第14話

「まずは部屋の掃除じゃ!!」

「分かったぜ師匠!!」


 床に落ちている色んなものをゴミ箱にシュートする。


「師匠!!触るな危険と書かれたドクロマークの液体が出てきました!!」

「うむ、それを外に出せば辺り一体が吹き飛ぶからの。慎重に捨てるのじゃ」

「師匠!!国の闇についてと書かれた機密情報みたいなのが出てきました!!」

「うむ、おそらく一ページでも世に出回れば、まず間違いなく内戦が起きる。丁重に捨てのじゃ」

「師匠!!師匠の猫ちゃんパンツが出てきました!!」

「うむ、それは儂のお気に入りだったが突然無くなってしま……それは見ないでぇ〜」


 少し泣き目になりながら、猫ちゃんパンツを奪い取る師匠。


「下着をそう易々と掴むな!!」

「色気ゼロだったもんで」

「喧嘩を売っておるのか!?」


 芽依とここに辿り着いた次の日のこと。


 俺は結局師匠に弟子入りし、強くなるための方法を教わりに来た。


『これを持っておればここまで安全に来れる』


 そう言われて持たされた謎のカードのお陰で、芽依なしでも一人で来られるようになった。


 まぁそれはありがたいことだが


「なぁ師匠。掃除したら本当に教えてくれるのか?」

「もちろんじゃ。そもそも何の見返りもなしに何かを教われると思うなよ、我が弟子」

「確かに」


 諭された俺は、掃除を続ける。


 家は小さい割に無限にゴミで溢れているため、結局かなりの時間を掃除に使い捨てる。


「終わったぁあああああああああああ」

「お疲れ様。ほれ、ご褒美じゃ」

「どもー」


 掃除を終えた俺に、師匠は一本のジュースを手渡す。


「美味しい。師匠これ何?」

「儂が適当に混ぜて作った謎のドリンクじゃ」

「ふ〜ん……これ死なない?」

「それを今試しているのじゃろ?」


 俺、師匠間違えたかも。


「さて、次は洗濯でもしてもらおうかの」

「まだあんのかよ!!」

「だって儂周りが綺麗じゃないとやる気が出ないんじゃもん」

「黙れロリババア。じゃあ日頃から片付けしろや」

「師匠にババアとはなんたるいい草じゃ!!このバカ弟子!!」


 ギャースカと喧嘩をしたが、仕方なく折れた俺は洗濯物を干す。


「何も魔法撃つことないじゃん。魔炎龍の腕吹っ飛ばした人の魔法とかシャレになんねぇよ」


 俺は子供用の服を外に干す。


 周りにはギラギラと獣の眼光を持つモンスターが見えるが、こちらに見向きもしない。


 ロリ好きなのかなと思ったが、おそらく結界による力なのだろう。


 こうして見ると師匠の実力は疑いようがないのだが、果たして本当に俺は強くなれるのだろうか。


 そんな不安を抱えながら、俺は犬の描かれたパンツをお天道様の下に捧げたのだった。



 ◇◆◇◆



「師匠、皿洗い終わったよー」

「うむ、それではご褒美じゃ。これでも食べておけ」


 あれから洗濯、風呂掃除、料理に肩揉みなど色んなことをする。


 その度に師匠から与えられる得体の知れない物を飲み食いさせられる。


「これで洗脳とかされないよな?」

「どうじゃろうな。惚れ薬でも作れたら、儂も巨万の富を作れると思うが」


 味だけは美味しい謎の物体を食べ終える。


「それで師匠。次は何を?」

「……少し外に出るかの」

「外?」


 師匠の小さな背中に追って外に出る。


 青く生い茂った草原が目に飛び込んだ。


「おそらくじゃが、我が弟子の魔力は英雄の末裔に奪われておる」

「どうしてそれを!!」

「なんじゃ、知っておったのか」


 温かな天気の下に出る。


「儂が飲み食いさせたあれらは、主の魔力の在り方を探るものじゃった」

「まさかあれらにそんな意図があったとは……」


 俺の体で実験するクズ野郎って思ってすみません。


「儂が今まで見てきたあらゆる魔力障害の症状とも一致せぬ。儂の知らない新たな奇病の可能性もあるが、英雄の末裔と一緒だった弟子ならば可能性で言えばそちらの方が高い」

「もしかして師匠って頭いい?」

「もしかしなくても頭良いに決まっておるじゃろ」


 そんな威張ってるけど家事一切出来ないくせに。


「なんじゃその目は」

「なんでも」

「弟子のくせに師匠をバカにしおって」


 少し怒り気味の師匠だが、話は続けてくれる。


「一応魔力を戻す方法は予想がついておるが、聞くかの?」

「是非!!」

「英雄の末裔、つまりはあの娘の好感度を爆盛りすることじゃな」

「……どゆこと?」


『やっと辿り着きましたね』


 久しぶりの God’s ボイス!!


