魔法学校の最弱と最強
闘技場の盛り上がりは最高潮に達していた。
聖騎士、魔法学校の学年最強を決めるこの対抗戦で優勝することは、この先の進路にも影響を及ぼす。
そして今年の一年生の決勝は今までにない盛り上がりだった。
聖騎士アゲハ・クローバル。
学年最強とも言われた剣士で、その独特な剣技で相手を翻弄する。
今この世界の剣技と言えば前に出る戦い方が主流な中で、アゲハのようなカウンタータイプは明らかにそれらのアンチと言えた。
聖騎士マーシャ・ダイアス。
若い頃から剣技をやっていれば、確実にアゲハを超えるほどの剣士だっただろう。
それでも元二つ名持ちである母に匹敵する力を持ち将来有望。
魔法使いアルフィス・ハートル。
底辺魔力の下級貴族で素行が悪く、魔法学校での成績は学科、実技ともに最下位。
さらに聖騎士学校女子生徒の間での魔法学校男子不人気ランキング第一位。
その魔力の低さは今まで類を見ないほどだが、シックス・ホルダーのセレン・セレスティーから"魔拳"の二つ名をもらった正真正銘の魔人殺し。
魔法使いアイン・スペルシア
魔法学校では学科、実技ともに学年でトップ。
家柄も水の国では最高位で、その容姿から実は女子のファンも多い。
この世界では珍しいスペシャルスキル"魔力覚醒"を持ち、水の王からも特別視されている。
これほどの人材が決勝で戦うとなれば盛り上がらないはずはなかった。
闘技場の観客席で皆が見守る中、中央にその四人が集まった。
聖騎士は両者、上半身に軽装の鎧を纏う。
アインはステッキ型の魔法具を持っているが、アルフィスは相変わらず手ぶらだった。
アルフィスはアインの姿を鋭い眼光で見た。
「あれがマルが言ってた奴か。アイン・スペルシア……」
アインも今までにない気迫だった。
いつもならあんな鋭い目を向けられれば、すぐ目を逸らしたが今回は違う。
「アルフィス・ハートル……」
中央に教官が立つ。
コイントスの準備をしている。
「アルフィス、あのアインという魔法使いは気をつけた方がいい。魔力覚醒が使えると聞きました」
「スペシャルスキルだろ?まぁなんとかなるだろ」
いつも通りやる気のかけらも感じられない返答で、アゲハもいつもなら怒るところだが今回は違った。
少し笑みをこぼしアゲハは相手チームを見た。
「そうですね。最後くらい適当にいきましょう」
「そうそう。お前も分かってきたな」
アルフィスもその返答にニヤリと笑いアイン達と向き合う。
「マーシャ、できるだけ魔力覚醒は後にしたいと思ってる。できれば使いたくは無いけど、状況次第ではすぐに発動する」
「はい。アインさんにお任せします。私は全力でアインさんを守ります!必ず妹さんを救いましょう!」
「あ、ああ……」
アインの返事は何故か歯切れが悪かったが、マーシャは緊張しているんだろうと思った。
教官が両チームの間に入り、距離を離すように合図を送る。
だいたい15メートルほど離れたが、どちらの気迫もお互い痛いほど伝わった。
教官がコイントス準備をし、それを勢いよくおこなった。
コインの落ちるスピードは今までに無いほどゆっくりに見えた。
そしてコインが地面に落ち決勝が始まった。
「複合魔法!」
「エンブレム・
アルフィスの足元に魔法陣が現れアルフィスはその魔法陣が消えたと同時にその場から消えた。
アゲハは右肩に半透明のエンブレムのマントを羽織りマーシャへダッシュする。
「水の刃よ、我が敵を斬り裂け……」
「エンブレム!」
アインが詠唱を始め、それに合わせてマーシャもエンブレムを使いアルフィスとアゲハを向かい打とうとする。
アルフィスは姿を消したままで、アゲハはマーシャの元に辿り着く。
マーシャは剣を縦一線に振り下ろす。
「天覇一刀流・雷打!」
アゲハはマーシャの剣を刀の柄頭で弾く。
マーシャは仰け反り、アゲハの左側からアルフィスが現れ、左のボディブローを狙う。
その拳は完全にマーシャの右脇腹を捉えていた。
