第25話 『聖女』は恭平を説得する

「あの、坂木さん。もしかして、上原さんにはわたくしの家で暮らすことを伝えてなかったのですか?」

「いや、伝えたぞ」

「た、確かに聞いたけど、柊さんの家って教えてくれなかったじゃないか!」

 竜太はさも普通に言っている。確かに聞いたけど、一番重要な部分が抜けてたからね!?

「言ったらお前、素直に了承したか?」

「う、そ、それは……」

 その答えはノーだ。

 女子の家に泊まるのもそうだけど、ましてやそれが柊さんの家だなんて知らされてたら、僕は頑なに断っていたと思う。

 学校では圧倒的な人気で、同級生だけじゃなくて、上級生や教師からも人気や信頼が厚い柊さんだよ!? その柊さんの家に僕みたいなわけのわからない男が寝泊まりしてるなんてことが誰かの耳に入ったら……。きっと柊さんは好奇な目で見られると思うし、色々質問攻めにあわせてしまいそうで……さらに迷惑をかけてしまうんじゃ……。

「上原さん。お気になさらないでください。上原さんの現状は理解しているつもりです。坂木さんと一昨日から決めていましたし、わたくしの両親にも伝えて了承を得ております。当事者の上原さんに全てをお話していなかったことは謝ります。申し訳ございません。ですが、上原さんの身の安全を確保するのに、わたくしの家以上の場所はないと思います」

「で、でも……」

 それはわかる。

 柊さんの家はこの辺りでは有名な豪邸だ。あそこは警備の人もたくさんいるし、用のない人は立ち入れない場所になっている。だから瑠美夏もちょっとやそっとじゃ入れない。

「お前が絶対に嫌と言えば無理強いはしない。だが昨日も言ったように、あの女は近いうちに俺にコンタクトを取ってくる。俺もお前を守りたいが絶対とは言えない。万が一お前があの女に見つかり連れ戻されたら今まで以上にこき使われるのは目に見えている。お前はそれでもいいのか?」

「そ、それは……」

「上原さん。遠慮なさらないでください。最終的にあなたをわたくしの家に招き入れる判断をしたのはわたくしです。ですので上原さんは遠慮もお気遣いも不要です。ですからどうか、わたくしの家に来てください」

「柊さん……」

 彼女の言葉には嘘はない。それは言葉だけではなく、僕を真っ直ぐに見つめる双眸からもわかる。

「そ、それに……恭平さんとひとつ屋根の下で暮らせるなんて……わたくしには夢のようなことですから」

「え?」

 柊さんはそれまでの優しい微笑みから一変、頬を朱に染め、手を両頬に当て、何かを呟いていた。よくわからないけど、なんか幸せそうだ。

「そういうことだ。俺が言うのもなんだが、遠慮すんな」

「……はっ! そ、そうです! 坂木さんの言う通りです! さ、上原さん。もう日もくれますから、そろそろ行きましょう」

 柊さん。なんか慌ててるけど、なんとなく理由を聞いてはいけない気がするので、見なかったことにしよう。

「わかった。柊さん、お世話になります」

「はい! 喜んで」

 柊さんは、また『聖女』と呼ばれるに相応しい笑みを見せてくれた。

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