第300話 水と雷
「だがまぁ、本当に初級魔法程度で打ち消せるとはな」
自慢の魔法陣をバカにされて地団駄を踏んでいるダリアを見て、ラピスはニヤリと笑みを浮かべると、無表情のカミルが口を開いた。
「装飾品程度にしか思っていない貴族の魔法は、普段から魔力の鍛錬をしている宮廷魔法師様達や騎士様達と比べて遥かに魔力の練りが甘く、相性の良い属性魔法なら初級魔法でも打ち消せる」
「その上で、魔法の威力を安定させる詠唱すらも疎かにすれば、相性最悪な属性魔法でも初級魔法程度で簡単に打ち消せるということだな?」
「そういうこと」
(魔力をしっかり練ることと詠唱を疎かにしないことは、魔法を扱う者にとっては基本中の基本。その基本を蔑ろにすることは……)
ラピスの言葉にカミルが頷いた瞬間、いつの間にか起き上がっていた黄金の騎士達が、再び2人に切りかかる。
「おおっと! 随分と威勢が良いじゃねぇか!」
「ラピスさん、くれぐれも……」
「あぁ、分かっている! だが、少し痛めつけてもいいよな?」
(この下品な女に、いとも容易く操られているんだ。同じ騎士として、こいつらを懲らしめても良いよな!)
「…………死なない程度にお願い」
「了解! それなら、少しだけ俺から離れてくれ」
「えっ?」
(一体何をするつもりなの?)
僅かに眉を顰めたカミルは、切りかかってきた騎士達の攻撃を次々と受け流しつつ、彼から距離を取る。
すると、それを見たラピスは騎士達の攻撃を容易く躱すと彼らを挑発した。
「ほらほら、お前らの相手は俺だぞ!!」
兜の下でニヤニヤと笑っているラピスが見えたのか、なぜか下卑た笑みを浮かべたダリアが、黒い魔力を人差し指に灯すとそのまま黄金の騎士達に向ける。
「どうやら、あんたから先に死にたいみたいね! それじゃあ、お望み通りにしてあげるわ! あんた達! あの愚民を八つ裂きにしなさい!!」
ダリアから放たれた黒い魔力で命令を受け取った黄金の騎士達が、一斉にラピスに向かって突進してきた。
「ありがとう、愚かな令嬢」
(お陰で、一気に片付けられそうだ)
安い挑発に乗ったダリアに笑みを深めたラピスは、双剣に魔力を纏わせるとそのまま空に向けた。
「魔法単体でも多少効くってことは、複数ならもっと効くよな!?」
楽しそうに笑ったラピスは、双剣の切っ先から青と黄色の魔法陣を同時に展開する。
「まずはこいつだ! 《ウォーターレイン》!」
ラピスの詠唱により晴天の空に雨が降り、動きを止めた黄金の騎士達の頭上を見上げる。
(おいおい、お前らそれでも騎士なのかよ)
突然のことに動揺する騎士達に内心呆れ返ったラピスは、すかさず2つ目の魔法を唱える。
「そして、《ライトニング》!」
その瞬間、雨に濡れた騎士達に雷が直撃し、感電した騎士達が一斉に倒れた。
「よしっ! これで動かないだろ!」
「チッ!!」
小さく拳を上げて喜ぶラピスに、令嬢らしからぬ舌打ちをして心底悔しがるダリア。
そんな2人を見て小さく溜息をついたカミルは、倒れたままの騎士の首元を触るとラピスの隣に来た。
「どうだ、これで信用してくれるか?」
「そうね。少しくらいなら信用するわ」
「少しかよ」
「えぇ、少しだけよ」
そう言って、カミルは倒れている騎士達に視線を向ける。
(相性が良い魔法を連続で放ったとはいえ、1人で50人の騎士達を気絶させるなんて。さすが、カトレアの婚約者ってところかしら)
双剣に嵌め込まれた魔石のお陰で、中級魔法は上級魔法並みに、初級魔法は中級魔法並みに威力が上がった。
それに加え、見栄え重視で黄金に塗装したお陰で、付与された防御魔法の効力が下がっていた。
その結果、ラピスが放った2つの魔法をまともに食らった騎士達は、全員意識を失って魅了魔法の効力が切れたのだ。
「あんた達、よくも私のコレクションを……!!」
「へぇ、優秀そうな騎士達を『コレクション』扱い。これが今の宰相家令嬢か。本当、この国の貴族はたかが知れているなぁ!!」
「っ!!!!!」
ダリアの怒りを楽しそうに煽るラピスを見て、心底呆れるカミルはダリアに冷たい目を向けた。
「さぁ、残ったのはあなただけです。どうされますか?」
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