しかしマーシャは全身の力を抜いて、仰け反ったまま後ろに倒れ込みアルフィスの拳は空を切る。
「なに!?」
マーシャは倒れたまま、後転しさらにバックステップで二人から距離を離す。
その瞬間、マーシャの後ろで水の柱が天井まで伸び、それが振り下ろされた。
ズドン!という音と共に水飛沫が上がり、辺り一面水溜まりになった。
間一髪のところでアゲハがアルフィスの前に立ち、エンブレムのマントで正面を守った。
アルフィスの魔法はまだ解除されていない。
この隙にマーシャがダッシュでアゲハを横一線に斬りにかかる。
アゲハは剣技が間に合わず、鞘でガードするが、マーシャのパワーが強く横に吹き飛ばされてしまった。
アルフィスとアゲハの距離が大きく離される。
この一瞬をアインは見逃さなかった。
「これで魔法は防げない!水の激流!」
アルフィスの足元の水溜まりが舞い上がり水の竜巻となり襲った。
アルフィスはクロスガードしているが、その体は切り裂かれ回転し後ろに吹き飛ばされる。
無惨にもアルフィスは地面を転がった。
「よし!マルティーナと戦っていてよかった。聖騎士と魔法使いを分断して先に魔法使いを叩く戦い方は参考になった!」
「アルフィス!」
アゲハは体勢を立て直すがマーシャが追撃してきた。
剣技は互角だが、アゲハ側には魔法の補助が無い。
「水よ我が敵の自由を奪え!水の足枷!」
その魔法は闘技場の辺り一面に水溜まりを作り、アゲハとしてはやりづらい地形となった。
「水の激流!」
水の激流はマーシャの周りで起こった。
マーシャのエンブレムで消えないくらいの大きさでアゲハへ天まで伸びた竜巻が迫る。
それをアゲハは抜刀で斬って捨てた。
しかしそこにマーシャの姿が無い。
アゲハは頭上に気配を察知し、間一髪のところでマーシャの縦一線のジャンプ斬りを鞘でガードした。
「うっ!」
「もう降参して下さい!」
その魔法と剣技の連携にアゲハは内心、感服し
もうここまでかと思った時だった。
そこでアインがあることに気づく。
「ん……?アルフィス・ハートルはどこへ行った?」
地面に倒れてたはずのアルフィスがそこにいない。
確かに水の足枷を作った時にはそこにいたはずなのだが、アインはアルフィスを完全に見失っていた。
「マーシャ!気をつけろ!魔法使いがいない!」
「え?」
マーシャの剣はアゲハの鞘にヒビを入れており、あとひと押しというところだった。
しかしアインの言葉に少しアインの方を見た瞬間だった。
アゲハとマーシャの間を赤い歪な線が通ったと思ったら、マーシャの剣が真っ二つに折られ仰反る。
そしてその赤い線はズドンという轟音と共に闘技場の壁に着地した。
「"
アルフィスの魔法はマーシャのエンブレムで解除され、そのまま地面に着地するが、あまりの胸の痛みに地面に膝をつく。
アゲハはこの一瞬を見逃さず、仰反るマーシャへ反撃に出る。
「天覇一刀流・空塵!」
親指に渾身の力を込め刀の鍔を弾く。
そのスピードも早く、マーシャのみずおち付近に柄頭が当たる。
そして反動で刀が鞘に戻り、さらに抜刀してマーシャの右脇腹の鎧を砕いた。
「がはぁ!」
マーシャは吹き飛ばされて地面に転がり倒れ込む。
それを見届けた、アゲハはすぐさまアインへ走る。
「マーシャ!ここまで来て負けられるかぁ!魔力覚醒!」
アインの髪の色と目の色が青く発光する。
それと同時に冷気がアインの足元から広がり、その冷気にアゲハが怯む。
アインはアゲハを鋭い眼光で見つめる。
その目にアゲハは絶句していた。
アインは持っているステッキ型の魔法具に氷を纏わせ十字剣にすると、アルフィスがいる方向に地面を引っ掻くように斬る。
斬られた地面から細い氷柱が現れ、その氷柱は胸を押さえ膝をつくアルフィスのもとへ向かった。
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