37湯目 バイクとトラブル
実際、そこからは安房峠を越えて、国道471号に入り、国道41号に入り、下って行くだけだったのだが。
たまたま、私が琴葉先輩のVストローム250の前を走っていたから、ちらっとミラーを見た時に気づいてしまった。
(ヘッドライトが消えてる)
と。
Vストロームのヘッドライトは、二段式になっているので、恐らくローだけだろう。
国道41号沿いの山中にある、道の駅細入に入った時、私はすぐに彼女に声をかけて知らせた。
「えっ」
驚いて、キーを回してエンジンをかけ、ニュートラルにして、バイクを降りて、前に回った彼女は、
「確かに。困ったわね」
と、小さく嘆息した。
「何だ? どうした、どうした?」
まどか先輩がいつものように、首を突っ込んでくる。ある意味、お節介な人だが、そこが彼女のいいところでもある。
ライトが切れていることを説明すると、
「あー、なるほど。まあ、バイクにトラブルは付き物だ。むしろヘッドライトくらいでよかったじゃねーか」
とむしろ、全然心配していない様子。
「そうですね。この際、どこかのバイク屋で、LEDに変えてもらうとかでいいんじゃないですか?」
花音ちゃんも、完全に他人事のような言い方だったが、当の本人は浮かない表情のまま、
「それがそうもいかないのよ。そもそもこの辺りにバイク屋はないし、ライトもLEDは改造になるから、正規品ではなくなるの」
と呟いていた。
正確には、250ccバイクは車検がないから、改造しても車検に引っ掛かるみたいなことはないのだが、これは恐らく生真面目な琴葉先輩のこだわりだろう。
バイクユーザーには、改造を好む、つまりカスタムしたい連中と、逆に正規品を使うことを徹底するユーザーがいるが、琴葉先輩は性格的にも、父親が警察官ということの影響的にも後者だろう。
「なんだ。それじゃ、どこか大きな街に行って、バイク屋に行けばいいネ」
フィオのあっけらかんとした一言で、琴葉先輩は決心したようだった。
幸い、今は日中で、多少バイクのライトがついていなくても、影響はないし、最悪ハイビームが使える。
その間に、富山平野に降りてしまい、大きな街に行けば、バイク屋くらいあるだろう、ということだ。
私も調べてみたところ、運良く、行く途中の高岡市に、スズキの販売店がある。そこならきっとライトくらい替えてくれるだろう、と提案したところ、琴葉先輩は頷いた。
同時に、
「ごめんね、みんな。私のせいで」
律儀で、真面目なところがある彼女は、私をはじめみんなに謝っていたが、まどか先輩は笑いながら、
「そんなの気にするな。大体、バイクにトラブルなんて当たり前だし、事故るより全然いい」
と言っていたし、花音ちゃんもまた面白いことを口走っていたのが、印象的だった。
「ですね。バイクで、トラブルには縁がないのは、ホンダくらいですよ」
「ああ。わかる。ホンダだけは、異常なくらい壊れないし、消耗品がやたら長持ちするしな」
「ええ」
なるほど。スーパーカブを始め、「世界のホンダ」は、確かに「壊れない」、「修理とは無縁」なイメージが強い。
私たちは、富山平野を経由し、高岡市に向かう。
幸い、その日は、大きな交通渋滞は発生しておらず、割と順調に進んで、高岡市中心部にある、スズキ販売店に到着。
事情を説明すると、すぐに交換してくれることになった。
待ち時間が発生したこともあり、交換を入れて45分ほどで完了。
無事にヘッドライトを交換し終えた、琴葉先輩のVストロームを、念のために、隊列の真ん中に配置し、私たちは能登半島へ向かうことになった。
どこからが「能登半島」かという定義ははっきり言って、わからない。
だが、どうせなら海岸線を通りたいという、フィオの提案により、
この時期の日没時刻は、おおむね18時前後。
バイク屋で、時間を取られたため、予想より遅く、能登半島入りを果たし、西日に照らされる日本海を右手に見ながら、私たちは海岸線を北上。
そして、その巨大な温泉街にたどり着く。
(大きいなあ)
海沿いに建つ、ひときわ大きな和風旅館が目立つが、それ以外にも大きなホテルや旅館がいくつも建ち並ぶ姿は、壮観だった。
そこが、七尾市にある、古い温泉街、「和倉温泉」だった。
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