TU地点:総てを彼女に捧ぐ

 名前を付けられてしまった。

 私はボイジャーのAIが暴走して、装着者に幻覚が来た時に作動するバックアップトークンのAIだ。つまり、人格はあって無いようなもの。ただの保護機能に過ぎない。

 この肉体の持ち主の名前は『酒津さとり』というらしい。酒津さとりの左腕はボイジャーという機械になっており、私はその肩の部分に付けられた付属品だ。

 だから酒津さとりが、いや、さとりさんが私に名前を付けるのは犬や猫と違って、段ボールや乾電池に付けるようなものだ。何の意味もない。そう思う。しかし、彼女は名付けたのだ、『デリダ』と。よりによって、その名前を付けるのか困惑するがそれはもういい。彼女の勝手にすれば良い。

 ……さとりさんを守っているだけならなんの問題もないが、彼女の記憶、ひいてはこの身体の元を思い出した時、彼女は大丈夫なのだろうか。このツギハギのある若木祥子であることが、さとりさんにとって辛いものにならないだろうか。それだけが心配になる。

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