父親
数週間前
セントラル
魔法学校前に初老の男性と、その隣には少女がいた。
男性は長い金髪で上品な顎髭を生やし、貴族服を着ていた。
少女も金髪で、少ない髪を後ろで結っている。
こちらも女性用の貴族衣装だった。
「すまない。恩師に挨拶をしてくる。ここで少し待っていてくれ」
「はい、お父様」
あどけなさがあるが、大人びた雰囲気の少女は金髪の男性の言葉に頷いた。
そして金髪の男性は魔法学校に入って行った。
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男性は校長室へ向かった。
学校廊下を際、周囲を見渡し懐かしむ。
そして金髪の男性が校長室の前に立つとドアをノックした。
「入れ」
「失礼します」
ドアを開けると、ルイ・ディケインが奥の机に座り、山積みの書類一つ一つに目を通している。
ルイの後ろの大きな窓からは日が差し込んでいた。
その机の前に金髪の男性が立った。
ルイがその男性を見ると少し驚いた顔した。
「お久しぶりです。私のことを覚えてらっしゃいますか?」
「もちろんだ。君のことは忘れる訳がない。私がこの学校を見ることになってから、君ほど優秀な人間は未だにいない……」
いつも厳しい顔をしているルイも、金髪の男性を見ながらニヤリと笑った。
「ビショップ・ローライン。いや、今は"ハートル"か。今日はどうした?」
「いや、バカ息子に騙されましてね。騙されついでにセントラル観光です」
「なるほど、アルフィス・ハートルか……彼は君とは真逆でこの学校始まって以来の問題児だったろう……」
その言葉を聞いてビショップは怪訝な顔をした。
「しかし、君ほど優秀な人間が、魔法使いの道を捨てて医師になるとは……まだ、あの事を恨んでいるのか?」
「私は許してませんよ。これからも許すことはないでしょう。魔法使いを恨む人間は多いと思います。悪い事を思いついて実行するのは、いつも決まって魔法使いだ」
「それで息子を殴ってるのか?」
「……なぜそれを?」
ビショップは驚いた。
アルフィスにしている仕打ちを知ってる人間は外にはいないはず。
それにアルフィスは父親のことをペラペラと喋ることはないだろうとビショップは思っていた。
「少し小耳な挟んだ。君が息子に何をしようと私には関係ない。だが、どんな人間にも愛情は大事だと思うがね。それが"実の息子"でなかったとしても」
「……」
「君はアルフィスに"あの男"を重ねてるのではないか?」
ルイの言葉にビショップは目を閉じて深呼吸した。
ビショップは昔を思い出していた。
「君と"あの男"とアメリアの三人の問題を、子供に押し付けることは私はよろしくないと思うがね」
「……私は……これで失礼します……」
「そうか……久しぶりの再会、嬉しかったよ。またセントラルに来ることがあれば立ち寄るといい」
ビショップは無言で頭を下げて、ルイの部屋を出た。
魔法学校校門前まで行くと、そこで待つ少女に声を掛ける
「リン、行こうか」
「はい。お父様」
ビショップはリンと共にセントラルの南東門を目指して歩いていた。
人がごった返し、歩くのもやっとだった。
「人が多いです……」
「そうだな。逸れないように」
「はい」
ビショップは人混みを掻き分けて歩いていた。
そして、ある男とすれ違った。
ビショップは驚いて立ち止まり、後ろを振り返る。
すると、そのすれ違った男も背中を向けて数メートル先に立ち止まっていた。
それは長身で細身、長い銀髪を後ろで結っている、黒いロングコートの男だった。
「ま、まさか……」
「お父様、どうされました?」
幽霊でも見たかのような、ビショップの恐怖の表情にリンは心配していた。
銀髪の男は振り向く事なく再び歩き始め、人混みに姿を消した。
「いるはずがない……アルフォードは……」
その後もビショップは途切れない人混みをずっと見つめていた。
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