第55話 魔物は狩れなくなった。



「行ってきます」


「「「いってらっしゃい(ですわ)」」」


宿に泊まった次の日の朝。


俺は話した通り1人で出かけた。


綾子も塔子も俺のことが好きなのは解っている。


フルールは奴隷だ。


俺が働いて食べさせていく。


神代家の人間としては当たり前の事だ。


神社だけあって、結構厳しい家訓があり。


例え神社を継がなくても、その辺りをしっかりしないと親族からお小言を言われる。


俺の歳の離れた従兄は18歳の時に16歳の子を孕ませ、できちゃった婚をしたが、叔父さん、叔母さんが言ったのは『責任をとるなら良い』だった。


18歳の従兄は直ぐに仕事を探し、昼間は大工見習い、夜は水商売のダブルワークを始めた。


18歳から24歳まで、働いて『結婚相手』には一切働かせなかった。


最も、そこ迄、していたのに、結婚相手の不倫が原因で離婚した時には可哀想で見ていられなかった。


叔母さんが言っていた。


『神代家の男は付き合った相手の中で『1番になる』別れた彼女は何時か思い知る事になる』と。


従兄は俺から見てもイケメンで性格が良く俺から見ても素晴らしい人間としか思えなかった。


大昔の事だが貴族や華族、武家を始め『名家』の人間が神代からの婿や嫁を望んだ。


神代家の人間には何かがあるのかも知れない。


実際に別れた彼女はすぐに不倫相手と別れ…従兄の素晴らしさを知る事になる。


復縁しないと解かるとストーカーに成った。


その後の事は…知らない。


だが、親族がいう神代家という家名。


此処は異世界。


それでも俺は神代家の家訓は守っていこう。


そう思う。


◆◆◆


『困った、実に困った』


今日は初日だし、常時討伐依頼をこなそうと思っていた。


討伐の殆どは『常時依頼』が多い。


これは特にギルドに、ことわりを入れなくても受けられる依頼だ。


この間の演習の時にゴブリンは問題が無かった。


恐らくだがゴブリンやオーク位なら知能が低いから、意思疎通が取れない。


魔族側との同盟に問題無く狩っても良い筈だ。


そう思っていたが…これが間違いだった。



森でゴブリンに会った。


何となく様子が可笑しいから、名乗りを上げてみた。


「我が名は理人」


そこ迄言った所で、いきなりゴブリンが両手をあげて動かない。


明かに『降参です』そんな感じに俺には思えた。


敵意が無いようだから様子を見ていると『ついて来い』そう言っている様に思えた。


そのままついて行くと。


「貴方が、邪神様の言う理人さんですね。はじめまして」


「はじめまして、その体格にその姿はもしや、ゴブリンキングですか」


上位種の存在を忘れていた。


ゴブリンにだってロードやキングも居る。


つまり『理知的な存在』も居る。


「そうです!貴方の言う通り、私はゴブリンキング。そして周りにいるのはロードにジェネラルになります」


「やはりそうでしたか」


「苦労しましたよ!如何にキング種の言う事でもなかなかゴブリンは理解しない。ですがもうご安心下さい。我らキング種がしっかりと管理していますので『野良』でもない限り、もう貴方と敵対する者はおりません。 今頃オークも同じ様にキング種が説得していると思います。オーガになるとあれでも知能がかなり高いので説明なく理解が出来ます」


つまり、この時点で俺はもうほとんどの魔物を狩れなくなった。


そういう事だ。


困ったな。


これで、俺はお金を稼ぐ手段が無くなった。


暫く考え事をしているとゴブリンキングはゴブリンに大量のお金の入った袋を持って来させた。


「これは?」


「異世界人の殆どは冒険者です。魔物が狩れなければお金に困るでしょうからと邪神様から渡す様に言われました。我々は人の金等使わないので『必要のない物』ですから、全部差し上げましょう」


これは凄く大金だ。


色々なお金が混ざっているから金額は解らないが、大金なのは一目で解る。


「ありがとう」


お礼位はいうべきだ。


大金をくれたのだからな。


「どういたしまして、食事でも一緒にとも考えましたが『ゴブリンの食事』は人間には不味いらしいですからな…そうだ性欲の方を満たしますか? 苗床の女が8人居ますから自由に使って貰って構いませんよ」


「いえ、遠慮します」


人間としてなら此処で戦って女性を救うのが正しい。


だが、最早ゴブリンたちは味方なのだ。


友好的でお金迄渡すゴブリンを殺す事は俺には出来ない。


見たら気が変わるかも知れないから『見ない』


ただ、心から『ごめんなさい』と被害者の女性に謝るだけだ。


「そうですか、残念です。理人様はこれから先、異世界人と戦う可能性が高い方です。敵の敵は味方。もし困った事があればいつでも訪ねて下さい」


「有難うございます…教えて欲しいのですが邪神様に関係ない魔物はいますか?」


「全ての魔族は邪神様を崇拝しています…理解できない馬鹿はいますが…もし狩りたいのなら、魔物ではありませんが『竜』は邪神様とは関係ないので狩っても問題はないと思います。」


たしかワイバーンは討伐対象だったな。


「ワイバーンは」


「亜流、竜ですね」


どうやら俺は…ほとんどの魔物を狩れなくなってしまった。


狩るならいきなりワイバーン…果たして俺に狩れるのだろうか?


取り敢えずゴブリンキングからもらったお金をアイテム収納に放り込むと俺は再度お礼を言って、ゴブリンの巣穴を立ち去った。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る