Given
春タ。
第1章
第1話 『アカフダ』
オレンジの空の裾を、じわりと朝が染め始めた。橙と紺のグラデーションは、廃れ、無彩色の街に唯一の色をつけて見せる。
「お」
運転していたイオリが、小さく声を上げた。その声に、助手席でうつむいていたシノの頭が上がる。所々塗装の禿げた白いバン。俺らの相棒。時折唸るエンジンは、もうそろそろ替え時かもしれない。
イオリの視線の先を追えば、道端に布の塊が横たわっていた。
「シノ、赤札か見てきてよ」
赤札。この国では孤児である証。赤い紙に紐が付いただけの簡易的な札で、道端に寝ていればいつの間にか首にかかっているという噂だ。誰か拾ってください、そんな意味も持つそれは見ない日がないというのがこの国の現状である。
しょうがねぇとシノがしぶしぶ車を降りれば、待ってましたとばかりに、砂埃が着ている白衣をなびかせる。荒い砂が目に入らないように片手で目元を守る。
子供のサイズに見えた布の塊に近づけば、青年だった。薄汚い衣から見える手足は強く握ってしまったら折れそうなほど細い。そして、もちろん赤札が首にかかる。
自分では背負えないと、車の方を見やった。言いたいことは視線で伝わる。のそのそと車から降りてきたイオリの白衣も、同じように砂埃に遊ばれている。
「……でかいな」
「まあ、青年ってところだろ。青年に対する能力付与のデータ数は少ないから、サンプル的にはありがたいね」
彼を担ぎあげ、車まで2人で歩く。バンの後ろに押し込むと、再びエンジンが唸る。
舗装されていないこの国の道。石やくぼみやらで左右に車が揺れる。目を開いていれば酔うだけだ。シノは白衣の下に着ていたパーカーのフードを被ると、腕を組んで目を瞑り、車体の揺れに身を任せた。
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