最強のシックス・ホルダー(1)



セントラル 南西門前



土の国へ向かうため、聖騎士や魔法使い、商人などが長い列をなしていた。


そこに青髪で眼鏡をかけた魔法使いの少年も並んでいた。

魔法学校の制服を着ているが、上着は着ておらず、その代わりに膝まである黒いローブを着用している。

ネクタイの色は青で、水の国出身の魔法使いであるこはわかった。

だがさらに周囲の人間はこの魔法使いが何者なのかわかっていた。


「あれ、今年の対抗戦の優勝者のアイン・スペルシアか。あの年で、あの顔つき……只者じゃないな」


「二つ名候補だろ。スペルシア家ならシックス・ホルダーにも手が届くな」


「スペシャルスキル持ちなんて、この世界でも数人しかいないしな」


アインはそんな周囲の声が聞こえていた。

顔は真剣な表情をしているが、アインの心臓はバクバクと高鳴る。

注目されるのが苦手なアインにとってはこの状況はストレスでしかなかった。


アインの胃が少し傷み始めたあたりで、ようやく南西門をぬけ、土の国へ入国した。


アインはあまりの日差しに目を細め、さらに見渡す限りの砂漠地帯に驚いた。

そこから伸びる岩の道路にも目を奪われるが、道路の先は熱で歪んでいた。


「あ、そういえば、ここからどう中央まで行こう……」


アインは重大なことを思い出した。

水の国では、門を抜けたところにスペルシア家の馬車を待たせていたが、他国ではそうもいかない。


アインは周りを見るが、それぞれが荷造りし、歩いて向かう者、荷馬車を用意していた者などそれぞれの移動方法で出発していた。


「ど、どうしよう……話しかけるのも気が引けるし……」


アインが周りをキョロキョロと見るが、全く話しかける暇もなく旅人達は出発していく。


そこにアインは後ろから肩を叩かれた。


ビク!と驚き、すぐにアインは振り返る。

そこには白いローブと大きい鍔付きの白い三角帽子を被った老人が立っていた。

左手にはアインが見たこともない異様な形の杖を持っていた。


「若いの、お困りかな?」


「あ、あ、は、はい。中央のザッサムまで行きたいのですが、ここまで来て馬車の手配を忘れてしまって……」


苦笑いで答えるアイン。

それを聞いた老人は満面の笑みを浮かべた。


「そうかそうか。ではわしと一緒にどうかな?旅は道連れとも言うし」


「え!いいんですか?」


「ああ、構わんよ。若い者と一緒なら、自分も若返った気分になるしの」


やはり老人は満面の笑みで答えた。

そしてアインを自分の馬車に案内した。


その馬車の周りには四人の聖騎士が馬に跨って待機していた。

アインはその仰々しさに息を呑んだ。


「あ、あの、この方々は……?」


「ああ、"大事な物"を運ぶから、その護衛じゃよ」


老人はニコニコして答えるが、周囲にいた聖騎士達はアインを睨む。

アインはその"大事な物"という言葉より、この雰囲気が気になった。


それに構うことなく老人は馬車に乗り込んだ。

アインも急いでそれに続く。


馬車にはアインと老人が向かい合って座るが、老人の隣の席には、白い布で包まれた大きい荷物が積まれていた。

アインはそれを見て、これが"大事な物"なのだろうと思った。


馬車が出発し、それと並走するように聖騎士達がついてきている。

アインはあまりの異様さに老人の方を見るが、老人はニコニコしながら馬車の窓から外を見ていた。


「あ、あの、俺なんかが一緒でよかったんでしょうか?もしかして大事な任務とか……」


「任務は任務じゃが、わしはなんだって楽しくいきたいのじゃ。話し相手がいれば旅も楽しくなるじゃろ」


「は、はぁ……」


アインは老人の言葉に戸惑っていた。

明らかにこの状況は普通ではない。

ただマーシャの実家に行くだけのことだったが、アインの安堵は一変して不安に変わっていた。

そんな不安をぬぐいさろうとアインは苦笑いしながら老人に話しかけた。


「そ、そういえば、珍しい杖ですね……」


「そうじゃろう。竜の尻尾をイメージして作られた杖での。面白い形じゃろ」


老人は嬉しそうに語る。

その形は確かにアインが昔に本などで見た竜の尻尾のようで、杖の上には拳くらいの水晶のような玉がついていた。


「水晶も凄いですね。水晶の中の"虹色"が綺麗です」


「なんじゃと?」


アインの言葉に老人の笑顔が消え、驚いた表情をした。

一転して真剣な表情に変わった老人にアインはしどろもどろになる。

アインは何かマズイことでも言ったかなと、色々考えていると老人は杖を少し前に出して、角度を変えた。


「角度を変えても色は"虹色"に見えるか?」


「え?ええ。赤と青、緑と茶色が混ざった虹色ですけど……」


「そうか……」


それだけ言うと老人にまた笑顔が戻った。

その笑顔を見たアインはホッとしていた。


「この杖は自慢のアンティークじゃよ。ところで君の名前はなんと言うのかね?」


「も、申し遅れました。アイン・スペルシアです」


「ああ。スペルシア家の。会えて光栄じゃ」


「い、いえ……」


アインは照れくさそうに頭を掻いた。

やはりスペルシア家となれば有名な家柄なのだろうとアインは思った。


そんな時だった。

いきなり馬車が止まり、周囲にいた聖騎士達が慌て始めていた。

老人は窓の外を見ると馬車の正面に砂埃が舞い、全く見えない状態となっていた。


「やはり……同じ場所に"2本"もあればこうなるか」


そう言うと老人は馬車のドアを開けて外に出る。

アインも続いて外に出るが、目の前の砂埃の中に巨大な黒い蛇のようなものが見えた。

四人の聖騎士は馬から降りて剣を抜いていた。


「シリウス様、危険です!」


「心配はいらん。あんなものは小物よ」


シリウスと呼ばれた老人はニヤリと笑い、自分より何倍も大きい敵を睨んだ。


「シ、シリウスだって……?」


アインはその名前は聞いたことがあった。

それはこの世界にいる人間の中でも最強と言われる魔法使い。

そして現在いるシックス・ホルダーの中でも最強と言われる男。


"シリウス・ラーカウ"


アインは目の前の老人が、最強の魔法使いであるシリウスだと知り、震えが止まらなかった。

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