第79話 『聖女』の告白

「……え?」

 思い出した。

 清華さんが着ているその格好を見て、僕ははっきりと思い出した。

 確か、キャンプで、帰る前に『女の子が一人行方不明になっている』って聞いて、僕もその女の子の捜索をして、そしてその子を見つけた。

 あてずっぽうで歩いて、偶然見つけたその子はしゃがんで泣いていて、足には傷があった。

 偶然持っていた、まだ口をつけていないペットボトルに入っていた水を使ってバイ菌を洗い流し、ズボンのポケットに入っていた青いハンカチをその女の子の脚に巻いたんだ。

 まさか……その女の子が、清華さんだったなんて。

「本当、なの? 本当に、あの時助けた女の子は───」

「わたくしです。恭平さん」

「っ!」

 僕が驚愕していると、清華さんは手に持っていた何かが包まれている布を僕に見せ、布をゆっくりとひらいていき、包まれていた青いハンカチが出てきた。

「それはっ!」

「これが、その証拠です。恭平さんに助けていただき、返しそびれてしまったあの時から、わたくしはこのハンカチをお守りとして、肌身離さず持ち歩いていました。今ではわたくしの一番の宝物です」

 そのハンカチが、清華さんにとっての宝物……肌身離さ持ち歩いてくれていた。

 その事実に心臓がめちゃくちゃうるさく高鳴っているけど、その場の雰囲気にのまれてはいけない!

 思い出せ。清華さんは───

「でも、でもそれなら竜太との仲は!? 二人は付き合ってるんでしょ!?」

「付き合っていません! 坂木さんは大切なお友達です。誓ってそれだけです!」

 竜太と付き合っていない? ならあの記事はなんなんだ?

「あの記事はデタラメです! あの写真はわたくしと坂木さんが、恭平さんを小泉さんから距離を離すために協力関係になった時に握手をしたものです! 一緒に校舎に戻っている写真は、その直前に小泉さんと口論になった時のものです! 坂木さんと二人で体育館裏で逢瀬を重ねたりなどは誓ってしておりません! そして───」

 そこまで一気にまくし立てると、清華さんは一度言葉を区切り、心を落ち着かせるためか、深呼吸をし、真剣な眼差しで僕の目をまっすぐに見た。

「わたくしの好きな人はただ一人……そのお一人をずっとお慕いしておりました。……七年前のあの時から」

「えっ───」

 まさか……そんな……。


「上原恭平さん……あなたが好きです。七年前からずっと、あなたが……あなただけが好きなんです」


 僕は呼吸をするのすら忘れて、『聖女』のまっすぐすぎる想いを聞き、まっすぐすぎる眼差しから目が離せなかった。

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