第16話

「俺、本当に強くなってる」


 Dランクに上がった俺は、遂に討伐依頼を受けられるようになった。


 この世界は神様が言ってた通りバカみたいにモンスターがいる為、殺しても殺してもキリがないそうだ。


 だからといって放置するわけにもいかず、冒険者は永遠と人手不足だと言われている。


 そんなわけで依頼にあったゴブリン討伐に来た俺だが


「いや俺が強いのもそうだが」


 俺は爆炎剣を振り下ろす。


 ゴブリンの棍棒を貫通し、そのまま胴体を綺麗に二等分する。


「切れ味良すぎだろ」


 高いとは思っていたが、確かにこの威力なら納得だ。


 鍛えた力で岩すらも切れそうな剣を振る。


 正直そこいらのモンスターに負ける気はしないな。


「もしかして、このまま余裕でC級に行けたりなんて


「考えてた俺を殴りたい」


 大きな攻撃モーション。


 隙だらけのその腹に今すぐ攻撃をぶち込んでやりたいが、残念ながら俺の武器の方が既に遠くに吹っ飛ばされている。


「オーク強すぎだろ!!」


 身長が三メートル程あるそうな巨大な生物、オーク。


 知能はそこらの畜生以下のくせに、その無駄に発達した筋肉が強力な攻撃を繰り出し、逆にこちらの一撃を綺麗に防いでくる。


 一度その腹に剣を刺したが、その厚い筋肉に阻まれそのまま手放してしまう。


 オークは剣を遠くにぶん投げ、武器無しとなった俺を攻撃し続ける。


「一方的はよくないと思うんですけど!!」

「グォオオオオオオオオオオオ(でもお前もゴブリンを一方的に殺してたよね?)」

「それとこれとは話が別じゃん」


 オークの攻撃が擦り、頬から血が出る。


「あっぶ」


 もう少しズレてたら脳天が割れてたな。


「逃げるか?だが爆炎剣と依頼両方捨てることに……」


 この迷いがミスだった。


「グォオオオオオオオオオオオ!!」

「おいおい、そんな分かりやすく大振りに当たるはずなーー」


 ズキっ


「イッ!!」


 後頭部に大きな激痛が走る。


「テメ、ゴブリン!!」


 いつの間にか背後にいたゴブリンの奇襲を食らう。


 オークに視線を奪われ過ぎた。


「あ、まず」


 そして体制を崩した俺に向かって、大きな棍棒が振り下ろされた。



 ◇◆◇◆



「いやー、死ぬかと思ったぜ」


 全身包帯だらけになった俺は笑う。


 起きた時に隣に爆炎剣があった時は本当に嬉しかった。


 だが、目の前の人物はかなり怒っているようだ。


「調子に乗り過ぎ」

「面目ない」


 俺のピンチにいつも駆けつけてくれるヒーロー芽依さん。


 多分神様のアシストなんだろうな。


「モンスターを甘く見たら死ぬ。あの時それを教えたつもりだったけど」

「いや本当にすみません。完全に油断してました」


 ペコペコと頭を下げる。


 こんなに怒ってる芽依を見るのは初めてかもしれない。


「そもそも冒険者は普通一人で行動しない。パーティーを組むことが前提なのに、どうして清は一人で行くの?」

「だって……パーティーは色々面倒そうだし、俺を受け入れてくれそうな場所もレベルが違いすぎて気まずいしで……」

「はぁ、そのプライドのせいで死にかけたんでしょ?ならそれくらい妥協したら?」


 ド正論で耳が痛い。


 だが、ここで愛菜以外のパーティーに入るのも忍びないんだよな。


「う〜ん」

「……」


 こうなったら思い切って師匠に頼んでみるとか?


 でもあのエルフ忙しそうだしな。


 でも他の冒険者が果たして俺のような奴を受け入れてくれるだろうか。


「そんなに迷うなら、私と組む?」

「え?芽依と?」


 いやいやいや


「それこそレベルが違い過ぎるだろ。俺の戦闘力を1としたら、芽依の戦闘力は53万だぜ?」

「じゃあ清は他に当てがあるの?」

「いやないけどさ……」


 それだと結局愛菜達と組むのと変わらないしな〜。


「別に、私はあなたの冒険を邪魔しない。ただ後ろから眺めてるだけにする。それならどう?」

「いやそれは助かるけど、それだと芽依に何のメリットもないだろ」


 芽依は考えるように少し喋らなくなる。


 少しだけ沈黙が流れ、そして


「一つだけ、お願いがあるの」

 


