第5話 お城で過ごす最後の夜 テラスちゃん登場
窓から見える地球とは違い、物凄く大きな月を眺めながら考えていた。
俺の頭は不安で一杯だ。
明日の午後には俺はこの城を追い出される。
その後は何も知らないこの世界で一人で生きて行かないといけない。
俺は爺ちゃんや親父にかなり鍛えられていた。
此処が日本であれば、アルバイトをしながら普通に生活が出来る位の能力はある筈だ。
たとえ海外でも『一人で生活は出来る』その位の自信はある。
勿論、それはあくまで一般的な範囲でだ。
日本、いや地球で一番強くなっても人間は熊やライオンには勝てない。
何処かに、凄い人間は居るかも知れないが…表向きはそんな物だ。
俺が『鍛えて貰った』というのはあくまで一般的な範囲だ。
こんな、魔物や魔族が居る様な世界で生きていく…流石に爺ちゃんだってそこ迄の事は考えてないだろう。
しかも、数値で見た俺は…この世界で凄く弱い。
多分、冒険者も務まらないな…まずはどうにか『生きのびる』事を考える…そこから考えるしかないな。
◆◆◆
今日は召喚されたばかりだ。
流石に女癖の悪い大樹でも、召喚されたその日の夜に問題は起こさないよな。
彼奴は危ない奴で女癖が悪い。
前の世界では『警察』『学校』『家族』抑止力があったが、この世界には無い。
何か抑止力があれば良いが…果たして『勇者』となった大樹に抑止力となる存在はあるのだろうか?
大樹は、平城さんを狙っていた。
俺は傍にいられないし、もし傍に居る事が出来てもこの能力じゃ守る事すら出来ない。せめてこの国が真面な国だと信じる位しか今の俺には出来ない。
だが、大樹が勇者で、国王自らが大樹と、にこやかに話す位だ。余り期待はできないな。
ぼんやりと、何も浮かばないまま月を見ていると頭の中に澄んだ女性の声が聞こえてきた。
『きみは、凄いね..うん、うん異世界に飛ばされても『日本人』で居るなんて偉い!偉い!』
絶望過ぎて幻聴が聞こえてきたのか?
だが、その声の方に振り向くとそこには、綺麗な黒髪の美少女が浮いている。
どこぞの女神も外見だけは美しかったが、目の前にいる彼女はそれとは比べ物にならない神々しさがある。
見た感じはおかっぱの髪型で小学5~6年生位に見えるが、それでも、その容姿に矛盾して『大人っぽく美しい』そう思えた。
彼女も恐らくは人間じゃないのかも知れない。
俺が驚いているのを尻目に目の前の美少女は俺の額に額をくっつけた。
『そう君は神社の子なんだ!神代の子なんだね!僕も君みたいな子は愛しいよ!うん君は我が子なんだ!本当に愛おしい!』
まじまじと目の前の美少女を見入ってしまった。
その姿は…うちの神社に祀ってある『天照様を少女にした』姿に思えた。
凄く若く感じるけど、どこぞの女神より遥かに神々しい。
「貴方様はまさか!天照様ですか?」
『僕の名前はアマ=テラス。そうとも言うけど、違うとも言えるよ…まぁ分体、眷属って所だね…気軽にテラスちゃんって呼んでね』
「テラスちゃん?天照様の分体?いや眷属って事は神様という事で間違いないでしょうか? すみません」
俺はその場に跪いた。
『そうね、それであっているよ!跪かないで良いよ!日本の神にとって貴方は子供みたいなものだからね。特に君みたいに信心深い子は特に可愛いんだ!最近頻繁に起こる異世界の神による『誘拐』『盗難』が気になってね、見回っていたんだ』
「誘拐、盗難?」
神様が動く位の盗難、誘拐? 一体何が起きているんだ!
『そうだよ!誘拐に盗難。異世界の女神や神がやっている事は誘拐、盗難だと君は思わない?』
「確かに『誘拐』に近いかも知れませんね」
アマ=テラス事、テラスちゃんは心底腹が立つ、そんな顔をした。
『良いかな! 人間は地球の神が造った者なのよ! そして僕達を含み沢山の神々が何時も見守っているんだ!それを召喚魔法で連れ去るなんて誘拐以外の何物でも無いよ!自分達が優れた人間を作れないからって盗んでいくんのだから、盗難だよ!』
たしかに、地球には沢山の神々が居る。
勿論、うちの神代神社にも祀られている。
地球の神々が作った人間。
それを許可なく勝手に連れ去るなら…『誘拐』に間違いない。
「確かに、それなら女神は『誘拐犯で犯罪者』ですね」
『その通り!それでね、連れ去られた人間も地球の神から見たらね『罪深き者』になるの!』
罪深き者。
ただ、連れ去られただけで…罪としては重く無いか。
「『罪深き者』ですか?」
『そう、罪深き者、それは『召喚されてジョブやチートを貰った者』の事だよ。彼等はもう僕達にとって『救う価値が無い罪深い存在』で『僕たちの子』じゃ無くなってしまうんだよ』
「何でそうなるのですか?」
『君はギリシャ神話の『ペルセポネとザクロの話』を知っているかい?』
「たしか、ハーデスに攫われたペルセポネが冥界でザクロを食べてしまった為に1年の1/3は冥界で過ごさなければならいという話ですか?」
『そう、それ…ザクロを食べただけでそうなんだよ、女神から沢山の物を受け取った以上、もう駄目、彼らは『僕たちの子』じゃなくて『女神イシュタスの子』だよ…』
そういうテラスちゃんの目は凄く悲しそうだった。
「だけど…」
『彼らはだけど薄情だよ…だってそう思わない?『我が子の様に思い見守っていたのに、チート欲しさに女神に跪き他の世界に行ってしまう』こんなの『育ての親を捨ててお金欲しさに出ていく子供』みたいな者でしょう? 『親を捨てる子』ならせめて、親が買い与えた物を置いていくべきだよね。まぁ『親を捨てる子』なんて可愛くないから、もう要らないけどね』
確かに日本の神からしたらそうなのかもな。
だけどクラスの人間も担任の緑川も、そこ迄考えて無かった筈だ。
『女神が居るのなら、日本の神も居るかも知れない』
本当なら、そう考えなくちゃいけない筈だ。
俺は神社の子だから、考え方が神道よりで、正しい事は解らない。
だが、人間が地球の神が造った者なら、それを盗む女神は確かに誘拐犯で犯罪者だ。
そして『子供の様に可愛がっていたのに、チートやジョブ欲しさに、その世界を捨てていく人間』
本当の所は、そこ迄頭が回らなかっただけだろうが、
嫌われるのは当たり前だ。
「それで俺はこれから日本に帰れるのですか」
テラスちゃんは悲しげに首を横に振った。
『ごめんね、残念ながら、それはかなり難しいんだ…だけどね、貴方は異世界に居ても『日本人』のままだった。だからね、ちょっとした力をあげるよ』
「力ですか?」
『そう力をあげるよ…ちょっと待って、考えるからさぁ』
そう言うとテラスちゃんは可愛らしく腕を組んで、真剣に悩んでいるように見えた。
一体どんな力を俺にくれるのだろうか?
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