第19話 呪いの真相

「シェリーの様子は?」

「非常に危ない状況でございます。陛下よりも進行が進み、身体を蝕んでいます。正確にはわかりませんが、陛下が魔女から聞いた陛下自身の寿命が1年もないとのことでしたら、彼女はもっと……」

「わかった」


 シェリーの呪いの様子を見た一級魔術師は、悲痛な面持ちのジェラルドに告げてそっと部屋をあとにする。


 ジェラルドはベッドで苦しそうに眠るシェリーの手を取って祈るように目を閉じる。


「お願いだ、死なないでくれ」


「いよいよ死ぬときがきたわね」


 ふと聞こえた魔女の声にジェラルドが振り返ると、そこには誰もいなかったはずなのに急にそこに彼女はいた。


「魔女……!」


 凄みを聞かせてにらみつけるジェラルドに対して魔女は不満そうに告げる。


「もう、そんな顔で見つめないでよ。男前が台無しよ?」

「何しに来た」

「そろそろシェリーの命がつきるころかなって見に来たのよ」

「頼む、なんでもするから彼女だけでも呪いを解放してくれ」

「それはできないわ。呪いは一度しか解除できない。彼女の呪いは二回目なのよ」

「──!!」


 魔女は近くの椅子に座って足を組んで悠然と語り出す。


「シェリーはもともと私の妹の子供で、妹が置いていた魔法道具に誤って触れてしまい呪いを受けた。その時は咄嗟に私が解除したけれど、シェリーは呪いの影響で寿命を半分に減らしてしまった」

「寿命を減らした?」

「ええ、妹は自己嫌悪で自分を殺してその命をシェリーに渡してほしいと願い出た。だから私が彼女を殺してシェリーの命を長引かせたのよ」

「じゃあ、なんで二度目の呪いにかかった?」

「シェリーはある男の子を追いかけて森に入ってきた」

「存在しない弟か?」

「弟……確かにそうかもしれないわね。その男の子はね、私の使い魔よ。その使い魔が暴走して呪いをシェリーに付与してしまった。私はすぐに呪いを解こうとしたけどダメだった」

「じゃあ、どうすれば……」


 魔女は今度は真剣な面持ちでジェラルドに近づいていった。


「あなたはシェリーを心から愛してる?」

「もちろんだ」

「彼女を一生守れる?」

「ああ」

「…………あなたにかけた呪いは今解いてあげる」

「──?!」

「でも一つ条件があるわ」

「条件?」

「シェリーの兄、ブライアンを処刑して」

「なんだって?」

「彼はあなたの失脚を狙って私に呪いをかけさせた。彼はベラと国王の隠し子。つまりあなたの義理の兄よ」


 ジェラルドは驚きで言葉を失う。


「セドリックがなんとかブライアンの不正関与の証拠をつかんだ。今から兵を送って捕縛する。それでいいか?」

「ええ」


 そう言うとジェラルドはセドリックを呼び込み、ブライアンの捕縛を命じた。


「ありがとう。なら、呪いを解いてあげる」


 魔女はジェラルドのほうに手の平をむけると、光のようなものを放ってジェラルドの呪いを解除する。

 そして魔女はジェラルドにネックレスのようなものを差し出す。


「これは?」

「街の森に近い一角に飴屋がある。そこのマダムにこれを渡しなさい。彼女は私の師匠なのよ」

「魔女なのか……?」

「ふん、魔女というのもおこがましいわ。大魔女、私たちの祖先にあたる人よ。これでなんとかシェリーを呪いから解いてくれるはず。ただし、二度も呪いを受けたシェリーの身体の寿命は少ないはず。覚悟しなさい」

「どれくらい生きられるんだ?」

「わからないわ。今すぐではないのは確かよ」

「覚えておく。私は今度こそ死なせない」

「あなたがシェリーを愛しているのは伝わったわ。幸せにしてちょうだい、シェリーのこと。妹(あの子)のためにも」


 魔女はそう言い残してジェラルドの前から姿を消した──

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