第7章 東北の温泉
31湯目 東北への誘い
7月末に紀州へのツーリングを終わらせた後。
学生にとって、夏休みはまだまだ続いていた。
おまけに、まだ高校2年生の私や、高校1年生の花音ちゃんには余裕があった。
夏休み期間中のため、部室に集まることもなく、ロングツーリングや温泉ツーリングの計画はないだろう、と思っていた私の予想を、「いい意味で」裏切る出来事が起こる。
―瑠美。暑いからどこか行こうヨ―
不意に届いた、フィオからのLINEがきっかけだった。
―どこかって? 大体、フィオは受験勉強とかしなくていいの?―
仮にも3年生の彼女のことを心配して言ったつもりだったが。
―ん-。ワタシはパパのイタリア料理屋を継ぐから大丈夫―
そう言えば、前にまどか先輩から、フィオは実家を継ぐと聞いたことがあったと思い出していた。
ある意味、世間の高校3年生の緊張感とは無縁の、優雅な立場のフィオだが、元々が彼女はフリーダムで、気分屋だ。
―じゃあ、涼しいところで東北なんてどう?―
どうせ、まどか先輩や琴葉先輩は受験勉強があって、忙しいから来ないだろう、と予測しつつ私は返信した。
―いいヨ。場所は、もう瑠美に任せるし、いつでもいいヨ―
―了解―
その後、私はネットを駆使して、調べた。
東北の「温泉」についてだ。
北は青森県から、南は福島県まで、東北地方には多数の温泉があり、温泉街として発展しているところも多数ある。
有名どころでは、青森県の浅虫温泉、
その中で、私が個人的に、条件として指定しようと思ったのは。
(適度に距離があって、一泊して帰ってこれるところ)
だった。
そんな中、試しに元・バイク乗りの父に聞いてみたところ。
「そうだなあ。秋保温泉なんかいいんじゃないか」
という回答だった。
秋保温泉は、宮城県のちょうど真ん中あたりにある温泉で、一大温泉街を形成している。
ちなみに、山梨県の我が家から約430キロ。高速道路を使っても、5時間以上もかかる。
まあ、一泊ツーリングにはちょうどいい距離かもしれない。
「どうして?」
一応、理由を聞いてみたところ。
「ああ。近くにデカい滝なんかがあってな。あと古い共同浴場もあって、落ち着いた雰囲気の温泉街だ」
「ふーん」
父は昔、行ったことがあるらしく、それでオススメしてくれたらしい。
私は自室に帰り、早速、フィオにLINEで、
―宮城県の秋保温泉はどうかな?―
と送ると、すぐに、
―いいヨ!―
と、満面の笑みのスタンプと共に返事が返ってきた。思うに、彼女はきっと温泉やツーリングに行ければどこでもいいような気がするが、フットワークが軽いのはありがたい。
だが、案の定、まどか先輩と琴葉先輩に、温泉ツーリング同好会共有のLINEグループでメッセージを挙げたら。
―あたしはパス。忙しい―
―私も。夏季講習があるから―
断られていた。
花音ちゃんはというと。
見ていないのか、しばらく何の反応もなかった。だが、既読にはなっているようだった。
翌日の午後になって。
―行きます―
とだけ返信があった。
このタイムラグは一体なんだろう、と思いながらも、私は一応、主催者的な立場として、ネットから秋保温泉の宿を検索して、3人で泊まれる、リーズナブルな宿を探して、予約するのだった。
急きょ、決まった、東北ツーリングが始まろうとしていた。同時に、それは私にとって初の東北行きであり、初の東北の温泉体験でもあった。
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