軽く厨二病を患ったので、呪われた少女を救ってみようと思う
@NEET0Tk
プロローグ〜呪いと祝福は突然に〜
「残念ながら、あなたのお子様の状態は」
俺の心臓が揺れ動く。
生まれつき少々体の弱い俺は定期的に病院に通っている。
今日もいつも通り母親と病院に行き、病院内で軽い目眩に襲われ足を滑らせてしまった。
頭をぶつけてしまった俺はいくつかの検査をすることになった。
途中から意識がハッキリとし、問題はないだろうとたかを括っていた俺。
最後に医者との問答を終えた時点で医者の表情が一気に暗くなる。
きっと俺はかなり危険な状態なのだろう。
余命を告げられるのかもしれない。
これまでの人生、思い残すことがまだまだ……見たいアニメの続きしか思い入れないや。
てか頭ぶつけた後に余命とか絶対なんかの力に目覚めてるじゃん。
ヤベェめっちゃ興奮してきた。
心臓昂る〜。
さぁ、俺の状態って一体なんなんですかお医者様!!
「厨二病です」
◇◆◇◆
厨二病
それは漫画やアニメのような現実ではない世界に憧れる存在。
そしてその中でも、現実にまで影響を及ぼし始めると末期と呼ばれ、煙たがられるかおもしれぇ奴的な評価を受け始める諸刃の剣。
そんな厨二病と診断されてしまった俺こと阿部文清、ピチピチの17歳である。
「酷いよな。別に俺は邪眼とか魔剣とかが本気でこの世に存在してると信じてるだけなのに」
数少ない友人にチャットを送ると
『間接的にバカだって言われたんだよバカ』
思ってた数千倍の塩対応が返ってきた。
「……だってしょうがないだろ。普通の人が自分にない美貌や権力、財宝に憧れるように、俺らはただ自分にない物語や世界、力に憧れちまっただけだ」
そいつらは一生懸命頑張ればそれが手に入るのだろう。
じゃあ俺らはどうすればいい。
頑張ったところで魔法が使えるか?
金があれば魔剣が買えるのか?
待てばこの世界にドラゴンのようなモンスターが現れるのか?
人はそれを非現実的だと一掃する。
まるで自分の思想こそが正しいと言わんばかりにだ。
お前らの憧れと俺らの憧れの違いなんて
「実はほんの少し、世界が違っただけなんじゃないのか?」
[メッセージが届きました]
「あれ?」
なんかきた。
「迷惑メールか?」
俺はその内容を確認し、少し笑ってしまった。
「ああ、本当にそうだったらよかったのにな」
詐欺かもしれない。
それでも俺はつい、その魅力的な内容を押してしまった。
[およそ五時間後に転移が完了します。それまでに心残りがないよう願っています]
メールはそのメッセージと共に消えた。
「心残り……ね」
「清ーご飯出来たからー」
「分かった」
俺はパソコンを閉じ、リビングへと向かった。
[転移するまで後4;59]
◇◆◇◆
「カレーうま」
さすが万人に愛される料理。
俺の一番好きな料理は唐揚げだが、初めて料理を食べる人にオススメの料理があるなら俺は迷わずカレーを選ぶだろう。
そもそも初めて料理食うやつ誰だよ。
「声に出てる。食事中くらい静かにしなさい」
「あいよ〜」
皿を洗いながら、独り言を喋る俺を注意する母親。
「その頭がぶつかってできたものならどれだけ良かったことか」
「失礼だろ、実の息子に」
厨二病と申告された時の母親は、これまでにないほど恥ずかしそうな表情を浮かべていた。
あの瞬間は流石に申し訳なく思った。
「担当してくれた人が指を1本立てた時に5と答えた時は驚いたけど、あなたがこれまでの人生で正確な数字を言えたことがないことを思い出したわ」
「これでも数学はそれなりに得意なんだぞ?ただ何故か、名前が違うという理由で怒られるが」
「今回はなんて書いたの?」
「忌子」
「実の息子に言いたくないけど、本当に忌子よあんたは」
「へへ、照れるだろ」
大きなため息を吐く母親。
自分でも自覚するレベルで面倒な俺に付き合ってくれる本当にしっかりした人間だ。
「なら少しでも親孝行しなさいよね」
「バイト代なら仕入れてるだろ?」
「お金の話じゃない」
母は手を動かすのを少し止め
「あんたの将来が心配よ、本当」
「大丈夫大丈夫。俺トラックに轢かれて転生するから」
「……そういうところが心配なのよ」
