第7話
街を離れた森の中。
ここから先はモンスターの蔓延る世界。
街の中は現代日本と大して変わらない景色だったが、外を出ると一変。
手付かずの土地は、俺のイメージする異世界そのものであった。
と言っても、基本街の近くのモンスターは狩りつくされているため安全だが、時よりそんな警戒を抜け潜むやつがいたりする。
だから一度街を出たら既にそこは死地である。
「ええっと……場所はどこだ?」
俺は地図を片手に森を歩く。
「ここを右に行って、それからこの道を……あれ?」
最新の機器に頼りすぎた弊害が出てしまっている。
こういうことならゲームばかりせず、外で遊べばよかったかもな。
「よし、後はこの道を右に」
「看板見てごらん」
「看板?」
俺は茂みの中にある看板に気付く。
『この道危険。左の道から行くべし』
「……」
もう少し分かりやすく置いて欲しいものだ。
てか
「どうしてここにいるんだ?愛菜」
「えへへ、こんにちは文清」
「こんにちは。で?質問の答えを聞いてないんだが?」
「文清が武器屋に入るのが見えてね、なんか凄い武器持って行ったから驚いちゃって。心配だからついてきちゃった」
テヘペロと可愛らしいことをしるが、それ美少女限定なの知ってるか?
長所を活かすのは大事だが、謙虚さも持とうな。
「でもたかが薬草採取だ。特段心配することないだろ」
「むぅ。実際、今かなり危険なことしようとしてた人に言われたくないね」
「グゥ」
ぐうの音も出ない。
「それにこれ」
「これ?」
愛菜が指差す方を見ると
「……どちら様?」
「追い剥ぎ。初心者で高価な武器を買った人を襲って奪おうって魂胆だね」
「怖」
マジか。
フィクションだけと思っていたが、マジでこういう盗賊まがいのことするんだ。
治安最悪だな。
「でも弱かったよ。そもそも、高価な剣を買える実力があるなら盗賊なんてしないからね」
「それもそうだが、俺が果たして勝てるのかどうか」
いや、俺が勝てたかどうかは問題じゃないな。
今はそれより
「ありがとう愛菜。正直助かった」
「どういたしまして」
天使は微笑む。
悪い神様。
俺の信仰すべき存在を見つけちまったよ。
「文清が冒険を楽しみたい気持ちも分かるけど、その前に死んじゃったら意味がないよ?」
「ごもっともです」
「だからせめて、文清が慣れるまではパーティー組まない?」
「ん?まだ諦めてなかったのか?」
「酷い!!」
いやだって
「俺はもうE級で登録したからな。この前のランク詐欺はもう出来ないぞ?」
「うん知ってる」
知ってるんだ。
じゃあ尚更何故?
「私が個人的に文清とパーティーを組みたいと思ったの」
「……俺は愛菜とは友達と思ってる」
「う、うん。そう面と向かって言われると恥ずかしいね」
「だからこそ言うが、俺は愛菜の足を引っ張りたくはない。楽しいと思う気持ちよりも悔しいと思う気持ちが勝る気がする。そんな状態で、俺は一緒に冒険者したくはない」
俺は真っ直ぐと愛菜に本心をぶつける。
愛菜もまた、俺の目をジッと見つめ返す。
そして
「ブゥ」
唇を尖らせる。
「じゃあ勝手に同行させてもらいます」
「いやいやそれは……正直助かるけど……」
「文清が言ったんでしょ?自分は弱いって。文句があるなら私を倒してから言いなさい」
仁王立ちする愛菜。
全然威厳がない。
だが、胸に飾ってある赤色のプレート(C級)は、俺じゃ勝ち目がないのは一目瞭然だった。
「やっぱ勝てねぇな」
「女の子は強いんだよ」
「絶対に愛菜自身の強さだろ」
俺はなし崩し的に愛菜と行動を共にすることにした。
愛菜は優しい上に気を遣えるため、俺にアドバイスはするが進む道などは全て俺に委ねてくれる。
あくまでこれは俺の冒険であると彼女は理解しているのだろう。
そして遂に
「着いた」
「おめでとう文清」
そこには視界いっぱいに広がるの薬草畑があった。
「これ、全部持っていったらダメなのか?」
「生態系が崩れるからダメだって」
「なるほどな」
山のようにあるが、逆にいえばここ以外には生息できないのだろう。
一気に持っていき絶滅したら大変なんだろうな。
「依頼の量以上持っていけば犯罪者になるから気を付けてね」
「怖いな普通に」
元々指定された量以外持って帰るつもりはなかったため、とりあえずその分を摘む。
「なんか悪いな、付き合わせて」
「だから言ってるでしょ、私は好きでやってるだけだから」
「だとしても、ありがとう」
「……」
何故か返事が返ってこない。
「どうした?」
「やっぱりパーティー組まない?」
「何度も言わせるな」
「これでも私達のパーティー人気なんだよ?」
むしろ人気じゃない方がビックリだろ。
性格も顔もいい女なんて全ての人類の理想系だぜ?
