第53話 第二部スタート  引き入れる



旅には出たが、今後どうするのか?


何処にまずは向かうのか?


俺達は決めかねていた。


綾子も塔子もフルールにも凄く愛されているのが解かる。


特に、綾子や塔子には『神の借用書』を使ったのだから、負い目もある。


死ぬ気で守らないといけない存在だ。


お爺ちゃんが言っていた。


『神代家に生まれたからには『死ぬ気で女を守れ』』と。


これは俺の家の家訓だ。


だから、俺は魔王討伐よりも、何よりも3人の安全が優先...これだけが『俺が心に決めた事』だ。


出来る限り戦っては貰いたくない。


やはり、この事は、口に出して伝えるべきだな。


「話しがあるんだ!実は3人にどうしても伝えたい事がある。俺は皆には戦って欲しくない…と思っている」


「理人くん、私は大賢者だよ、流石にそういう訳にはいかないと思う」


「気持ちは嬉しいけど、聖女の私がそういうわけには理人、いかないわ」


「それは本気で言っているのですか?」



「笑わないで聞いて欲しい! 俺の家、まぁ神代家なんだが、結構古臭い事にな『男は外に出て働き女を守る』そういう家訓があるんだ。将来は兎も角、3人とは、これから暫くは一緒に暮らすんだから、この家訓を守りたい…もしどうしても自分で出来なくなったら、その時は頼るかも知れない、だけど暫くは、俺1人で頑張らせて欲しい」


演習はゴブリンだから良かった。


俺はテラスちゃんの話では『魔族』や『魔物』と戦わないで済むように話がついている。


どのレベルの魔物から有効な話かは解らないが、そのうち魔族や魔物に違和感がでてくる可能性が高い。


俺は知性のある高位の魔族や魔物と戦わないで済む。


ある意味安全が約束されている。


だが、彼女達は違う。


テラスちゃんの加護は俺だけしか無いなからな。


彼女達を戦う場所に立たせない。


『戦わせない』という選択が一番良い筈だ。


3人を危ない目に会わせたくないのも本心。


家の家訓も本当の事だ。


これでどうにかなる納得してくれないかな。




「あの、理人くん、それは私に専業主婦になって欲しい? そういう事だよね! 謹んでお受け…あたっ」


「理人、それは私が好きだから、戦って欲しくないそういう事よね? それなら仕方ないよ!うん、解った理人を一番理解して…痛いっ!何するのよ綾子」


「先にぶったのは塔子ちゃんだよね?」


「綾子おおおーーっ」


二人が拳を握りしめている。


まさか喧嘩は…しないよな。


「あの宜しいんですの? 理人様に見られていますわよ!」


「「あっ」」


2人とも握りしめた拳を降ろし、恥ずかしそうにしている。


「別に気にしないで良いよ、これからは堅苦しいのは無しにしよう! どうせ長く一緒に居れば取り繕う事なんて出来なくなるからね…俺だって変な面沢山あるから」


まぁ幾ら完璧に見えても学生だもんな。


異性に良く思われようと「外面」があるのが当たり前だ。


誰だって異性に好かれたい。そう思うのは当たり前だし、好きな人に良く見られたいのは当たり前だ。


「そうですわね…どんな残酷な人間でも好きな人の前では優しくなる。それは当たり前の事ですわね。それはそうと本当に良いのですか? 私に『働かないで良い』なんて言った人間は理人様が初めてですわ」


「本当に構わないよ…『死ぬ気で女を守れ』それが家の家訓。それなのに戦闘の場に女の子を立たせたらご先祖様に面目が立たない。それにもし元の世界に戻れたら爺ちゃんと親父に死ぬ程怒られるから」


「私は貴族でしたからわかりますわ。家訓とは守る物ですわね。それでは私はそうですわ、留守を守るとしますわね」


「フルールさん!それはどういう意味なのかな?」


「フルール、何が言いたいのかしら?」


「妻とは夫の留守を守る者ですわね。だから理人様の為にしっかりりと、留守を守るのですわ」


「フルールさん、私貴方が嫌いです!」


「ええっ綾子気が合うわね、私も嫌いだわ」


フルールの方がやはり1枚上みたいだ。


綾子は塔子には『ちゃん』なのにフルールには『さん』をつけている。


「そうですか? 私はお二人とも好きですわ」


「「えっ」」


「だって理人様が貴方がたを好きなのですから、私も好きですわ!理人様が好きな者なら私、豚でも愛せますわ」


「「やっぱり嫌い」」


口ではこう言っているが、なんだか仲良さそうで凄く羨ましい。


◆◆◆


その日はただ、目的も無く王都を離れて次の街まで歩いた。


そこに宿をとり早目に休んだ。


一応王城を出て、初めての宿。


俺はバラバラに部屋をとった。


『『『城では一緒に寝ていたよね(ましたわ)』』』


そう言われたが、流石に旅の初日に一緒に寝るのは…と上手く誤魔化した。


◆◆◆


深夜になり俺はフルールに会いにいった。


フルールだけには俺の状態を知って貰おうと思ったからだ。


軽くノックをするとフルールは直ぐに反応した。


「理人様、もしかして夜這いですか? 勿論理人様なら受け入れますわ」


「フルール、ちょっと話をしたいんだが良いか?」


冗談なのは解るから、敢えて答えず話を進めた。


「お話しだけなのは残念ですが、ええっ構いませんわ」


「フルールは女神は好きか?」


「女神と言えばイシュタスの事ですわね…虫唾が走る位嫌いですわ」


テラスちゃんの言う通りだ。


これなら話しても良いだろう。


俺は自分の事についてフルールに全てを話した。


「やはり素晴らしいですわ…私は本当にあの女神イシュタスが嫌いでして、綺麗ごとばかりの頭が花畑の聖職者も嫌いですの…敵対する神が居るなら是非信仰したいですわね」


本当に女神イシュタスが嫌いなんだな。


これなら時期を待って『日本人にならないか』と話しても良いかも知れない。


だが、それより聞かないといけない事がある。


俺はテラスちゃんのお陰で魔族と知能のある魔物とは争わない事が決まっている。


そうなれば自然と敵は『人間側』になる。


更に言うなら『異世界人(元日本人)』を狩ればスキルやジョブが手に入るしレベルも上がる。


だが、流石に何も悪い事していない人を手にかけたくない。


それをする気なら、とっくに同級生を狩っている。


だから『悪人の異世界人(元日本人)』を狩りたい。


これが今の本音だ。


この事は今の段階では綾子にも塔子にも話せない。


相談できるのはフルールだけだ。


「気にする必要は無いのですわ…この世界には悪人は山ほどいますわ。異世界人に絞ってもそれこそ腐る程いますわよ」


「居るんだ…悪人の異世界人」


「居ますわ! この近くならジャミル男爵、元大賢者がクズで有名ですわね!」


「もし、そのジャミル男爵を俺が狩りたいと言ったら、反対するか?」


「反対しませんわ…私にとっては理人様が全てです。他の人間が困ろうが死のうが関係ないのですわ。殺す事で理人様が喜ばれるなら…善人だろうと赤ん坊だろうと喜んで殺せますのよ! 1万人を殺せば理人様が幸せに成るのなら1万人が善人であっても殺しますわ。それが『黒薔薇』のフルール、私の愛し方なのですわ」