『すみません、色々と制限が厳しく伝えることが出来ませんでした』


 相変わらず神様業界も大変そうだな。


『私が力足らずなことは文清も知っての通りですが、必ず答えはどこかに転がっています。どうにか諦めず、前に進んで下さいね』


 なんだか実家のような安心感があるな。


「そもそも英雄の力はどれもこれも前向きな力しかなかった。儂の知る限り、生命に力を与える力はあったのじゃが、奪うものはなかった」

「それは……偶然違う力が生まれたからじゃないのか?」

「それも可能性の一つじゃが、儂が思うにその力はあの時と同様なものじゃと思う。ただ、力の行き先がマイナスになっておる」


 師匠が言うには、本来の芽依の力は奪うものではなく与えるもの。


 それが彼女の心により、反転してしまっているのが今の状態だと師匠は考えている。


「じゃあ芽依が俺に対してその力が働けば」

「本来の……いや、本来以上の魔力が返ってくるじゃろう」

「じゃあ早速芽依のところに!!」

「待て待て、そう急ぐでない」


 師匠は動いてすらいないのに、俺の体が固定される。


 これも魔法か。


「あの娘はかなり深刻な心の傷があると見えた。そう簡単に解決出来る問題ではなかろう」

「まぁ……確かにそうだな」


 俺が冷静になると、拘束が外れる。


 やっぱり、魔力があるだけで全然違うなと心の中で思った。


「ならば今は別の方法で強くなるとしよう」

「別の方法?」


 師匠が取り出したものは


「筋トレじゃ」



 ◇◆◇◆



「ほれほれ、腰が浮いておるぞ〜」

「グッ!!こんなロリにいいようにされるなんて……」

「だから儂はロリではないと言っておるじゃろう」


 俺は幼女を背に乗せながら何度も腰を上げ下げする。


 特定のマニアには喜ばれる状況かもだが、俺はそこまでガチじゃない為普通にキツい。


「筋トレ……したくらいで……魔力に……勝てるとは思え……ないけど!!」

「そんなこと主よりも儂の方が知ってるに決まっておろう」

「じゃあ俺何させられてるの!!」


 力尽き、地面に倒れる俺を師匠は手を叩きながら笑う。


 クソ、絶対いつか分からせてやる!!


「何も主の目的は対人戦じゃあるまい。別に魔力に勝とうなど思わんでもよいじゃろ」

「でもさぁ、俺そいつらよりも強くなりてぇよ」

「そう子犬のような目をするでない。妾が何の策も無しに行動するはずなかろう。ほれ」


 師匠が何かを放り投げる。


 慌てて俺はそれをキャッチする。


「何これ?」

「ダンジョンを知っておるか?」

「ダンジョン!!この世界ダンジョンあんの!!」

「随分と世間知らずじゃの」


 異世界あるあるダンジョン!!


 この世界にもまさか存在したなんて


「心躍るぜ!!」

「まぁ主が行ったところで瞬殺もいいところじゃがの」

「その為の師匠じゃないっすか〜」

「急に媚びるな気持ち悪い」


 俺が強くなる理由がまた増えてしまった。


「ダンジョンに現れる宝箱の中には未知の道具がよく見つかってな。その中で、儂は面白いものを見つけたのじゃ」

「それがこの……指輪?」

「つけてみたらどうじゃ?」

「おう。もしかしてこれを使えば魔法が使えるとかじゃーー」


 ガチャリ


「……」


 俺は指輪を外そうとするが、まるで指に付着したように取れない。


「……師匠」

「本日のノルマはどうじゃ?」

「師匠これはもしかして」


 俺の目の前に不思議な画面が現れる。


 ーーーー


 本日のノルマ

 腕立て伏せ50/100

 上体起こし0/100

 スクワット100/100

 ランニング0/10k

 ・

 ・

 ・

 ・


 成功による報酬ー筋力

 失敗による奪取ー魔力


 残り時間[24,00]


 ーーーー


「さて弟子よ」


 師匠は笑いながら


「死ぬ気で頑張るんじゃぞ」


 俺は異世界で初めて涙を流した。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る