第27話 木こりの日常②
「では、行ってきます」
「あぁ、行ってらっしゃい。俺たちのお使いも頼んだぞ」
「木こりの兄ちゃん、行ってらっしゃい!」
不機嫌そうな顔をする大人達と満面の笑みの子ども達に声をかけた木こりは、手綱を持つと王都に向けて出発した。
「よし、次!」
(まぁ、毎日のことだから別に気にしていないけどね)
お世辞にも整備したとは言えない道を走ってしばらく、王都に着いた木こりは、堅牢な石造りの門の前で検問している騎士に、村長の名前が入った入都許可証を見せた。
「王都に来た目的は?」
「行商です」
「ハッ、それなら通っていいぞ」
「ありがとうございます」
(まぁ、毎日のことだから良いんだけどね)
鼻で笑った騎士に礼を言った木こりは、何事もなかったかのように許可証を懐に入れると手綱を握った。
すると、木こりの後ろに並んでいた人達がひそひそ話をし始めた。
「あの騎士様、平民に向かって偉そうな態度をとっているわ」
「本当だ。『ペトロート王国の騎士が、ある日を境に平民に対して厳しくなった』って噂は本当だったんだな」
「おい、貴様ら! 何をひそひそと話している! 貴族出身である騎士を侮辱することは、この国の貴族全員を敵に回すと思え!」
「「ヒッ! もっ、申し訳ございませんでした!」」
(どうやら、後ろに並んでいた人達は他国から来た商人か冒険者なのだろう)
「良いなぁ、冒険者」
「おい、貴様いつまでいる! さっさと行かんか!」
威張り散らす騎士に急かされた木こりは、小さく頭を下げると幌馬車を走らせた。
(『何者にもなれる冒険者』……幼い頃に家族からそう聞かされて憧れはしたけど)
「この国では、騎士団が滞在していない村の魔物討伐やダンジョン探索など、騎士団では出来ない仕事を請け負うのが冒険者だから、冒険者ギルドと騎士団の結びつきが強いんだよね……だから、今の私には絶対無理」
(まぁ、他国に逃亡すれば冒険者になれるけど……魔物の関係でどの国よりも強力な結界魔法を張っているから、国境付近にある検問所以外で国を超えることが出来ないんだよね)
「そもそも、そんなこと出来るはずがない。だって、私には……」
自分の境遇を思い出し、一瞬だけ下唇を噛み締めた木こりは、すぐさま無表情に戻すと取引先の店に向かって馬車を走らせた。
「こんにちは」
最初の取引先である店を訪れた木こりが店先で挨拶をすると、店の奥から白髪交じりの男性が現れる。
「いらっしゃい……おや、木こりさん。いつもありがとうね」
「いえいえ。それよりも店主様、いつもの場所に木材を運び込んでも良いですか?」
「あぁ、よろしくお願いね」
朗らかに笑う店主に頭を下げた木こりは、荷台の奥に追いやられた木材を運び出し、そのまま店の横に通っている細い路地を歩いた。
そして、店の裏から店の中に入ると木材が保管されている場所に置くと荷馬車へ戻った。
「おやおや、今日も立派な木材を持って来たんだね」
納品分の木材を運び終えると、ドアを閉めに来た店主が報酬の入った麻袋を持って現れた。
「えぇ、まぁ、そうですね」
淡々と返事をする木こりに、店主は笑みを浮かべたまま持ってきた木材を一撫でする。
「うん、良い材質だ。これなら売れそうだよ」
「ありがとうございます」
「いつも思うんだけど、どこから仕入れているんだい?」
「それは……秘密です」
小さく笑みを零した木こりがそっと人差し指を口元に押し当てると、目を丸くした店主が優しく微笑んだ。
「それもそうだね。先代にもそうやってはぐらかされたよ」
(まぁ、エドガスの場合は愛想の良い笑みで上手くはぐらしそう)
今はいない恩人を思い出していると、店主が持っていた麻袋を木こりに差し出す。
「ほれ、いつもの報酬だよ」
「ありがとうございます」
店主から麻袋を受け取った木こりは、深々と頭を下げる。
そんな木こりに背を向けた店主は、軽く手を上げた。
「それじゃあ、明日も頼んだよ。何せ、木こりさんが運んでくる木材は次の日には完売なるくらいの人気商品なんだから」
「はい」
去っていく店主の背中に、もう一度頭を下げた木こりは店を後にした。
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