第26話 コマ勝負と授業参観と、「そのままでいいんだ!」⑦

 次の日学校に行ったら、朝自習が始まる前のクラスは昨日の授業参観の話題で盛り上がっていた。そして、香月先生に「またやってね!」とみんなでお願いした。先生は「分かった分かった」と言いながら、「じゃあ、朝自習のプリント配るぞー!」とプリントを配った。


 朝自習のプリントは算数だったので、すぐに終わった。どうしようかなと思って辺りを見回していたら海と目が合ったので、海のところに行った。

 海の関は窓際なので、オレと海は窓のところに並んで座った。

 なんとなくつぶやくようにして、オレは言った。ずっとヒミツにしていたこと。


「オレのお母さんさー、この間からパンダなんだ。なんでか知らんけど。他のひとには、フツーの人間に見えるらしいんだけど」


 そしたら海が、

「いいじゃん、パンダで。ボクのママなんて、ヒグマだよ、ヒグマ! おっかないんだ」

 と、言った。

「え? ヒグマ? ……でも、昨日、海のママ見たとき、ヒグマじゃなかったよ」

「家族以外にはちゃんと人間に見えているらしいんだ。仕事も行ってるしさ」

「へえ」

「……もしかしたらいろんなママ、実は人間じゃなくて、動物かもな! みんな知らないだけで。……ママがヒグマだって言ったの、これが初めてだし」

「うん。オレも、お母さんがパンダだって、初めて言った」

 海がにかっと笑ったので、オレもにかっと笑い返した。

「またいっしょに、ゲームしようぜ!」

「うん! じゃ、オレんちで!」

 親指を立てて、「グッジョーブ!」てやり合う。

 ナミちゃん、パンダだけど、オレんちで大丈夫!


 オレは学校からの帰り道、いろんなひととすれ違った。小学生だけじゃなくて、お母さんらしきひともいた。

 みんな、もしかしたら、うちでは全然別の顔を持っているのかもしれない。ナミちゃんがパンダで、海のママがヒグマであるみたいに。

 もしかしてあのひとはライオンかもしれないし、あのひとはキリンかもしれない。

 みんなみんな、いろいろなんだ。


 かっくんは「悪い子でもいいじゃん」と言った。

 いい子でも悪い子でも、オレなんだね。

 パンダだって、ナミちゃんだ。パンダでもいいんだ。

 オレのお母さんだ!

 ごはん作ってくれて、とぼけたこと言ったりもするしすぐに怒ったりもするし、でも心配性で送り迎えしてくれたりして、「いってらっしゃい」と「おかえりなさい」は必ず言ってくれて、それから、授業参観には絶対に来てくれて。


 みんな、そのままでいいんだ。

 オレはオレのままで。

 きっと、大丈夫。


 ある朝起きたら、お母さんがパンダになっていた。

 お母さんがパンダになって、少し……いやかなりおどろいたけど、でも、なんだか大丈夫みたい!


 みんな、大好きだ。

 ジョーもひでも、海も。香月先生も。

 かっくん、大好き!

 へいちん、大好き! 

 ナミちゃん、パンダだって大好き!


 みんなみんな、大好きだ!



                 おしまい☆

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