第8話『テイキケンシン』

 口を開けるように促すイオリの声が、研究室の中に響いた。


 彼の前に1列に並び、そわそわと自分の番を待つ。彼らの口内を小さなライトがつうっと照らし、何かを確認しているようだ。


 能力持ちなら受けなければならない、この検査。

 しかし、あまり得意でない者もいるようで。


 それでも受けるのは、


「ほれ、」


 終わればシノからカラフルな甘い棒付き飴が貰えるから。



 シノありがとう、と最後の一人が飴を貰って部屋を後にした。足音がしっかりと遠ざかっていくのを聞き届けて、紙の上を忙しそうに走っていたイオリのペンが止まる。


「どうだった?」

「まだまだ、だね」

「時間はかかるよなぁ……」


 彼らは(シルシ)を探している。



「よお、」


 滅多に開かない地下室の扉が開かれた時、ちょうどリビングにいた全員の視線が、ドアに突き刺さった。正しくはドアを開いた人影に刺さった。


「やだな。俺らだって。そんな怖い顔すんな」

「定期検診に来ただけだ」


 ああ、そうだとシノは持っていた紙袋の存在を思い出し、1番近くにいた者に紙袋を渡す。


「どーせ、ろくなもの食ってないんだろ。ヒイロから」


 ずっしりとした袋の中を覗くと、料理別に分けられたタッパーがたくさん入っている。


「体調に変化がある者は?」


 イオリの声にリビングにいた全員が首を振った。そして一人一人口を開けさせ、小さなライトで照らして口内を見ていくと、異常はなさそうだなと結んだ。


「じゃあ、以上。ちゃんと食えよ?死なれたら困るんだから」


 じぁあな、とシノは片手を上げて地下室を後にした。



 地下室からの螺旋の階段を上がって行く。会話は無く、2人の石段を踏みしめる音だけがパタパタと響くのみ。もう少しで上だ、という時にイオリは一服しないかとシノを誘った。


 中二階のバルコニー。

 白い壁に背中を預けて座る。


「話か?」


 煙を吐き出しながら、イオリの顔を伺った。


「シルシが出ている者がいた。目のマーク」

「……透視、」


 シノに能力付与された者は、自身の能力の安定 または ペアとなる相手が見つかると、口内に相手のシルシが浮び上がる様になっている。シルシとは自身が付与された能力がマーク化されたもので(例、透視の能力なら目のマーク)、口内に現れる。ペアとなる者の口内に自分のシルシが浮かべば、晴れてペア結成となり、どちらかが死ぬまでその関係は続く。何かのきっかけで互いの能力の暴走が発生したとき、止められるのはペアの相方しか出来ない。


「試作品では有り得なかったんだが、」

「試作品に見えた完成品だった、ってわけか」

「アイツらも近いうちに完成品になる」

「もう、試作品なんて呼べないなぁ」


 苦い煙を1つ吐き出せば、ふわりと白く昇っていく。

 それを2人で壁にもたれながら眺めていた。

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