雪影のリヴォルグ

森は冷気で包まれ、空からは雪がぱらつく。


周りで串刺しになった魔獣達は生き絶え、それを確認したかのように氷の剣が全て砕けて消えた。

金髪サングラスの軍服の男が持つ曲剣と鞘からは未だに異様なオーラが漂う。


アルフィスとメルティーナは森の入り口の方へ向かい、その軍服の男を前にした。


「お父様……」


「メルティーナ、無事で何よりだ」


メルティーナは涙目になっていた。

アルフィスは目の前に立つ男を凝視している。

特に持っている武器が気になっていた。

剣は曲剣でナックルガードに拳くらいの丸い水晶が付いている。

さらに鞘にもナックルガードがあり、こちらにも細かい水晶がいくつかついていた。


「なんだこの武器は……」


「ん?聞きなれない声だな。少年のように聞こえるが」


アルフィスはその言葉に戸惑う。

軍服の男のサングラスの下の目はアルフィスの方は見ているが、少しズレた場所を見ているようだった。


軍服の男の後ろから聖騎士の女性が近づく。

黒髪のショートヘアでキリッとした顔立ち。

上半身は軍服、下がミニスカートでブーツを履いていた。

軍服の上には軽い鎧を纏っていて腰にはショートソードを差してある。


「少年です。魔法学校の制服を着ています。ネクタイはしていないので、どこの国かはわかりません」


アルフィスは目の前にいるにのに、なぜか軍服の男は後ろにいる聖騎士にアルフィスの格好を説明してもらっている。


「なるほど、今年の卒業生か。なぜここにいるのかは分からないが、メルティーナを守ってもらったようだな」


「いや、俺の方こそ守ってもらったんだ。彼女がいなけりゃここまで来れなかった」


「ほう。これは面白い話が聞けそうだ。後でゆっくり聞かせてもらうとしよう。……下がっていたまえ、まだ本命が残っているようだ」


軍服の男がアルフィス達の後ろに殺気を放つ。

アルフィスとメルティーナが振り返ると、森の奥に真っ黒な人間のような生き物が見えた。

その真っ黒な人間からはモヤモヤと瘴気が漂っている。

その姿は明らかに魔人だった。


軍服の男と聖騎士の女性がアルフィスとメルティーナの横を通り過ぎるようにして魔人へと向かう。


その際、聖騎士がメルティーナに何か耳打ちしたがアルフィスは聞こえなかった。

メルティーナはそれを聞いて悲しげな表情で俯いた。


「セシリア、魔人はどんな形だ?」


「通常の個体です」


「そうか。私が最初に斬り込む。追撃は任せた」


「了解しました」


会話の後、軍服の男は猛ダッシュで森をかき分けて魔人へと向かう。

それを追うようにしてセシリアもダッシュして魔人へ向かった。

完全に前衛が軍服の男で後衛が聖騎士のセシリアだった。


凄まじいスピードで魔人の目の前まで来た軍服の男は右手に持つ剣を左下から右上へ切り上げる。

その剣は魔人の胴体を切り裂く。

なぜか剣が通った場所から瘴気が消えていった。


そのまま左手に持つ鞘を逆手持ちのまま鞘先を地面に擦り付け、こちらも右上へ振り上げる。

すると地面から魔法の氷の剣が突き上がり、魔人の心臓付近に突き刺さる。


雪影剣せつえいけん・"斬空氷牙ざんくうひょうが"」


魔人は串刺しになり5メートルほど宙に浮いている状態だ。

そして魔人が悶え苦しむ中、また瘴気が漂いはじめ、それに触れた氷の剣が消える。


瞬間、後ろをダッシュしていたセシリアが大ジャンプし、軍服の男を飛び越えて魔人へ縦一線の回転斬りをした。

魔人は空中で一刀両断され、二つの胴体が地面に落ちた。


アルフィスはその一部始終を見ていたが、あまりの連携の美しさに言葉を失っていた。


軍服の男が剣を鞘に収めると、武器から放たれていた赤黒いオーラは消えどちらも銀色になった。

同時に雪が上がり辺りの冷気も消える。


軍服の男はセシリアと共にアルフィスとメルティーナが待つ場所へ歩いてきた。


「……あんた一体、何者だ?」


アルフィスの質問にセシリアが睨む。

その眼光を見たアルフィスはセシリアは間違いなく強者だと感じた。


「貴様、総帥に対しての無礼は許さんぞ」


「待てセシリア、名乗りもせず申し訳ない。私の名はリヴォルグ。リヴォルグ・ローズガーデン。この国のシックス・ホルダーだ」


アルフィスの衝撃は凄まじかった。

この金髪サングラスの軍服の男こそゴージャスことマルティーナの父親であるリヴォルグだった。


「総帥に先に名乗らせるとは……貴様はなんなのだ?」


セシリアの怒りは頂点に達しそうだった。

セシリアの右手が剣のグリップを触る。

アルフィスの隣で見ているメルティーナが息を呑む。


「あ、ああ、すまん。俺はアルフィス・ハートル。まぁ普通の魔法使いだ」


流石にここまで睨まれても、助けに来てくれた者に喧嘩を売るわけにもいかないアルフィスは苦笑いで答える。


リヴォルグはその名を聞いた瞬間に驚いた表情をした。

セシリアは無反応で今にもアルフィスを斬り倒しそうだったが、リヴォルグはその殺気を察知していた。


「やめるんだセシリア。君では彼には勝てない」


「え?どうしてですか!?」


セシリアはリヴォルグの発言が信じられなかった。

目の前にいるのは今、魔法学校を卒業してきた少年で、見た目も華奢きゃしゃだ。

なぜこんな奴に負けるのかとセシリアは理解できなかった。


「マルティーナの手紙にあったな。君がセレン・セレスティーから二つ名をもらった男か。"魔拳"と言ったね?魔人を一人で倒した魔法使い。そして今年の対抗戦の優勝者」


「こ、こいつが……セレン様から二つ名をもらった男……?それに対抗戦を優勝しただなんて、信じられない……」


セシリアが驚愕しているが、さらにリヴォルグが続ける。


「聖騎士でも魔人を一人で倒すのは至難の業。それも宝具も持たない魔法使いが倒すのは前代未聞だ。そしてなによりも水の王が認めたアイン・スペルシアを倒して対抗戦を勝ち抜くとなればその実力は相当な物だろう」


セシリアは言葉を失い、アルフィスの隣にいたメルティーナも驚いた表情をしていた。

まさかそんな人間と一日一緒にいたのかと。


「まぁほとんど成り行きなんだけどな。魔人を倒したっても腕の骨がバキバキに折れたし。対抗戦も優勝したが、結局のところ気絶してて表彰台には登ってねぇし」


アルフィスが頭をかきながら苦笑いしてた。

リヴォルグはその言葉を聞いて、アルフィスの体を眺め少し考えていた。


「とりあえず一旦、グイン村へ戻ろうか。もうすぐ別働隊がこちらへ来る。あとの処理は任せよう」


リヴォルグの提案でグインへ戻ることとなった。

リヴォルグとセシリアは馬にまたがり、アルフィスとメルティーナは荷馬車に乗ってグインへ戻った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る