五、寄道の姫(二)
半分観光地となっている那廣大社の境内には、様々な施設がある。宝物殿や休憩処、札授け所、御守りやおみくじを売る場所もあった。
その中の一つに、宝劉は目を付ける。
「私、おみくじ引いてみたいわ」
指をさす先には授与所があり、紅い袴の巫女が立っている。
「日暮れには次の町に着くでしょうし、構いませんが……」
彩香の表情は明るくない。
「どうしたの?」
「その、路銀が少々、不安でございます」
宝劉が訊くと、彩香は正直に言った。
「それなら、俺たちが稼ぎますよー」
のんびり提言したのは燿だ。
「そのくらいの時間は、あるかい?」
「はい。大丈夫ですわ」
「良かったぁ」
彩香の返事に、宝劉は胸をなでおろした。
授与所へ行くと、巫女が頭を下げる。
「おみくじをお願い致します」
彩香が言う。
「おいくつ、御入用でしょう?」
そう返ってきた。
「せっかくの那廣大社だし、みんなも引いたら?」
宝劉は家臣たちにおみくじを勧める。
「そうですね、引かせていただきます」
一瞬困惑が漂った空気の中、舜䋝が言った。その流れで、全員おみくじを引く事になる。
「では、おみくじを五つ、お願い致します」
「かしこまりました」
巫女は六角形の細長い箱を持ってくる。
「お一人様ずつ、箱をよく振ってから、逆さにひっくり返してくださいませ。番号が出て参りますので、私にお知らせください」
さっそく宝劉から順に、箱を振ってみる事になった。
「どんな結果が出てくるのかしら?」
そう言いながら箱を逆さにすると、五七と書かれた細い棒が穴から出て来た。
番号を伝えると、巫女は奥の棚から一枚の紙を持ってきた。
「どうぞ」
宝劉は胸の高鳴りを感じながら、彩香経由でそれを受け取る。
「ありがとう」
さっそく見てみると、一番上に吉の字が見えた。
「あら、吉だわ」
「それは良うございました」
宝劉が、おみくじの詳しい内容を見ている間に、他の四人もくじを引く。
「私も吉でした」
空鴉が言う。
「俺は大吉。やったね」
「私は、小吉でしたわ」
それぞれ大まかな結果だけ報告し、病気や待人、恋愛などの細かな内容を見る。
「舜䋝は? どうだったの?」
宝劉が手元をのぞこうとすると、舜䋝は慌てて紙を隠した。
「あら、どうして隠すの?」
「いえ、あの、その……」
舜䋝は目に見えて動揺する。
「見せてくれたっていいじゃない」
「いえ、何と言うか、その……つまらない結果でしたので……」
「……ふぅん」
宝劉は、必死に結果を隠す舜䋝を怪しんで、じーっと見つめる。
「その、あの、本当に、つまらない結果ですから……」
「……まあ、いいわ。結んで行きましょう」
おみくじ掛の方に歩いていく宝劉の背中を見ながら、舜䋝はほっと息をつく。
目を落とした結果の恋愛の欄には『災いあるも、想い通ず。』と書かれていた。
「そう言えば、舜䋝から聞いたけど、燿ってまだ恋人募集中なの?」
「ふへっ?」
おみくじを結び終わった途端、いきなり話を振られ、燿は妙な声を出す。
「あー、そうですねぇ」
そして宝劉の質問には答えず、舜䋝の頬を引っ張った。
「殿下に余計な事を言うんじゃないよ。悪いのはこの口かな?」
「い、ふぁいれす……」
「要らない情報を横流ししないの。まったく」
「ふいまふぇん……」
それを見た空鴉が笑う。
「兄さん、あんまり後輩をいじめちゃだめですよ。口止めしなかった兄さんも、悪いんですから」
「それはそうだけどさぁ」
蓮華のやり取りを笑って見ながら、宝劉はやはりにぎやかな旅路は良いものだと、実感した。
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