豪雷
ワイアットは一人、馬で北へ向かっていた。
あの手紙は意味のない手紙などではなかった。
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"きたる春の朝露。
"ただそれだけを見て過ごしております。
"のはらに咲く花は儚くも美しい。
"いまの私は美しい花よりも儚い花のようです。
"せかいは広いがあなたは私と共にある。
"きみだけを想い私は強く生きる。
"二千年経っても。
"いまのこの世界は何も変わってはいない。
"クローバル家も変わらず平和でいてほしい。
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文章の"頭"だけ読むと、またそれが文章になっていた。
"き、た、の、い、せ、き、二、い、ク"
"北の遺跡に行く"
ワイアットは風の国中央レイメルの北にある遺跡のことは知っていた。
昔、父親や兄と一緒に魔法の練習で子供の頃に行ったことがる。
ただ、ここ数年で魔物の数も増えたため、人が寄り付かなくなった場所でもあった。
この文章でワイアットは北の遺跡に何か手がかりがあるのではないかと向かったのだった。
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レイメルから早馬で数時間のところに遺跡はあった。
森林に囲まれた遺跡で、森の中央に石造りの遺跡がある。
遺跡はピラミッドのようになっており、真ん中に数十メートルもの長さの階段が続き、それを登り切ると、さらにその中央に大きく四角い石造りの建物があった。
ワイアットは周囲を警戒しながら階段を登り、真ん中の石造りの建物を目指した。
建物には一つだけドアすら無い入り口があった。
ワイアットは息を飲み、ゆっくりとその入り口に近づいた。
「ん?……あれは」
入り口から見えるのは建物内の中央に仰向けに倒れている人間がいた。
ワイアットは立ち止まり、目を凝らして見た。
それは真っ白なワンピースを着ているショートカットで銀髪の女性だった。
「エリス……エリス!!」
ワイアットは猛スピードで走り、入り口から数メートル離れ、倒れているエリスへ駆け寄った。
ワイアットは倒れているエリスの横にしゃがみ込む。
するとエリスは少し目を開けた。
「無事で……よかった……」
「ワイアット……なぜ……?」
その言葉にワイアットはエリスの手を握った。
「前に言ったよな、俺はお前のためなら死ねると……あれは本当だ。俺はお前を命をかけて守る」
ワイアットの言葉にエリスは涙した。
エリスの頬をつたった涙を見てワイアットは安堵した。
だが束の間、ワイアットの背後、建物の入り口付近に人の気配を感じた。
ワイアットがゆっくり振り向くとそこには黒い鎧の騎士が立っていた。
「また別の魔法使い……次から次だな……」
「貴様……よくも……」
ワイアットは鋭い眼光で黒騎士を睨んだ。
黒騎士は相変わらず左手にショートソードを持ち、腰に宝具を差している。
「エリス、少し待ってろ……奴をぶちのめす……」
「ワイアット……」
ワイアットは立ち上がり黒騎士に向かい合う。
距離は10メートルほどだった。
「髪の色を見るに風の魔法使いか。風の魔法はさほど強くない。この鎧で充分防げる」
ワイアットは黒騎士が纏う鎧にはマジックガードが掛けられているように見えた。
エンブレムのアンチマジックまではいかないにしても、かなりの威力の魔法にも耐えうるだろう。
「ほう……俺の魔法を防ぐ?なら……やってみるがいい……」
「なに?」
「魔力覚醒……」
その言葉と同時に大きな銀色の魔法陣が、ワイアットの足元に展開した。
そしてワイアットの髪の色に銀色が増え、さらにバチバチと周囲に雷撃が走った。
「な、なんだこれは……」
「風の魔法の上位。"豪雷の魔法"」
ワイアット腰に差した中型の杖を左手に握り、前に構えた。
そしてそれを一気に引き、腰に溜めて、拳を前に突き出した。
「
ドン!という轟音と共に杖から放たれた雷が一直線に黒騎士へ伸びた。
その雷のスピードは目にも止まらず、黒騎士はガードすら間に合わなかった。
黒騎士は胸に当たった雷の衝撃で、数メートル吹き飛ばされる。
ワイアットがそれを追い、走って外へ出た。
遺跡の下へ降りる階段前に倒れ込む黒騎士。
そこにワイアットがさらに雷を纏った杖を縦一線に振り下ろした。
「これで終わりだ!
