第7話

「健太郎、知ってた?」

「なにを?」


 次々と明らかになる衝撃の事実に軽い頭痛を覚えながら、健太郎は尋ねる。


「あたし、健太郎からのメッセージ、全部読んでたんだよ」

「えぇっ?!でも、既読が」

「うん。既読が付かないように読んでたの」

「そんな技まであるの・・・・それは、どう」

「教えな~い」


 キャハハと笑いながら、亜美は健太郎の首に両腕を回し、甘えるように胸元に顔を寄せる。


「あたしにとっても、賭けだったんだよ。健太郎、半年経っても全然なんにもしてこないんだもん、二人きりでいても。だから・・・・」

「一旦身を引いて、僕に追いかけさせた?」

「うん。追いかけてきてくれるか、不安だったけどね?」


 亜美の頭にそっと手を載せ、優しく髪を撫でながら、健太郎は思い出していた。

 あの時の、亜美が手の届かない遠くへ行ってしまったような、胸が締め付けられるような不安を。

 それは亜美も同じだったのかと、なにやら申し訳無ささえ沸き起こってくる。


「シンデレラも、不安だっただろうね」

「それはどうかな?」


 うっとりと目を閉じ、健太郎に身を委ねながら、亜美は小さく笑う。


「シンデレラは継母や義姉から毎日あんなに酷い扱い受けていたのに、ずっと夢みる夢子ちゃんだったんだよ?そんなの、相当心が強くないと絶対無理でしょ。掴んだチャンスは絶対にモノにする、くらいのガッツはあるはずだから、王子様とのダンスで手応えバッチリだったんじゃないかな。じゃないと、わざわざ置いていかないでしょ、ガラスの靴なんか。なんなら、片方だけじゃなくて両方置いていけば良かったのにねぇ、急いでいたならその方が断然走りやすいし」

「・・・・亜美ちゃん、言い方・・・・」

「それにほら、すぐに国中に【おふれ】が出されたでしょ?王子様がガラスの靴がぴったり合う女性を探すって。だから、信じてたと思うよ、絶対に王子様は自分を見つけてくれるって」


 直ぐ側のテーブルには、健太郎と亜美のスマホが、ふたつ仲良く並んでいる。

 さながらそれは、一足のガラスの靴のようにも見えて。


「でもさ。そこまでされたら、やっぱり追いかけて探し出さずにはいられないよね、王子様も」

「そだね」

「まんまと嵌められたのかもしれないけどさ、王子様」

「確かに」

「それでも、王子様はきっと幸せなんじゃないかな。シンデレラと結ばれて」

「うん」

「僕も、だけどね」

「ふふっ」

スマホあれは僕たちにとっての、ガラスの靴だね」

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