 ◇◆◇◆



 そこは何もない場所だった。


 正確に言うのであれば、何かがあった場所。


 かつては多くの人で賑わい、笑顔の絶えない、そんな心温まる風景があったのだろう。


 そして今は、ただの荒野でしかない。


「随分と綺麗にされてるんだな」

「この前掃除に来たばかりだから」


 墓があった。


 大きな一つの墓石に、おそらくここで死んだ村人達の名前が連なっている。


 死者を弔うというより、どこか贖罪を含めた墓に見えた。


「待ってて。少しだけ綺麗にするから」


 それから数十分かけ、芽依は慣れた手つきで掃除を終えた。


 何度か手伝おうとしたが


「これは私の仕事だから」


 そう言って、結局最後まで自分の手で全て終わらせた。


「ごめん、待たせて。暇だった?」

「俺は妄想の世界に入ることで一日を一瞬で潰すことができる特殊能力持ちなんだ」

「よく分からないけど、楽しそうで何より」


 そして、やっとこさ俺の仕事がやってくる。


 俺は墓の前に立ち、花の束を供える。


「ありがとう」


 生きる為に不必要な生命との接触は、彼女には許されていない。


 こうして、花を供えるという当たり前のことですら彼女にとっては難しいことだった。


「今までは誰に頼んでたんだ?」

「私、友達は清以外いないから……」

「なんかごめん」


 微妙な空気が流れる。


「一応、なんか言っておくか」


 俺は手を合わせる。


 別に顔すらも知らない相手だ。


 少し同情はするが、俺の気持ちとしては


「お前らは、満足に逝けたのか?」


 芽依はずっと悩んでいる。


 自分のせいで、村のみんなが不幸なまま死んだと。


 いや、殺したのだと。


 死人に口なしという言葉があるように、こいつらがどんな気持ちであの世に行ったのかは分からない。


 それでも俺は、信じたいんだ。


「お前らがあの子に託した思いは、きっと呪いなんかじゃなかったって」


 もし彼女の人生がお前らにとって不服なものだってなら、その願い


「俺が叶えてやる」


 死者に言葉はない。


 だが、死んだ人間の思いが消えるわけじゃない。


 俺が母さんに残した言葉が残り続けるように、死んだ人間の思いは残り続ける。


「……帰るか」


 こうして俺は、C級に上がるまでという約束で芽依とパーティーを組むことになった。


 まさかそれが、あんな大事に至るとはこの時は誰も予想していなかった。



 ◇◆◇◆



「周りの視線が凄く痛い」


 この感覚は、俺が愛菜と喋っている時以上のものだ。


 嫉妬というよりも、なんかヤベェ奴みたいな空気だな。


「まぁどうでもいいか」


 気になりはするが、実害がないなら問題ない。


 俺は昔からソロには慣れているんでな。


「すみませーん。この依頼いいですか?」

「……」

「あれ?どうかしました?」

「あ、申し訳ございません。……はい、問題ありません。手続きはしておきますね」

「ありがとうございます」


 いつもしっかり者の受付のお姉さんが、今日は俺の顔をぼーっと眺めていた。


「あの……失礼ながらよろしいでしょうか?」

「はい、なんですか?」

「その……芽依様とパーティーを組まれたという報告があったのですが、本当でしょうか?」

「そうですね。まぁ俺がCランクに上がるまでの期間になると思いますがね(ドヤ顔)」

「そ、そうなんですね(この前大怪我して帰ってきてたはずだけど……)」


 やはり、芽依とパーティーを組んだことは噂が立つか。


 まぁ逆の意味で人気者だしな。


「ですが、文清様は確か愛菜様のパーティーに誘われていたのでは?」

「あー、はい、そうですね。まぁ色々思うところがあって断ってますね」

「な、なんだか文清様は……その……変わっていますね」

「よ、よく言われますね」


 俺だってそういうの普通に傷つくんだからね!!


 全く勘弁しちゃうわ!!


「お時間を取らせて申し訳ございません。冒険、頑張って下さい」

「応援よろしくお願いしまーす」


 俺は早速討伐依頼を手に取り、ギルドの外に出た。


「よっしゃ、行くか芽依」

「そうやって油断してるとまた怪我するよ?」

「大丈夫だ。もう二度と油断はしねぇ」


 でもそれはそれとして、冒険が楽しみなことに変わりはない俺は芽依と共に外に出ようとしたところで


「ちょっと待った!!」

「そ、その声はまさか!!」


 振り向いた先には


「文清、これは一体どういうこと!!」


 修羅場が待っていた。


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