空中から目にも止まらぬ速さで落ちた雷が、倒れる黒騎士に当たる。
その衝撃で遺跡の石造りの床が一気に吹き飛び、黒騎士が倒れている場所に砂埃が舞った。
「ニック、エイベル……お前らの仇は取ったぞ……これで俺の復讐は終わった……」
そう言って振り向いて建物内のエリスへ向かうワイアット。
だが、背後には凄まじい殺気があった。
その殺気にすぐに振り向くワイアット。
なんと黒騎士は目の前におり、抜剣しようとしていた。
「なにぃ!?」
ワイアットは咄嗟に左手に持つ杖でガードしようするが、黒騎士の抜剣で杖が真っ二つに斬られてしまう。
ワイアットはそこからすぐにバックステップし、黒騎士との距離を離した。
「なかなかの高威力……鎧が無かったら死んでたよ」
「硬すぎだろ……」
剣を鞘に戻す黒騎士。
ワイアットは突然の出来事に体がまるで動かなかった。
「君のその魔法に敬意を評して……私の力も見せようか」
ワイアットはその言葉に息を呑んだ。
恐らく宝具の能力発動だろうと思ったのだ。
ワイアットは持っていた杖を捨て、魔法具無しで左手拳を腰に溜め、黒騎士に向かって突き出した。
「飛電!!」
「エンブレム……」
その瞬間、黒騎士の周囲に半透明の円が広がった。
そしてワイアットの魔法は掻き消されてしまうが、その円は尋常ではない広さで展開し、遺跡を覆ってしまった。
「な、なんだこれは……」
ワイアットが辺りを見渡すが、エンブレムはどんどん広がる。
円形で数十メートル展開したままで、縮むことはなかった。
「なにって、エンブレムだよ。このフィールド内では魔法は使えない。この中では君はただの人間だ」
「そんな……馬鹿な……」
ワイアットは両膝をつく。
あまりの出来事に戦意を喪失していた。
「君はさっき"復讐"と言っていたが、私もそうなのさ」
「……なんだと?」
「魔法使いが私にしたことは許さない」
ワイアットはその言葉に困惑していた。
だが、黒騎士は構わず膝をつくワイアットの目の前まで来て、抜剣しようとショートソードを左腰に構えた。
「この前、戦った"岩の魔法使い"もかなり強かったが、君もなかなか強かったよ。だがここまでだ」
「……クソ」
ワイアットは目を閉じた。
黒騎士はワイアットの首を刎ねようと一気に抜剣しようとした。
だが黒騎士はそれをせず、後ろを振り向いた。
その瞬間、ズドン!とワイアットの目の前に何かが飛来し石の床が破壊され砂埃が舞う。
黒騎士はそれを間一髪のところで横に回避して、さらに少し後づさる。
砂埃が舞う中から少女のような声がした。
「おいおい、なんてザマだ。今の二つ名はこの程度か?私の頃はもっと根性があったぞ」
ワイアットが目の前を見るとそこにはショートカットの金髪の背が低い少女が立っていた。
手にはその少女の背丈ほどある銀色の大剣が握ってあった。
「なんだ貴様は……その剣……まさか……」
「お初にお目にかかる。私は聖騎士団団長ノア・ノアール。貴様の非道もここまでだ。我が聖剣ライト・ウィングのサビとなるがいい」
ノアは数メートル先に立つ黒騎士を睨む。
ノアから放たれた圧力はワイアットすら今まで見たのとが無いほどだった。
黒騎士はゆっくり左腰にショートソードを構え、それを見たノアも銀色の大剣を前に構えた。
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