もう一度手を動かし始める。
母はこうして時々どこかもの寂しそうな感じになる。
それはいつ頃からかと言われたら
「再婚でもしてみたら?」
「清が私に少しでも心配かけなきゃ考えるわよ」
「俺のせいにしないでもらえます?」
「なら今日から自分のご飯は自分で作って」
「いつも感謝しておりますお母様」
ニギニギと手揉みをする。
強者には逆らわないのが俺流の処世術だ。
「清の厨二が治って、彼女の一人でも連れてきたら考えてもみるけど」
「普通の恋愛には興味ありません。勇者か魔王、もしくはシリアス満載な過去を持つ女の子ならワンチャンかなぁ」
「はぁ……全く誰に似たのか」
誰に似たかどうかで言えば、間違いなくもう片方であろうな。
「母さんも苦労人だよな」
「うるさい誰達のせいだと……さっさと食べなさい。このまま全部洗いたいから」
「うぃ〜」
俺はカレーをパクパクと口に運ぶ。
そしてなんとなく、さっき届いたメールのことを思い出す。
「なぁ母さん。俺が先にいなくなったらどう思う?」
「殺す」
「いやもう半ば死んでるんだって」
「私も死んで殺しに行く」
「愛の形が怖いよ」
多分、厨二の面だけならこの人の影響もある気がする。
「俺も父さんも、そこまで縛られる必要はないって思ってるよ」
「……ホント似てきたわね、あの人に」
「どっちもバカなんだよ。母さんみたいにあれこれ考えられない。だけど、そういう時の方が案外答えに辿り着くことが早い時もある」
ご馳走様と言い、俺は皿を洗い場に置く。
「父さんは言えなかったから、代わりプラスいつ何があってもおかしくないから言っとく。母さんはさ」
俺の分まで幸せになってくれ
「この厨二が」
「こんな台詞を簡単に言える自分が誇らしいぜ!!じゃあ遊び行ってくる」
こうして俺は最期に言いたいことを伝え、家を後にした。
[転移するまで後4;01]
◇◆◇◆
「今なんて?」
ゲームを触っていた友人が手を止める。
「だから、俺ワンチャン今日で消えるかも」
「遂にそこまで来たか」
「おう!!その諦めたような顔はなんだ!!こっちは真剣なんだぜ!!」
「真剣に言ってるならそれこそ病気だ。病院行ってこい」
「症状は厨二だ。処置は不可能だそうだ」
「乙」
またゲームをぴこぴこし出した友人。
一応本気のつもりなんだけどな。
「てか、俺は別に文清が消えたところで他にも友達いるから別に悲しまんて」
「そういう言葉のナイフは男女、年齢、種族そして厨二にも刺さるから気をつけろ?本物出すぞ?」
「お前が騙されて買った魔剣ならそこに転がってるけど?」
「あいつを先に殺すべきだったな」
なんか色々どうでもよくなり、俺もゲームをする。
「異世界か」
「話聞いてたのかよ」
「胡散臭いとしか思わないけどな」
「俺もまた詐欺かと思ったよ」
でも、気になってしまった。
「詳しく」
「異世界で近い将来、呪いにより世界が滅びるらしい。それを俺に救って欲しいそうだ」
「王道RPGかよ。なんだ?勇者にでもなるのか?」
「いや、むしろ特別な力は一切渡さないらしい。世界のバランスが壊れる要因だからだそうだ」
「モンスター溢れる世界で能力なしは無謀だろ。死にに行けってか?」
「さぁな。なんか俺みたいな狂ってる奴じゃないとダメらしい」
「それが本当なら人選は完璧だな」
「どうだろうな。俺は厨二であること以外普通だろ」
すると友人が笑い出す。
こいつは時々、俺の何気ない一言に笑い出す頭のおかしい奴だ。
「あー、笑った笑った」
「ご苦労様」
「なぁ、覚えてるか?」
「何が?」
「俺らの学校に不審者が来た事件」
「ん?ああ忘れるか。あんな憧れの事態が起きるなんて夢にも思ってなかった」
あの日はワクワクしたな。
毎日妄想していたことが現実に起きた。
犯人は学校の近くに住んでいた、精神がイッちゃってる人が突然包丁を持って現れた事件。
「あの時、お前はどうした?」
「犯人を倒した」
「そうだな。足を刺されて病院まっしぐらだったな」
あれは非常に痛かった。
漫画のキャラが刺されても余裕そうに動くが、俺は歯を食いしばりながらでないと無理だったな。
いつかはナイフで刺されたくらいで騒がない主人公みたいな男になってやる!!
