第7話 妃教育とご褒美(1)

 シェリーの妃教育の初日はなんともハードなものであった。

 500ページはあるであろう文献、それも王国史を読みそして頭に入れる作業をおこなう。

 9歳までは淑女教育を受けていたシェリーも、この段違いの教育課程に何度も根を上げそうになった。


「こらっ! シェリー様、寝ませんの!!」

「すみませんっ!」


 少し読み進めるとうつらうつらとしてきて、シェリーの瞼はだんだんと重くなってゆく。


「シェリー様っ!!」

「は、はいっ!!」

「これでは夜までに一冊も読み終えられません!」


 500ページもある本で、しかも字がびっしりの本を一日で読めと言うほうが無理あるような、といった具合に反論しようとするもすでに目だけで牽制されてしまう。


(ダメだ……クラリス先生には逆らえない……)


 気さくそうに見えたあの一瞬はもはや見る影もなく、最初の印象の怖そうなイメージがシェリーの脳内を占領する。

 それでも自分のことを熱心に叱って、そして教育してくれる先生に、次第にシェリーも集中力を高めて取り組めるようになった。



「よ、読み終わりました……」

「よく頑張りましたね!!!!」


 もはや深夜に差し掛かろうという時間に500ページあった本一冊を何とか読み終えたシェリーは、疲れの余り机に突っ伏してしまう。

 そんな今にも寝そうなシェリーの頭をそっと優しい手が撫でる。


「最初は根をあげるんじゃないかと思ってました。頑張りましたね、シェリー様」

「クラリス先生……」


 シェリーは思わずクラリス先生に抱き着き、そのまま目をつぶって気を失いそうになる。


「おやまあ、陛下をお呼びしましょうか」


 その呟きはシェリーにはもう届かなかった。



 翌日の朝、ぐっすりと眠ったシェリーはベッドから起き上がってアリシアに身なりを整えてもらう。

 今日も妃教育部屋での勉強が待っており、シェリーは一つ息を吐くとドアを開けて堂々を歩き出す。

 すれ違う王宮の者たちに挨拶をしながら、妃教育部屋へと入ると、そこにはすでにクラリスが待っていた。


「さあ、昨日はお疲れ様でした。ですが、今日もまだまだ勉強することがあります。一緒にがんばりましょう!」

「はい!」


 気合を入れて返事をすると、シェリーは本と向き合うことを始めた。




◇◆◇




 その日から6日が経った日、ついにノルマの机にある本を読み終えた。

 まだ頭の中に入り切ったとは言えないが、クラリスの出す簡易テストにも合格してシェリーは一息つく。

 すると、妃教育をするシェリーのもとに意外な訪問者が訪れた。


「シェリー、いるかい?」

「ジェラルド様っ! どうしてここに?!」

「君が簡易テストに合格したって聞いてね。ご褒美を持って来たのさ」

「ご褒美……ですか?」


 そう言うと、ジェラルドはシェリーに向かって右手を差し出してこう誘った。


「私とデートをしよう!」

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