俺の初恋が二次元じゃなかったらとっくに惚れてたな。
「だからこそ俺じゃなくてもいいだろ。もっとイケメンで性格がいい奴がいるって」
「む、まるで私がそういうところしか見てないだけの女みたいに言わないでくれる?私はそんな表面だけしか見ない人間じゃないよ?」
「なんかごめんなさい」
俺表面的にしか人見てなかったみたい。
恥ずかしい。
「私が文清に惚れ……一緒にいたい……んん?どうしよう文清!!どんな表現をしても恥ずかしい言い方になっちゃう!!」
「知らんよ。俺の方が若干恥ずいわ」
「う〜……そ、そう!!仲間にしたいと思ったのは」
最終的に少年系雑誌の表現になったようだ。
「……やっぱり言うの恥ずかしいから無しで」
「なんなんだマジで」
溜めた割に答えはくれなかった。
まぁ別にいいけど。
「よっし」
俺は薬草を持ってきたバッグに詰め込む。
「これで依頼達成だな」
「ノンノン。ダメだよ文清。依頼は帰るまでが依頼なんだよ?」
「遠足かよ」
だが実際もう終わったようなもんだろ。
帰り道も今なら大分覚えている。
これで遭難したなんてこともないだろう。
「冒険に油断は禁物だよ、文清」
「ハハ、流石にもう大丈夫に決まってーー」
ガシッ
「ガシ?」
「ふ、文清!!」
何が起きたかも分からず
「う、うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
俺は空中へと投げ出される。
「ど、どうなってんだこれ!!」
下から何度も叫んでいる愛菜がドンドン小さくなっていく。
「これは……爪?え、待って、俺もしかして」
上を見上げる。
「ど、どうも」
「キェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ」
全長3メートルはある烏の姿をしたモンスターに捕まってしまった。
いやなんでだよ。
「こんなヤバそうなやつがこんな場所にいるとか、色々間違ってるだろ」
なんかいい感じに風避けされ、握られる力も強くないため平気だがこれ普通にヤバいよな。
だがここで暴れて落ちると確実に死ぬ。
冷静になったところで結局何もできないわけだ。
「空、綺麗だなぁ」
悟りを開いた俺は、しばらく空の旅を楽しむのだった。
◇◆◇◆
「……あ、ども」
謎の洞窟に辿り着く。
そこには何匹もの俺くらいの大きさをした烏の雛がいた。
「やっぱ餌いきですか?俺、運動しなかったんで美味しくないと思いますよ?」
そんなことを言ったところで通じるはずもなく、俺はそのまま雛達の巣の中に放り込まれる。
「たい焼きをどこから食うか論争があるが、果たして人間はどこから食うのがベストなんだろうな」
俺は巨大な雛達に質問を投げかける。
返ってきたのは
「キェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ」
「そっすよね」
流石に死んだかな。
神様どうにかできないっすかね?
『ご安心ください』
え!!
今から入れる保険でもあるんですか!!