「本当にそんな状況でも動ける人間なんていない。勇者に憧れ、死ぬ可能性のあるモンスターに挑める奴なんて普通いない。そんな中で文清。お前は嬉々としてそれに突っ込む」
「いやいや、オタクもとい厨二はみんなそうだろ?」
「お前は厨二病の奴をみんな超人か何かかと思ってるのか?つまり、頭のおかしさで選んだなら、お前は間違いなく正解だ」
酷い言われようだ。
これでも社会に生きていけるよう頑張ってるのに。
「それでお前は行くのか?異世界」
「当たり前だろ。行かない理由はちょっとしかない」
「ちょっとあるのか」
「ああ。そのちょっとを今、終わらせに来た」
「なるほどな」
しばらく部屋にはゲーム音だけが鳴った。
「楽しんでこい」
「お前ならそう言うと思った」
俺は最期に目一杯ゲームをし、見事ボコボコにされた。
[転移するまで後1;26]
◇◆◇◆
「親にも友達にも別れは伝えたし、見たいアニメも大体見た。あとは何が残ってたかな?」
俺は月明かりの下をプラプラと歩く。
今日は綺麗な満月に見えるが、携帯を確認すると明日が満月らしい。
「見えてるものが全てじゃない、ってことか」
俺は月を見ながら自然と言葉を漏らす。
ちなみにカッコいい以外の意味はない。
「呪いか〜」
俺はメールの内容を思い出す。
もし仮に、あれが本当だとしたら
「夢が……叶うのかもな」
淡い期待だった。
絶対に無理だと周りが、自分が理解していた。
それなのにこの思いを止められずに生きてきたのは、もしかしたら
「……ん?こんな場所に女の子?」
[転移まで後0:30]
暗い夜道の真ん中
街灯の下に、一人の少女が泣いていた。
少女といったが、その見た目は長袖長ズボン、ロングブーツに帽子、そして顔を隠すようなマスクをつけている。
ぱっと見ただの不審者である。
だが、その背丈や声的に女の子なはず。
「こんな時間に……警察……いや、何か事情があるのかも」
こんな時間に外に出歩くというのは特殊な事情があるからだろう。
おそらく親子喧嘩。
もしこれで警察を呼び、事態が大きくなればこの子と親との関係は更に悪化する可能性がある。
そうとなれば
「君、大丈夫?」
「え?」
優しく声を掛ける。
「だ、誰?どうしてここにいるの?」
よかった、ちゃんと女の子だ。
多分中学生くらいだが、どこか大人びていると思った。
それになんだか女の子に近付くにつれ、胸が苦しくなる。
恋にでも落ちたか?
「親と喧嘩でもしたのか?」
「親……喧嘩出来たら、どれだけよかったのかな……」
おっとー
こりゃ思ってた一千倍は厄介な案件だぞー
興奮してきたなぁ。
「それは悪いことを聞いた。じゃあ、どうしてこんなとこに?」
「……ここ、どこ?」
ありゃりゃ
「覚えてないのか?」
「覚えてない。さっきまで私、自分の部屋にいたはずなのに……」
女の子は本物か確かめるように、ソッと街灯に触れた。
すると
「うお!!」
少女が触れた街灯の電気が消える。
少女が手を離すと、また電気が点く。
「ビックリしたぁ。急に壊れたか?」
「……私、もう行くから。あなたも辛いでしょ?」
「え!!ちょ、待て!!」
どこかに行こうとする少女を追いかけようとするが、足に力が入らない。
「な、なんだよこれ……」
「私に近付き過ぎたから。珍しい人。今時私を知らない人もいるなんて」
少女はどこかに去ろうとする。
「逃すか!!」
何故か俺の心に燃える何かがあった。
ここでこの子を行かせてしまえば、何か取り返しのならない事態が起きる。
そんな予感が俺の頭を激しく揺さぶる。
「待てい!!」
「私はもう誰とも……って、どうして追いかけてくるの!!」
「君が逃げるからだろ!!」
「だ、だとしてもどうして走れるの!!息すら出来ないでしょ!!」
言われてみれば確かに、さっきから苦しいと思ったら息出来ないのか。
こりゃ参った。
「だが関係なし!!」
「関係あるでしょ!!」
俺はズイズイと少女に近付く。
あまりの形相で追いかける俺に、少女も猛ダッシュで逃げる。
側から見れば、完全に犯罪者と被害者である。
「私はいいから!!放って置いて!!」
「知るか!!貴様の意見なぞどうでもいい!!この力について説明しろ!!」
「の、呪い!!私はこの呪いで一生苦しんでるの!!近付き過ぎればあなたも死んじゃう。だから離れて!!」
「なにぃ!!呪いだと!!」
まさか実在したのか!!
