第565話 その後の話(side王国) 前編
フリージア達の活躍でノルベルトが無力化された瞬間、国民にかかっていた改竄魔法が解かれた。
ノルベルトにかけられた改竄魔法の影響の度合いで、魔法が解かれた時に起こる副作用の頭痛の酷さは人それぞれであるが、ロスペルの要請……というより、マーザスの計らいで帝国から派遣された宮廷魔法師団が国民全員を鑑定魔法で見たところ、副作用だけで廃人になった者は誰一人としていなかった。
というのも、ノルベルトが国民全員を完全な傀儡にする前にフリージア達が彼を止めることが出来たのと、ノルベルトが影響下にあった人間を傀儡にした時間がほんの数時間だったことが廃人化阻止に繋がった。
それでも、ルベルやグレアなど、ノルベルトの傀儡になった者達の副作用は酷く、1ヶ月程度、病院で絶対安静をすることになった。
その間、宮廷魔法師団は副団長に復帰したロスペルが、王国騎士団はフェビルやメストやシトリンを中心に、ルベルやグレアの穴埋めに奔走した。
そして、ペトロート王国を混乱に陥れたノルベルトが無力化されてから1ヶ月後。
宰相に復帰したレクシャの采配で、改竄魔法の影響が国民の間で薄れていったタイミングで、国王はこの7年間で起きたことを国民全員と、国交断絶をしていた周辺諸国に向かって、投影魔法と拡声魔法を使い包み隠さず話した。
たった1つの闇魔法で、この国が7年もの間、1人の男の手の中で弄ばれていたこと。
その最悪な事態が起きる可能性があると分かっていたにも関わらず、王族や宰相など国の有力者たちが阻止できなかったこと。
そのせいで、闇魔法にかけられた貴族と平民の間に歪んだ認識が生まれ、貴族が平民を虐げるようになってしまい、豊かだった国力が瞬く間に落ちてしまったこと。
国を弄んでいた男が外国嫌いだったせいで、周辺諸国に多大な迷惑をかけてしまったこと。
その男が実は、世界征服を果たすべく、国民全員を傀儡にし、約300年前に起きた悲劇を繰り返そうとしていたこと。
それを阻止し、この国を再び豊かな国にすべく、7年もの間、レクシャを始めとしたごく一部の貴族達が水面下で反逆の準備を進め、建国祭当日に国を弄んだ男を捕らえ、この国にかけられていた闇魔法が解かれたこと。
「私が不甲斐ないばかりに、この国の者には、そして周辺諸国の皆々様には、長い間、苦労と迷惑をかけてしまった。本当に申し訳ない。この首1つで皆の気が晴れるなら、それでこの国が再び豊かで穏やかな笑顔溢れる国になるなら喜んで差し出そう」
深々と頭を下げる国王の姿に国民全員が息を呑む。
それだけ、国王は己の失態を悔やんでいた。
「だが」
ゆっくりと顔を上げた国王は国民に問いかける。
「もし、許されるのなら、ほんの少しの時間で良い。この私に、7年前のような豊かで穏やかな暮らしが出来る国を取り戻す時間を……皆の植え付けられた歪んだ認識を正す時間をくれないだろうか?」
懇願するように国王が深々と頭を下げた瞬間、ペトロート王国が温かな歓声に包まれる。
決して、国王の死を望んでいるものではない。
穏やかで頼りがいのある国王が、この国のために尽力してくれることを、国民全員が心の底から喜んだのだ。
彼の過ちを許せるわけがない。
だが、国民は国王にかけた。
国王が、誰よりもこの国を愛し、常に国民のために尽力している人だと知っているから。
国民に優しい国王ならきっと、国力が失われつつあるこの国を再建させ、この国を再び豊かにしてくれると信じているから。
それは、周辺諸国にいる要人達も同じ思いだった。
というのも実は、レクシャが帝国に来た後、帝国の皇帝が周辺諸国の要人達にペトロート王国の事情を話していたのだ。
だから、深々と頭を下げる国王に惜しみない拍手を送った。
『あなたがこの国を再び治めるならば、我々も途切れてしまった国交を築こう』と。
「ありがとう、皆の者。この国の王として、皆に償いをさせてくれ」
画面越しに聞こえる歓声と拍手に、涙ぐんだ国王は、傍に控えていたレクシャとジルベール向かって軽く頷くと、国民に向かって再び頭を下げる。
それから数日後、ノルベルトを始めとした国家転覆を計ろうとした貴族達の処刑が行われた。
その中には、ダリヤやリアン、カルミアの姿もあった。
魔力を失い、廃人同然となったノルベルトは、処刑台に立っても尚『俺はただ取り戻しただけだった』と呟いていた。
彼は最期まで、彼自身にかかった改竄魔法が解けなかった。
けれど、ダリア達は貴族らしく毅然とした態度で処刑台に上がり、その短すぎる生涯に幕を閉じたのだった。
ノルベルトが処刑されて半年後、レクシャと共に国の再建に尽力し、落ちていた国力を瞬く間に元に戻した国王は、未来を託すようにジルベールに王位を譲った。
しかし、国王の座を降りた彼が、罪の重さから毒杯を飲んで死ぬことはなかった。
それは、国を元に戻してくれた賢王に対しての国民からの切実な願いだったから。
※最終回まで、あと6話!
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