なんか嫌だ」
「思春期ね」
愛菜はネインに愚痴を溢す。
「分かってるけど、文清は悪くないって分かってるけど〜」
「仲直りしたいの?」
「……うん」
「全く、こんなだから男が寄ってくるのよ」
ネインは楽しそうに愛菜の膨らんだほっぺたを押す。
「ぷしゅー」
「ほら、謝るなら早くよ」
「文清怒ってないかな……」
「大丈夫よ。どうせ彼のことだから変な解釈して間違った方向に進んでるだろうから」
「文清のアンポンターン」
こうして決心がつく。
「謝る時はちゃんと目を見て謝るのよ」
「ネインは私のお母さんなの?」
「どちらかというとお姉ちゃんね」
それは二人にはよくある日常であった。
愛菜が問題を起こし、ネインが手を引き、そして一人がそれを笑う。
そんな当たり前だった日常。
「クリス……帰ってくるかな……」
「どうかしら。彼女の立場を考えると、難しいことなのは知ってるでしょ」
「うん。また今度遊びに行こうね」
「そうね。もう少し落ち着いたら、ゆっくりと」
そして
「いたわよ」
「え!!もう!!」
目的の人物の元に辿り着く。
「……」
「私の後ろに隠れても何も始まらないわよ」
「で、でも、なんて言えばいいか分からないよ」
「ごめんなさいと言えばいいだけよ」
愛菜は恐る恐る顔を出す。
そこにはいつものような姿をした、文清の姿があった。
「……」
愛菜は息を呑む。
そして決死の覚悟で前に出る。
「ごめんなさい!!」
全力で頭を下げる。
文清からの返事はない。
(もしかして、嫌われちゃったのかな……)
ゆっくりと顔を上げると
「……なんで笑ってるの?」
「いや……まさか俺が謝るつもりが先に謝られるなんて予想外過ぎて」
声を大にして笑う文清。
何故か愛菜の中には、不思議と怒りの感情が湧いてくる。
「な、なんで笑うの!!私がどれだけ悩んだか文清は知ってるの!!」
「いやだって……あはは、愛菜が真剣な顔で出てくるから俺嫌われたのかなって思ってさ」
「そ、そんなわけ……」
(あ、私と同じ……)
この瞬間、愛菜の中で生まれたのは
「私達……何やってるんだろうね」
笑顔だった。
「改めて愛菜、悪かった。二人との約束があったのに、他の人とパーティーを組んじまって」
「私の方こそ、勝手に文清の人生を縛ってた。ごめんね」
それから二人はお互いのことを話し合った。
Cランクに上がればパーティーを解散することや、元のパーティーメンバーが王都に住んでいることなど。
「へぇ、それじゃあ師匠に伝えておこうかな」
「何の話?」
「実はさ」
文清は二人に王都の話をする。
ネネが王都に行くこと、そしてついて行けば自分は更に強くなれること。
「まぁ二人との約束があるし、少なくとも残り一年はここに」
「行った方がいいと思う」
「愛菜?」
いつもと違った愛菜の様子に戸惑う文清。
「行った方がいいよ、絶対」
「でも、それこそ約束が」
「さっきも言ったけど、私は文清の人生を縛りたいわけじゃない。私がパーティーに入れたいのは、楽しいことに全力な文清だから」
「……」
今まで以上にひりついた空気が流れる。
「……俺は、行ってみたい」
「うん」
「愛菜達と一緒にいたい。芽依とももっと、冒険したい」
「うん」
「でも……それ以上に……もっと世界を見てみたい」
「言えたじゃん」
愛菜は笑顔になる。
「俺、世界よりも自分の楽しいこと優先しちゃってもいいのかな……」
「やっちゃいなよ!!世界とか、約束だとか、そんなもの気にするなんて文清らしくないよ!!」
「凄い嫌味なんだろうけど、実際そうだなって感じがしてなんか開き直りそー!!」
文清は叫びながら何度も何度も考える。
愛菜もそれに付き合って何度も叫ぶ。
「本当に仲良しね」
そんな光景を見ながらほくそ笑むネイン。
そして
「決めた!!」
文清は顔を上げる。
「俺、行くよ。王都に」
「……そっか」
愛菜は少し、寂しそうな顔をした。
自分でもめんどくさい女だと思いながらも、それでもいいやと思った。
「正直この街は大好きだ。まだ来て短いけど、それでも楽しいって断言できる。そんなここが好きだ」
「私も、私もこの街が好き」
「だから絶対に戻ってくる。向こうで強くなって、みんなを驚かせるような人間になって、帰ってくるよ!!」
意志は固まった。
もう迷いはない。
「愛菜、好きだ!!」
「うん、私も文清のこと好……好き!!」
「俺、愛菜と友達で本当によかったと思ってる」
「あ、そ、そうだね。友達としての好きってことね。もう、なんでこんなにバカなんだろうけど文清って」
「愛菜との別れは辛いけど、俺頑張るから。応援しててくれ!!」
まるで遠距離恋愛を始めるようなカップル同士のやり取りである。
「うん。頑張ってね、文清。そして絶対、強くなってきてね」
「任せろ!!」
熱い、熱い握手をする。
「あ、そうだ!!」
そして最後に文清は
「これ、渡すタイミング逃しちゃったから、今渡しとく」
「何これ?」
プニっとした感触のもの。
「ヒィ!!」
愛菜の手の中でうねる。
「この前見つけたスライム。ペットにしていいぞ」
文清にとってスライムは弱いか、強いか、エロいかの認識しかないが、この世界でのスライムの認識は
「文清なんか今すぐ出ていっちゃえ!!」
日本でのG(黒い悪魔)である。
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