「も、もっと近くで見せてくれ!!」
「だから近付いたら死ぬんだって!!人の話聞いて!!」
「悪い!!持病で耳が遠いんだ!!」
「それはごめん!!」
いつの間にか声量勝負みたいになってきたが、俺が未だに少女に追いつけないのは俺の体力の無さ故だろう。
少女もあの靴が合っていないのか走りにくそうだが、それでも全く追いつけない。
それどころか、どんどん離されていってる。
「お願い……もう、誰も殺したくないの……」
次第に女の子は弱々しくなっていく。
急にどうしたのかと思えば
「ああ、そういうことか」
俺は倒れていた。
息も出来ない状況で、喋りながら走ったらそりゃそうである。
盲点だったな。
「どうしてそこまで……」
少女は立ち止まり、離れた場所から問う。
「気味が悪くないの?怖くないの?私……呪われてるんだよ?」
その姿が俺には、まるで救いを求めているように見えた。
それは優しい言葉ではなく、罰する意味での救い。
なんで俺がこの子を気になったのか分かった。
「おい」
この子は昔の俺に似ているのだ。
「命を粗末にするな!!」
「……よく分からないけど、あなたにだけは言われたくないかも」
しばらく彼女と距離を置いたお陰か、呼吸が出来るようになる。
酸素美味いな。
「俺はお前の過去なんぞ知らん。多分、お前は人を何人もその呪いで殺めたのだろう」
「そう……だから私は」
「でも死ねないだろ?」
「……」
「心の問題か、呪いのせいかは分からない。だから自分が犯した罪を拭う方法を探してる。だけどもう、他の方法は思いつかないってとこか?」
「……」
少女はコクリと頷いた。
分かるな。
他人に迷惑をかけないで済む方法は死ぬことだって、そう思ってしまう時期が。
「俺は何も知らないが、少なくともお前が嬉々として人間を殺すような奴じゃないことは分かる。ソースは俺」
「ソース?」
「いや、何でもない。つまりだ」
俺が言いたいことは
「命を粗末にするな」
「でも……」
「殺された人間がお前に強要したのか?死ね!!不幸になれ!!って」
「……思ってるかも」
「そうか……」
思ってるのか……
「なら死ねば?」
「さっきと言ってること……」
「結局さ、死んだ人間の心を考えるのは生きてる俺らなんだよ」
「??」
「だから生きてる内に伝える。これ大事な」
「あなた、さっきから何言って」
[転移まで後0;01]
「死にたいか?」
「私は生まれてくるべきじゃなかった。私は……化け物だ」
「ふ〜ん、化け物……ね」
「な!!いつの間」
俺はソッと、少女の手に触れる。
手袋してるから直接は触れないが、伝わってくる。
「化け物にしては随分と温かいな」
「そ、そんな!!ダメ!!死んじゃダメ!!」
必死に離れようとするが、既に俺の手がクラッチしてるため逃げられない。
いやでもマジで力抜けてくな、これ。
「最期の言葉だ!!聞いとけ!!」
「いや!!聞きたくない!!私はもう」
「楽しめ!!」
「!!!!」
俺の手からジワジワと、何かが心臓に近付いていく。
これが呪いか。
「この言葉がお前の呪いになるかもしれない。だが知ってるか?」
俺は厨二なもんでな
「呪いは時には祝福になるんだぜ?」
最期の瞬間までカッコつけて逝かせてもらおう。
全身に溶け込むように温かさが広がる。
なんだ
呪いっていうから苦しいかと思ったが、随分と
「優しいもんだな」
[転移完了]
◇◆◇◆
「清!!ねぇ清!!返事して!!ねぇ!!」
「お母様、それ以上は……」
「清は生きてるの!!お願い連れて行かないで……私を……置いてかないで……清……」
享年17歳 阿部文清
遺体はとある森の中で見つかったという。
死因は心不全と判断されたが、詳細は未だ不明。
元々癌を持っていたこともあり、余命も少ない彼の死は少し早まっただけであったのかもしれない。
しばらく時間が経ち、学校を休んでいた友人もまた新たな生活を始める。
彼の母親も再婚し、今では新たな家庭を築いて幸せそうである。
だが時々、空を見上げどこか切なそうな顔をすることがある。
まるで天国にいる誰かに何かを伝えるように。
「さて、改めまして」
文章を読み終えた一人の女性が目を見開く。
「世界を救ってくれますか?」
男はニヤリと笑った。
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