第19話『追憶』

 大切な人たちと、笑い合いたかった。

 ずっと、一緒に居たかった。


 それだけだったのに、能力と共に生きる僕らには、


 許されなかった。



 戦火に包まれたとある塔の前で、レイは座り込んでいた。


 塔から離れた場所に居るというものの、パチパチと火が弾ける音は聞こえるし、ガラガラと崩れていくのも見えている。燻る香りは胸を埋めつくし、何が燃えているのか考えてしまったら、ありったけの声で叫んでしまいそうだった。


 でも、叫ぶことは許されなかった。


 僕の居場所がバレてしまったら、兄たちが命からがら作ってくれた逃げ道が、消えてしまう。


「レイは、俺らの希望だから」

「君だけは覚えていて。もう大切な誰かを失わないように」


 叫ぶ代わりに、唇をぎゅっとかみ締めた。口の中に広がる血の味には、知らないフリをして。


「ここから出たうんと遠くに逃げるんやで」

「大丈夫、お前ならできる」



「生きて、」



 交わった紫色の目は、とても綺麗だった。



 逃げ出した背後で、塔が大きく崩壊を始めた。ガラガラと一段と大きな音がして、破片が落ちた衝撃が地を伝い足に伝わってくる。


 後ろは向かなかった。

 正しくは、向けなかった。


 だって、まだあの塔の中には、


 皆がいたから。



 いくつか街を走り抜けて、いつしか空は白み始めていた。


「もういいか、」


 動かない体は、地面に吸い寄せられるように崩れた。大の字に寝転がれば、小石が背中に当たった。右手を空に伸ばした。パチリと、力なく指が鳴らされる。


「…時間操作」


 もう一度、この世界をやり直す。


 そして、今度こそは。


 シュンと時が巻きもどる音の中、レイは目を閉じた。

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