第76話 王国の危機
「これはどう言う事ですか?」
王城を離れ、久々に馬車で城下町に出ましたら、可笑しなくらい町が廃れていました。
見間違いではないですよね?
思わず目を擦る位に、以前とは違います。
此処は王都のメイン通り。
それなのに閉まっている店が沢山あります。
気のせいか、人通りも少ない気がします。
本来なら、此処に店を構えるのは商人の憧れの筈なのに、閉まっているお店が多く、よく見れば明らかに閉店しているお店もあります。
凄く可笑しいです。
此処が私の国アレフロードの王都なのですか?
この目で見ていても、信じられません。
「姫様、それがルブランド帝国の方が、今凄く景気が良くてそちらに行ってしまわれたようです」
「そんな、帝国なんて野蛮な国に行ったのですか?ですが、幾ら何でも信じられません。此処は王都の表通りです。可笑しいでしょう? この辺りには王宮御用達の商会もあるのですから」
「私も詳しい事は存じ上げませんが、多くの王宮ご用達のお店が『対面を保つ事が出来なくなりましたので返上します』と王宮に届を出して去っていった。との事です」
これはかなり不味いのでは無いですか。
馬車から見る限り、かなりの店が閉まっている様に見えます。
開いているお店は1/5も無い様な気がします。
ここ迄、王都のお店が閉まったのを、私は見たことがありません。
こんなにお店が閉まっていると言う事は…スラム近くの貧しい者はどうしているのでしょうか?
商人が居ないなら…手伝う仕事が無い。
このままでは餓死している人間も居るかも知れません。
「スラムに向って下さい」
「姫様、危ないです!」
それ処じゃありません。
このままでは大変な事になります。
「近づける所までで構いません」
「解りました」
騎士5名の警護です。
何を恐れる必要があると言うのですか。
「可笑しいですね。見た感じ誰も居ない様に感じます」
「確かに見た感じ子供一人居ない様に見えますね」
幾らスラムとは言え『家を持っている人間も居ます』
全員が全て財産を持ってない訳ではありません。
「騎士のうち3人残して、他2人はちょっと様子を見てきてくれませんか」
「「はっ」」
暫くして騎士が戻ると信じられない事を言い出しました。
「ご報告いたします…スラムの住人が一人も居ません」
「何ですって…あんなに居たスラムの住人が居ないのですか?」
「はい」
よく考えて見れば…大通りにも人が少なかった気がします。
何か良くない事が起きている気がします。
今日は買い物に来たのですが、何か嫌な予感がして仕方がありません。
今日は、必要な物だけ買ったらすぐに王城に戻り報告しないといけません。
「何でこんな物しか無いのですか?」
私は今回の目的である宝石商に来ています。
次の舞踏会でつけるブローチを買う為にです。
「すみません姫様、良い宝石の殆どをルブランド帝国の宝石商に持っていかれました」
言われて見ればショーケースの中がまばらになっています。
このお店のこんな状態見たことがありません。
「そんなにルブランド帝国の方は景気が良いのですか?」
「…はい、姫様には言いにくいのですが、比べ物になりません。それで申し訳ないのですがその、当店も王室御用達を返上する予定です」
「何故ですか? 何代にも渡り王室御用達を務めていたポートランド商会がどうして」
「すみません」
目を伏せて怯えています。
これ以上言っても無駄ですね。
「解りました…父にはあらかじめ私から打診しておきましょう」
「助かります」
「その代わり、嘘ではなく本当の理由を教えて下さい」
「それが…」
嘘でしょう。
この国ではもう真面な商売が出来ないなんて、信じられません。
帝国で商売をすると此処の何倍もの価格での商売が成立するそうです。
「まさか、帝国の方では偽の金貨が流通しているのでしょうか?こうも景気に差が出るとは思えません」
「それは我がポートランド商会でも疑い、お金について徹底的に調べましたが、間違いなく本物でした」
この世界の金貨や銀貨、果ては銅貨まで全部金属の割合が決まっています。
特に金貨についてはちゃんとした金の割合で金貨を作ると、僅かに損するような『金』の量にしています。
『本物を作るのは国が僅かに損するようになっているのです』
だから、もし儲けたい。
そう思うなら、割合を変えた偽の貨幣を用意しなくてはなりません。
ですが、そんなのはすぐにバレます。
優秀な商人なら僅かな重さの違いでも分かり、持っただけで真偽が解ると聞いています。
王家ご用達のポートランド商会の従業員全員を欺くなんて、絶対に出来ません。
それにこんなになる迄、何故誰も気がつかなかったのでしょうか?
「解りました…直ぐに城に帰ります」
私は急ぎ城へ帰りました。
◆◆◆
城に帰った私が見た物は…机の上に大量に積まれた『退職願い』でした。
「お父様これは一体?」
「儂にもなにが起きたのか解らぬ、だが貴族を除く、雇っている者の多くがこれを押し付けて出て行ったらしいのじゃ」
不味い…これでは、この国が終わってしまうわ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます