第7話 平城さんと大樹と清算


これでどうにか生きていける。


希望を見出し、部屋でゆっくりしていると絹を引き裂く様な悲鳴が聞こえてきた。


「きゃあぁぁぁぁぁー――助けてー-」


この声を間違えることは無い、平城さんの声だ。


俺は急いで平城さんの部屋に駆けつけた。


上半身の服を破かれ、ブラが見えた状態の平城さんに大樹が馬乗りになっていた。


平城さんの顔が少し腫れているから、もしかしたら殴られた可能性もある。


だが、どうも様子が可笑しい。


大樹がまるで襲っている様な状態なのに平城さんは抵抗していない。


「なんだ、お前は…理人じゃないか? 誤解するなよ、俺は平城を口説いてこれから楽しもうと思っていただけだからな」


俺は平城さんを見たが…顔を少し赤くして発情している様に見えた。


「そうよ、理人君なんで君が此処にいるの?」


俺は耳を疑った。


平城さんがこんな事を言うとは思えない。


大樹は俺が来た事により、平城さんから退き立っていたのだが、平城さんは俺の前なのに自分からスカートを脱ぎだした。


可笑しい、さっき悲鳴が間違いなく聞こえた。


それに平城さんに告白した時に間違いなく『手応え』があった。


万が一があって、俺の知らない所で平城さんが大樹と付き合っていたとしても…他の男の前で裸になろうとする訳はない。


だが、目の前の平城さんは明らかに大樹と恋人関係にあり、これからしようとしている様にしか見えない。


声が震える。


「だってさっき悲鳴が聞こえたから」


どうにか、声を絞り出した俺に大樹は嫌な笑顔を向けてきた。


「あっ理人悪いな!平城てめえが大きい声出すからだぞ、まぁ見ての通り、同意の上でする事だ。日本なら兎も角、此処は異世界だ!問題は無いだろう?」


嫌らしい目で平城さんを見ながら、勝ち誇った目で見下すように話しかけてくる。


何かが可笑しい。


大樹は見た目派手で、俺様系のホストの様な二枚目だが、平城さんはその半グレの様な性格を嫌っていた。


いや嫌っていたなんて物じゃ無い『平城さんは大樹が嫌いだった』筈だ。


以前平城さんが襲われそうになり、間に入り助けた事もあった。


それにさっき俺の思いに答えてくれた。



「平城さん、俺の事、さっき好きって」


俺がそう言うと平城さんは俺を遮り…


「なんで、私が好きなのは大樹よ!そんな事を言う訳無いわ…これから何するか解るでしょう! とっとと出て行ってよ!」


平城さんはスカートを脱ぎ捨てて、破かれた服を自ら脱ぎ捨てていて、今じゃ完全に下着姿だった。


そして、そのまま下着にも手を掛けていた。


「もう良いだろう? お前は振られたんだ」


大樹が嫌な笑顔で、にやりと笑っていた。


平城さんは俺が居るのに裸になるのを止めようとしない。


俺は泣くのを堪えながら部屋を出ようとしたが…テラスちゃんの声が頭に聞こえてきた。


『騙されないで、これは勇者だけが使えるスキル『魅了』よ』


念話の様にテラスちゃんに助けを求めた。


『テラスちゃん、頼むから、どうにかして! 助けてくれ!』


『あの子、平城綾子は異世界人、もう日本人じゃ無いのよ?私達日本の神を捨てた存在、僕には助ける義理は無いよ…理人君が悲しそうだから教えてあげただけだ』


『そうなのかも知れない!だけど、俺は平城さんを助けたい』


『理人、もしかして、あの子欲しい?』


『違う!普通に戻して欲しいんだ!そして大樹から守りたいんだ』


『それは出来ない…君の物にするか?放っておくか?その選択しかないよ…』


それしか出来ないのか、それなら…決まっている。


大嫌いな大樹の物に平城さんをする訳にはいかない。


『それしか選択がないなら、俺の物にする!』


『解かったよ!今迄沢山の人間が異世界の女神に攫われたんだ。だから、幾ら取り返しても問題は無いよ!今回は僕がやってあげる『神の借用書』』


ブラを外しながら大樹に平城さんが抱き着こうとした瞬間...


時間が止まった。


何処からか声が聞こえてくる。


テラスちゃんの声を大人にしたような澄んだ声だ。


《平城 綾子への神の借りの精算を始める》


『精子と卵子が結合』なに不自由なく五体満足に産まれた。


子供の時に病気に掛かり死に掛けていたのを両親の願いを聞き救った。


理人と結ばれたく縁結びの神に祈り、神は理人に会える確率をあげた。


天満高校に入りたくて学問の神に祈り神が受験に手を貸した。


愛犬ぺスが死に掛けた時に近所の神社に祈り、神が手を貸してその命を助けた。


母親が癌になった時に神に祈り、母親に神が奇跡を起こしその命を助けた。


他にも112以上の願いを神や仏にし…その願いの手助けを神がした。


それらの対価を日本人を捨てた存在、平城綾子から『身と心を持って払わせるもの』とする。


『よって、平城綾子の所有権は理人の物になる。』


その声を最後に再び時間は動き出した。


「いつまで此処にいる気なんだ!ほら邪魔だ!いい加減解っただろう?ほら、出て行けよ!」


「きゃぁぁぁぁぁぁー―――っ! なんで大樹が私に抱き着いているの!しかも私下着姿じゃない! 痴漢レイプ魔ぁぁぁー-死んじゃえーーっ」


平城さんは大樹を突き飛ばし、周りにある物を片っ端から投げつけはじめた。


「クソっ『魅了』が解けたのかよ、時間は幾らでもある今日の所は…退散だ、平城、面が良いからって覚えていろよ!お前は本当にムカつく!もう良い!いつか俺の物にして遊ぶだけ遊んで残酷に捨ててやるからな」


『馬鹿だよね? こんなチャンス逃がす訳ないじゃない? 『神の借用書、請求バージョン』』


再び時間が止まった。


『あのテラスちゃん大樹は要らないよ』


流石に大樹を…そう考えたら気持ち悪い。


『馬鹿ね…この子勇者じゃない? 僕にとっては敵である女神イシュタスが一番強い力を与えた奴じゃない? スキルとかジョブとか理人がこの世界で生きる為に欲しい物を沢山持っているんじゃないかな? それにまた何かしでかすから物騒な物は全部取り上げた方が良いと思うよ!』


『確かに大樹は勇者だから、間違いなくあるけど良いのかな』


青山 大樹

LV 1

HP 2200

MP 900

ジョブ 勇者 異世界人

スキル:翻訳.アイテム収納、聖魔法レベル1 雷魔法レベル1 聖剣創造 魅了




『さぁ、そこから好きな能力やジョブやスキルを好きなだけ貰うと良いよ! 勝手に理人仕様に変換されるから、だけど、地球の神が彼にあげたご利益分だけしかとれないから、欲しい物から優先して奪うように気を付けてね!』


見えているスキルボードの様な物に手を伸ばした。


『勇者』のジョブを取り上げた→ 借証書から『暴行事件の隠蔽が上手くいくよう神に願い、それを叶えた分を清算した』


さっきと同じようにテラスちゃんを大人にした声が聞こえる。


『魅了』を取り上げた→借証書から『裏口入学がバレない様に願い、神が手を貸した分を清算した』


『聖剣創造』を取り上げた→ 『バイクで人をはねた罪がバレない様に神に祈り神が手を貸した分を清算した』


『聖魔法』を取り上げた→『バイク盗難の隠ぺいを願い、神が手を貸した分が清算された』


『雷魔法』を取り上げた→『薬物事件がバレない様に祈り、隠ぺいに神が手を貸した分を清算した』


『アイテム収納』を取り上げた→『父親の財布盗難がバレない様に祈り、それに神が手を貸した分を清算した』


尚、これでも1/8も回収していない。


『取り上げた能力その所有権は理人の物となる』


再び時間は動き出した。


「クソっ『魅了』が解けたのか、時間は幾らでもある今日の所は許してやる!だがな、明日にはそいつはいないし、俺は勇者だ、お前は俺の物になるしかねーんだよ! 此処迄、俺を拒んだんだ、只じゃ置かねーからな、弄んだ末にボロ雑巾の様に捨ててやるから覚えておけよ!」


「いや、嫌、嫌――――っ嫌だぁぁぁぁー――っ」


泣きながら恐怖からか平城さんは物を投げつけていた。


大樹は高笑いをしながら部屋から出て行った。


この世界の女神イシュタスは頭が可笑しいのか?


なんで、もう少し真面な奴を勇者に選ばないんだろうか?


大樹が出て行き部屋には平城さんと俺の二人だけとなった。


テラスちゃんの声も今は聞こえて来ない。


下着姿の平城さんを見ないように部屋を後にしようとしたが…


「理人くん、私を連れて行って」


そう言うと平城さんは後ろから俺に抱き着いてきた。


テラスちゃんの話では『平城さんは俺の物』になっている。


もう置いて行くという選択は無い。


大樹以外にもまだ、大河、聖人、塔子がいるから、平城さんの危機は変わらない。


どうした物かと俺はが考え、黙っていると…


「理人くん、さっき好きっていったじゃない? 私も大好きだよ」


震えた手で平城さんは下着に手を掛けた。


「待って、もう脱がないで良いから、頼むから服を身に着けて」


「理人君が言うなら着るけど、理人君なら…恥ずかしいけどOKだからね」


「…ああっ」


情けない事にどう返事してよいか解らず、答えに詰まった。


「絶対に必ず連れて行ってよ! 置いて行ったら探し出して許さないんだからね」


此処迄言われたらもう腹を括るしか無いな。


「解かった城を出る時には必ず連れて行くから安心して!今日は取り敢えず寝ようか?」


「うん」


なんで枕を持って俺についてくるんだ?


「えーと」


「何?」


平城さんは俺の部屋に来ると、俺を見つめながらそのまま寝てしまった。


横が空いているから一緒に寝よう…そういう事なのかも知れない。


まぁあれだけ、散らばった部屋じゃ眠れないから仕方が無いよな。


平城さんの部屋から毛布を持って来て、俺は横で寝る度胸が無いので床で眠る事にした。


『テラスちゃん、今良い?』


『眠いけど少しなら良いわ』


『平城さんの性格可笑しくなっていないか?』


『可笑しくないよ?身も心も理人の物だから『恋愛指数が100』なっただけだよ。尤もおしどり夫婦やラブラブな恋人同士でも普通は『恋愛指数70』が精一杯だから、お互いに好きあっていた元の状態を考慮しても違和感を感じるかもね』


『それって…どういう事?』


『ガタガタ言わなくて良いんじゃない?…元から好きあっていたならこれで良いじゃない? 別に可笑しくないわ…ただ、あれが彼女の本性、好きな人にだけ見せる性格、そう思うえば可愛いでしょう?』


『わかった、それしか方法が無かったんだよな』


『そうね』


『あと、大樹から『勇者』を奪ってよかったのかな、これで魔王に対抗する手段が無くなったんじゃないのか?』


『この世界は僕たちの世界じゃないからどうでも良いんだよ!ムカつく女神イシュタスの世界だもん、別に滅んだってどうでも良いんだ!…まぁ勇者1人居なくなった位じゃすぐに滅んだりしないから安心しなよ...それより明日は追い出されるんだから寝た方が良いよ』


『最後にもう一つだけ良いかな?』


『仕方ない良いよ…特別だよ』


『大樹の悪い事にも『神』が手を貸したみたいだったけど? 何故?』


『ああっ、それなら日本いや、地球の神の中にも邪神や悪神も居るじゃない? そう言った神には結構な悪人好きも居るんだ…悪人だから全く願いを叶える手助けがされない…そう言うわけじゃ無いんだよ』


『確かに言われてみればそうですね』


『それじゃ、流石に疲れたから僕ももう寝るからね』


今日は色々あって疲れた…俺ももう寝よう。


大きな月を見ながら俺は眠りについた。



【今現在のステータス】


青山 大樹

LV 1

HP 18

MP 0

ジョブ 無し 異世界人

スキル:翻訳


理人

LV 1

HP 2400

MP 860

ジョブ:英雄 日本人

スキル:翻訳.アイテム収納、術(光1 雷1) 草薙の剣召喚 魅了

※非表示の物あり



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