「凄いな、フルールは」


「こんな私を受け入れられる理人様の方が凄いですわよ」


好きな人の為なら『手を汚す事も厭わない』


これは…ある意味純粋な『愛』なのかも知れない。


ジャミル男爵を狩るかどうかは解らない。


だが、こうして俺の最初の目的地はジャミル男爵領に決まった。








悪い異世界人には違いませんわ

理人様から相談を受けましたわ。


これは2人だけの秘密なのですわ。


何て甘美なお話しなのでしょう。


綾子も塔子も知らない、私と理人様だけの秘密。


これは理人様が『私を愛し、信頼してくれている』そういう事に違いありませんわ。


しかも、まぁ二人と一緒なのは不本意ですが『働かないで良い』なんて初めての経験ですわね。


今迄の周りの人間は私を利用するか、すり寄ってくるクズしか居ませんでしたわ。


本当に…『私の為に生れて来た様な男性』ですわね。


理人様の要望に応える為にも『悪い異世界人(元日本人)』を探さなければいけませんわね。


『悪い異世界人等腐る程いますわ』ですがこれは半分が本当で半分が嘘なのですわ。


悪い事した異世界人(元日本人)は確かに多くいますが。


その殆どが過去の事で『償っている方』が多いのですわ。


若くして転移してくる方が多く、力があって、それを咎める人が居ないのですわ。


若い頃はやりたい放題。


その結果不幸を振りまく存在も多いのですの。


ですが、大体が途中から更生をしだして、殆どの方が真面になるのですわ。


まぁ、自分に力がある事が解り、チヤホヤされる様になると、最後には『名誉』が欲しくなるのですわね。


だから、最初は馬鹿な事をしても、最後にはそこそこ立派になる人物が多いのですわ。


それが異世界人なのですわ。


これは当たり前の事なのですわ。


最初は、力があるから『何でも出来る』『何をしても許される』その二つに過信しますの。


そして『手に入らない物がある』と無茶をしますの。


欲しい物を無理やり奪ったりしますの。


恋人が居ようが、婚約者が居ようがお構いなしに、好きな女を無理やり手に入れたり、


そして、気に食わないと暴力を振るいますわ。


その能力の高さ、魔族と戦って貰わなければ困る国や貴族はそれを見て見ぬふりをしますの。


だけど、すぐに『気がつきますの』、自分であれば、そんな物、いやそれ以上の物が簡単に手に入ると言う事にですわ。


それに気がつくと結局は簡単には手に入らない『名誉』が欲しくなりますの。


今現在は、そういう事が起きないように召喚の時に時間を使って『異世界人(元日本人)であれば何でも手に入る』そういう事を国が教える様になりましたの。


あらかじめ異世界人に好意のある者をメイドにしたり、貴族とのお見合いをさせたりしますわね。


そして『奴隷』ですわ。


そこには決して異世界には居ない、綺麗なエルフやフェアリーという存在が居ますの。


それが、自分なら簡単に手に入ると言う事を意識させる事で、犯罪を犯す様な異世界人は減りましたわね。


ですが、ひと昔の異世界人は違いますわ。


国が経験不足で『そう言った教育』をしなかったせいで、ひと昔前の結構多くの異世界人は『何かしらの犯罪』を犯していますわね。


そういう意味では、ひと昔前に召喚された異世界人は『全員理人様の敵ですわ』


ですが…ここからは理人様には言えない事なのですが…


彼等の多くは『罪を償った者が多い』のですわ。



例えばある異世界人のお話しをしますわね。


今みたいな制度が定まる前の事ですわ。


異世界から召喚された少年があるパン屋の店員の女性を好きになりましたの。


ですが、その女性は既に結婚して夫と子供のいる身でしたの。


ただの異世界人なら良かったのですが彼のジョブは『聖人(聖女の男版)』でした。


どうしてもその女性を欲しかった彼は王に対してこういいましたのよ。


『彼女がどうしても欲しい。もし彼女を僕にくれないなら『戦わない』』


その後は…お決まりですわ。


聖人は勇者パーティの防御と回復の要。


どうしても必要な戦力なので、国は彼女を無理やり夫と別れさせ彼に与えましたの。


毎晩の様に彼女は泣きながら彼に抱かれました。


そうしないと自分達の夫と子供が街が国が困るからですわね。


ですが、ある時彼は気がつきましたの。


『聖人である彼は幾らでもお金が稼げると言う事』そして『奴隷商に行けば彼女より綺麗な女性が金貨10枚もしないで買える事』に気がついたのですわ。


そして彼女は要らなくなり…返しました。


ですが…そこで彼女は普通に過ごせるのでしょうか?


過ごせる訳ありませんわね…旦那にも子供にも、街の人々にも『異世界人に犯されていた』そういう事実を知られてますからね。


ここ迄なら…ただのクズ男の話ですわ。


ですが…彼は後悔しましたの。


多少は良心の呵責があったのでしょう。


そして考えた結果…彼女や夫や子供にお金を払いましたの。


その金額は金貨1000枚(約日本円にして1億円)


この世界は賃金が低いのでこの金額があれば自分達はおろか自分の子供下手すれば孫迄働かないで暮らせますわね。


まぁ、レベルが上がれば竜すら狩れる彼からしたら、こんな大金ですら半月もあれば稼げますわね。


彼女達は貰ったお金で国を離れ、帝国に行きパン屋を趣味で開き、遊びながら暮らしているそうですわ。


そして、彼はその事件の後は決して、この様な犯罪を犯さず、まぁ複数奴隷を購入したそうですが、魔族と懸命に戦い、それが評価され、貴族になりましたわ。


さぁ、ここで問題なのですわ?


確かに彼は悪い事はしましたわ…ですが償ったと言う事になりませんか?


多分、この国の人間、貴族でも同じ事をしても此処までの償いはしませんわ。


この世界は貧しい者が多くいます。


言い方は悪いかも知れませんが、この被害にあった女性のレベルなら金貨5枚も出せば奴隷として買えますわ。


その彼女を傷物にした代償で金貨1000枚払っていますわ。


実際に彼女やその家族は莫大なお金を貰い、その後の人生を幸せに過ごしています。


そして、ここ迄のお金を貰ったせいか『その罪を許しています』わ。


簡単にお金を稼げるからした事と言うのは明白ですわ。


ですが同じ事をしたこの世界の人間は此処までの償いは誰もしていませんわね。


つまり、『悪い異世界人(元日本人)等腐る程いますわ』は正しいのですが…こんな風に罪は一応償っている方が多いのですわね。



ですが…そんなのは関係ないのですわ。


だって、理人様には『沢山の異世界人(元日本人)』を狩って貰って強くなって頂かないとなりませんわ。



だから…『罪を償った』そんな話をする必要はありませんわ。


『悪い事をした異世界人(元日本人)』には違いありませんからね。





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