竜の魔眼

ダイナ・ロアの門前は猛吹雪になっていた。

ガーロ森林内での吹雪の同等かそれ以上の状況にグレイは目を開けてられない。

目を開け、周りを見渡しても真っ白で、それは盲目になったのも同様だった。


それは近くに立つロールも同様だったが、グレイと違い、リヴォルグが発生させたものと思えば安心感もあった。


「クソ!!なにも見えない!!」


グレイが悲痛に叫ぶ。

さっきまでの威勢はそこには無かった。


「見えないことに恐怖を感じているなグレイ。私は20年以上だ。だが一度も怖いと思ったことは無いよ」


どこからともなく聞こえる声にグレイは周りをキョロキョロと見るが、リヴォルグの姿どころかロールまで見失ってしまった。


「君は魔竜戦争での鉄則を知っているかい?私は昔、恩師から聞いたんだがね、これがまた面白い話しなんだよ」


「何を言ってる!どこにいる!」


グレイは焦りながら周りを見るが、辺りは真っ白で、もうどちらがダイナ・ロアの門なのかすらもわからない。

目もおかしくなりそうだった。


「魔竜と戦う時に絶対にやってはいけないことがあるそうだ。それが何かわかるか?」


リヴォルグは構わず続け、グレイに質問するが、もうグレイは冷静さを失っていた。


「魔竜の眼を見ることだ。見てしまったら最後、その眼を見た者は永遠に動けなくなってしまう。"時が止まったように体が動かなくなる"という逸話さ」


「な、なんだそれは……」


グレイの恐怖は頂点に達しそうだった。

せっかく最強の力を手に入れたのに、ただ視界を塞がれただけで何もできなくなってしまうなんて考えもよらなかったからだ。


「六天宝具は魔竜の力、その能力を封印した魔道武器。そして私の持つ"魔竜眼の杖クイーンズ・クライ"の真の能力は……」


「や、やめろ……」


それは不意な出来事だった。

グレイは後ろから優しく肩を叩かれたのだ。

その恐怖に耐えきれずグレイは振り返ってしまった。


そこにはリヴォルグが立っていた。

リヴォルグの眼光はグレイを横目で睨んでおり、その目の色は赤黒かった。

グレイはその眼を直視してしまったのだ。


「やめ………………… 」


「"魔眼まがん零影ぜろかげ"……お前はもう永遠に動けない」


グレイは完全に振り向き様に止まっていた。

驚いた顔で、瞬きすらせず、その体は"時"が止まったように動かない。

ただ唯一、グレイの両目から流れる"涙"だけは重力に従いこぼれ落ちていた。


リヴォルグは近くの地面に突き刺した剣を引き抜き、左手に持つ鞘に戻した。

すると赤黒いオーラは消え、宝具は銀色に戻る。

それに反応するように吹雪が止み始め、同時にリヴォルグは地面に片膝をついた。


「総帥!」


ロールが走り寄り、顔を覗き込んだ。

リヴォルグは目を閉じていたが、両目から血が流れている。


「これはあまりやりたくなくてね……頭痛が酷いんだ……」


ロールはリヴォルグに肩を貸して、一緒に立ち上がった。

その時にグレイの姿を見たが、それは人形のようだった。


「彼はもう動かないよ。私が再度、彼の目を見るまでね。……ダイナ・ロアへ行こう」


「はい!」


ロールはリヴォルグと共にダイナ・ロアの門前まで行く、そしてロールが門に手を当てると轟音と共に門が開いた。


二人はダイナ・ロアへ入っていくと、ゆっくり巨大な門は閉じた。



______________________




10年前


水の国 ルガサ村


彼女は村の前に倒れていた。

妙な風貌の女性だった。

つばの広い三角帽子をかぶり、紫色のドレスを着た若い女性。

そして髪の色が全て"銀色"だった。


当時10歳だったセシリア・イキシアはその女性を助けた。

家に招くとセシリアの父と母も快く対応してくれた。


その女性はセシリアと二人きりになった時、不思議なことを言った。


「ああ、君は聖騎士になるね」


セシリアはそれを聞いてありえないと思った。

なにせ貴族でもない、ただの村娘が聖騎士なんてなれるわけがない。


「みんなには内緒だが、私は魔女なんだ。少し未来がわかるんだよ。君の未来を少し教えよう」


そう言って、魔女と名乗る女性はセシリアの未来について色々教えてもらった。


「君はとても優秀な聖騎士になる。そして優秀な上司に支え、幸せに暮らすだろう」


セシリアはそれを聞いて嬉しくなった。

たとえそれが叶わなかったとしても、そんな未来が本当にあるのならと笑顔が溢れた。


「ただし、絶対にやってはいけないことがある」


その言葉にセシリアは一気に不安になった。


「その上司の大切なものに嫉妬してはいけない。少しでも嫉妬すれば、君はあらぬ疑いをかけられて処罰される」


セシリアはそれを聞いて絶対にそうはしないと心に誓っていた。

そんな恐ろしいことになれば父や母が悲しむ。


「だが、もしそうなった時は……そうだな……その前に猫を二匹飼うといい。それで君の疑いは晴らすことができるだろう……ただし……」


魔女と名乗る女性はさらに続ける。

セシリアは真剣な表情で彼女を見た。


「ただし疑いを晴らす時……君も死ぬ。死ぬのが嫌なら猫は飼わないことだ。まぁ、なによりも嫉妬しないことが一番大事だね」


そう言って魔女と名乗る女性は笑顔でセシリアの頭を撫でた。


「ああそうだ、もし将来、"炎の男"に出会ったら、"……………"と伝えてくれ」


セシリアはその"……………"ということの意味がわからなかったが、それに頷く。


そして魔女と名乗る女性は朝になったらいなくなっていた。

セシリアはこの魔女から言われたことを、ずっと忘れなかった。

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