『保険というよりも』
コツコツ
『災害ですね』
モンスターが一斉に洞窟入り口を向く。
「……何やってんの?」
「捕まっちった」
「バカなの?」
「バカかどうかで聞かれたら、めちゃくちゃバカだな」
「……そうなんだ」
興味なさげな様子だが、モンスター達は逆。
今もなお、彼女の動きに視線を向け続けている。
「とりあえず動かないで。変に殺されたくなかったら」
「精進します」
芽依が少しずつ近づく。
モンスターは自身の異変に気付き、逃げようとするが既に足は動かない。
「チート過ぎん?」
俺も段々苦しくなってきたな。
でも、慣れてきたらちょっと楽しいかも。
「なんで嬉しそうなの?」
「いや、ちょっとワクワクしてて」
モンスターが泡を吹き始める。
さっきまで俺を食おうと生き生きしてたのに、可哀想だなぁ。
「どういう感情?」
「なんだろうな〜、あ、息出来んから喋らなくていいか?」
「黙れ」
さすがに苦しいな。
視界もボヤけるし、吐き気も凄い。
あ、雛も含めてみんな気絶しちゃった。
「……」
「何?」
「……」
「今離れてるから急かさないで!!」
「……う」
「まだ喋らなくていいから!!」
呼吸ができ、腕も上がるようになる。
俺はサムズアップし
「ありがとう」
「わざわざそれを言うためだけに……バカじゃないの?」
「バカかどうかで聞かれたら」
「それはさっき聞いた!!」
洞窟内だから声が響くなぁ。
「礼を言わないと、騎士の流儀に反するんでな」
「騎士……」
「武士の方がいいか?いやどうでもいいか」
俺は周りの景色を見る。
「なんで俺は大丈夫だったんだ?」
「調整してるからに決まってるでしょ。あなたには影響が少ないようにしたの。それでも普通、大の大人でも気絶してるはずだけど……」
「へぇ、器用なんだな」
「何?その言葉が褒め言葉になってると思ってる?」
「器用さは大事だぞぉ。クリティカルが出やすいからな」
「邪魔だから端っこ寄ってくれる?」
もう少し話してみたいが、これ端っこいかないと怒りそうなので素直に横にそれる。
「そういえば、どうしてこんな場所にいるんだ?」
「私の台詞なんだけど」
「俺は知っての通り誘拐された」
「知らないから」
奥へと進み、何かを探し始める芽依。
「……その背中の剣のせいでしょ」
「これか?」
俺は未だに一回も使用してない剣を取り出す。
力が弱まってるせいでめちゃくちゃ重く感じる。
「希少な金属が使わてる。それを狙ったんでしょ」
「なるほどな」
なんか剣買って悪いことしか起きてない気がするの気のせいか?
いや、違うか
「お前に会えたなら買って正解だったな」
「……キモ」
「ふっ、おもしれー女」
「は?」
「ごめんなさい」
ふーむ。
今までの人生、人と仲良くなった方法がこれしかなかったからか正解が分からん。
少なくともこれは間違ってる気がする。
「愛菜に聞いておくべきだったな」
そういえば愛菜は大丈夫だろうか。
今頃騒ぎになってないといいが
「あった」
そして芽依は何かを拾う。
「指輪?」
「今回の依頼。婚約指輪を落としたらしい。痕跡でこいつらが奪ったことが分かったからここに来た」
なるほど、依頼だったのか。
「じゃあ私行くから」
「え?置いてくの?」
「冒険者でしょ?自分でなんとかしてよ」
「でも足が一歩も動かないんだけど……」
「それくらい自分でどうにかして」
「……それもそうだな。じゃあ、またな」
「……」
そして洞窟を出ようとした芽依だが
「……」
「どうした?」
芽依の目の前に一匹のモンスターが空から襲ってくる。
先ほどの烏だ。
「まだ仲間がいたの」
体格差は何倍も違うが
「邪魔」
芽依が睨みを効かせると、モンスターは一瞬で空中から地面へと落ちる。
「カックイー」
「……」
呪いだなんだと言われてるが、こうして見るとホントカッコいいな。
触れずに敵を倒すとかロマンでしかない。
「なんか色々ありがとな。じゃあ気をつけてな」
「……雨、降ってきた」
「ん?いや降ってきてな……そうだな、降ってるな」
「雨宿りした方がいいんじゃないか?」
「しょうがない」
芽依は入り口の前に座り
「足が動く頃には止んでる気がする」
「そうだな」
こうして俺と少女の、奇妙な雨宿りが始まるのだった。
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