第2話 女神の謝罪

『ごめんなさいごめんなさいごめんなさい! 来るのが遅れてごめんなさい!』


 俺の目の前には号泣しながら土下座で謝る女神。ちなみに名前はリズフレイヤさんというらしい。

 その彼女が嗚咽混じりに泣きながら俺に説明したことをまとめるとこうだ。


 ・リズフレイヤさんのせいで俺は死んだ

 ・生き返らせるのは無理だからお詫びにこの世界に転生させた

 ・記憶を持ったままで転生させる予定だった

 ・異世界で困らないように強い肉体を与える予定だった

 ・転生したらすぐに来て説明する予定だった

 ・【色々忘れててさっき俺が転生してた事に気付いた】←ココ一番大事


 ようするに、ついさっき俺が転生したと思って来てみれば、すでにおっさんになってたってわけだ。


『うえぇ……ひっく……ぴぇぇ……』


 まだ泣いてる。


「えーっと、俺、もう三十三歳なんですけど……」

『は、はい……ごめんなさい……。どう見ても新生児じゃないです……』


 そりゃそうだ。この歳で赤ちゃん扱いなんて困る。まぁ前世の記憶の中じゃそういうプレイが好きな上司はいたが。


「もしかしてリズフレイヤ様の力で若返っちゃったりします?」

『そうしてあげたいんですけど、それは無理なんです。周りの人の記憶の兼ね合いとかいろいろとありまして……』


 さすがに昔読んでたラノベみたいな展開にはならないか。まぁ、いきなり子供になっても困るしな。


「ですよねぇ。あ、ちなみに今の俺の状態ってどうなってるんですか? さっきまでは森の中にいたはずなんですけど、もしかしてまた死にました?」

『あ、違います違います! 大丈夫生きてます! ここには貴方の精神だけを連れて来ているのです。その間は時間が流れないから、魔物に襲われることもありません』


 それは助かる。


「それでこれからどうなるんです? 俺、なんかやらなきゃダメですか?」


 そう、それが一番の問題。よくある何かの使命を頼まれたとしても俺はもういい歳だし、冒険者引退宣言をしてきたばかり。つーかぶっちゃけめんどい。残りの人生はまったりのんびり暮らしていたいのだ。


 ま、リズフレイヤ様の予定通りに産まれてすぐ転生に気が付いていればまた違ったんだろうけど。


『えっと、特に何かがある訳ではありません。この転生は、私が奪ってしまった分の貴方の人生をこの世界で新しく生きて欲しい、ということでしたから。だから使命やお願いもないですよ? このままいつもの生活に戻って頂く感じになります』

「それなら良かったです。じゃあそろそろ戻してもらってもいいです?」

『わかりました。あっ、戻る前にちゃんと今回のお詫びを』

「お詫び?」


 出来れば金銭的な物が嬉しい。


『はい。一つは戦いに役立つ力です。もう知ってると思いますけど、この世界は魔物もいて危険です。だけど貴方には長生きして欲しいので、前世で三十年童貞だった魔法使いとしての力と、今世でも三十年以上童貞だった神聖者としての力。それを合わせて魔法使い×神聖者で賢者の力と魔力を与えます。これは貴方の前世での都市伝説を参考にしました』


 その言葉を聞いた途端、頭の中に様々な魔法の知識と使い方が流れ込んでくる。これは凄い。引退する前に教えてくれたら有名な冒険者になれたかもしれない。もう冒険する気は無いから今更だけど。

 というかあんまり童貞童貞って連呼しないで欲しい。悲しくなるから。


『それと、若返るのが無理な代わりにちょっとサービスしておきますね』


 ん? サービスとは?

 

『それでは元の世界に戻します』

「あ……」

『この度は本当に申し訳ありませんでした。では、良き人生を』


 リズフレイヤさんがそう言った瞬間、俺の視界には再び洞窟の壁が戻ってきた。


「おお、帰ってきた」


 それにしてもあんまり転生したって実感が無い。この世界での自分の過去を思い出してみても、前世の俺と同じような生き方をしていたからだろう。


「そういえばなんかサービスって言ってたけど……」


 何かプレゼントでもあるのかと自分の周りを見渡すけど何も落ちていない。

 携帯食や色々な道具を入れている皮袋の中を覗いて見ても、何も増えていない。


「ま、いいか。とりあえず途中のクエストだな。今なら覚えた魔法で簡単に終わらせられるだろうし」


 そう思って立ち上がると体に違和感を感じた。


「ん? 体が軽い? いつもの膝の痛みが無い?」


 膝だけじゃなかった。肩より上に上がらなくなっていた腕の痛みも無い。指先の痺れすらも消えている。

 まさかと思って服を捲りあげて腹を見る。


「や、痩せている……」


 ってそうじゃない。いや、それも驚いたけれども。


「腹の傷も無くなってる……」


 そこでやっと気付いた。リズフレイヤさんが言っていたサービスってのは、この事だったのだと。


 服を全部脱いで全身くまなく確認すると、今までの傷が全部治ってる。しかも体は全盛期の時より引き締まっていた。


「うわぁ〜マジか。体が思うように動く。これは感謝だな」


 試しに剣を振ると風を切る音。しかも体幹もブレない。素晴らしい。


「きゃっ!」


 ん?


「…………あ」


 声のした方を向くと、そこには全身を鎧に包んだ長い赤い髪に金の瞳を持った女騎士の姿。どうやら洞窟の中に入ってきたみたいだ。


 そしてその女騎士は俺を見つめている。全裸の俺を見つめている。やっべ。


「あ、いや! これは違くて! えっと……そう! 濡れた服を乾かしていただけなんだ! まさか人が来るなんて思わなかったんだ!」


 俺は女騎士に背中を向けつつ言い訳しながら服を着る。なんか後ろからガシャガシャ音が聞こえるけど無視して装備を整える。

 そして振り返る。


「もう……好きにしてくだしゃい……」


 するとそこには、鎧を外した女騎士が頬を染めながら立っていた。

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