リベンジマッチ(2)
砂嵐が吹き荒れる中、アルフィスとアゲハはまともに目を開けられず、息をするのもやっとだった。
一方、同じ砂嵐の中にいるリナは目にはゴーグル、口にはフェイスタオルを巻き完全防備。
最初からこの戦略のためのゴーグルだったのだ。
二本目のショートソードでアルフィスを切ろうとするが、アルフィスはなんとかそれをバックステップでかわす。
だがその位置目掛けて砂嵐を掻き分けて風の刃がアルフィスを襲った。
アルフィスは吹き飛ばされて地面に転がる。
ファイアマジックガード重ね掛けの複合魔法だったため、さほどダメージは無かった。
「アルフィス!なんと卑怯な……」
「卑怯?なにを言っているのかわからないわ。これは決闘なの。勝てばそれでいいのよ。勝ち方にこだわってるようだと、すぐ死ぬわよ」
リナの言い分は正々堂々の騎士道精神のアゲハは納得できなかった。
リナはゆっくりアゲハに近づき挑発する。
「弱い奴がいくら吠えたところで、実力がなければ死ぬだけよ。"正々堂々"ってのは強者だけが言える言葉。私たちには相応しくない」
リナがその言葉を言い終わった瞬間、また風の刃が砂嵐を掻き分けて今度はアゲハを襲う。
アゲハはギリギリのところで反応しエンブレムのマントで風の刃を消した。
このままこの状況が続くのは明らかに敗北を意味していた。
「確かにお前の言うことは正しいよ」
アルフィスは薄目を開け立ち上がった。
「アルフィス!」
「ほーら、相方だって言ってるじゃない。真面目すぎるのも良くないわ」
リナの表情はゴーグルとタオルで見えないが、明らかに笑みをこぼしている。
アゲハはそう感じた。
「だが正々堂々、真正面から打ち合った時、わかることもある」
アルフィスはセレンとの一件を思い出していた。
前世だと敵無しのアルフィスがこの世界に来て一対一で戦って唯一負けた相手。
たった一発の拳だったが、その一発でお互いがお互い分かり合えた気がした。
「気色悪いわ。私はあんたみたいなのが一番嫌いよ」
「気が合うな。俺もお前が大っ嫌いだ」
表情はわからぬリナだが明らかに苛立っているのがわかった。
リナはショートソードを構え、近くにいるアゲハを狙おうとしていた。
「もうお喋りはここまで、ロイはあなた達の場所を感知できる。私が何もしなくても魔法だけでなぶり殺しにされる」
ロイのスキルの"探知"は熱の動きを感知することで、的確にそこに魔法を叩き込めるものだ。
視界が悪い夜などに使用することで効果を発揮できる。
「そうか……だが実は俺もあの魔法使いの場所ならわかるんだぜ。複合魔法解除」
「は?」
「アルフィス……まさか……」
アルフィスは明日の決勝戦のことなんて考えてはいなかった。
迷いなんて微塵もない、ただ目の前にいる強者を全力で今持っている力で殴り倒すことしか頭にない。
「複合魔法・下級魔法強化」
アルフィスの足元に現れる魔法陣はいつもの倍はあった。
真っ黒な髪には少し赤みがかり、薄目の下に赤く発光する眼光がある。
「
その瞬間、アルフィスに再度、風の刃が砂嵐を掻き分けて迫る。
リナは思考を巡らし気づいてしまった。
だが気付くのが遅すぎた。
単純に風の刃が飛んでくる方向にロイがいる。
「ロイ!逃げて!」
リナの声は砂嵐の音で掻き消され、その外には届いていない。
目の前の魔法使いはただの魔法使いではない。
ワープ魔法に匹敵するほどのスピードを持つ化け物だ。
アルフィスのその行動はもはや刹那だった。
アルフィスがその場から姿を消した瞬間に砂嵐が徐々に止み始め、アルフィスはまた元いた場所に立っている。
リナには赤い歪な線が少し行き来した程度にしか見えなかった。
風の刃が飛んできた方向を見るとロイは倒れ、持っていた杖が真っ二つに折られていた。
アルフィスはロイが倒れているのを確認しスキルを発動する。
「複合魔法を解除……うっ!」
アルフィスは胸を抑えて膝をつく。
そのスピードは明らかに時が止まるほどの速さで確実にアルフィスの心臓に負担をかけていた。
この状況に茫然自失のリナ。
その隙を見逃さなかったアゲハはリナへダッシュで近寄り抜刀する。
ガードする気もないリナの首筋にアゲハは刃を寸止めしていた。
「そこまで!」
教官の合図で試合終了が言い渡された。
アゲハは刀を納刀し、すぐさまアルフィスのもとへ駆け寄り肩を貸した。
リナは両膝をつき放心状態だった。
「アルフィス……テンペストを使わなくても勝てたのに……どうして?」
「あっちも本気だったんだ。こっちも本気でやらなきゃ失礼だろ……それに通常の複合魔法だとお前を守り切れないと思ったのさ」
アゲハはその言葉は少し頬を赤らめた。
アルフィスはなんとか立っている状態だった。
そのやり取りの横で救護班がロイを担架に乗せ闘技場の医務室へ運んで行った。
それをアルフィスとアゲハは見つめていた。
闘技場内は騒然としていた。
一体何が起こったのか皆わからなかった。
その中に2人の青年魔法使いがいた。
2人は席には座らず、この試合をずっと後ろの方で立ち見していた。
1人は長髪の黒髪で少し銀色が混ざり後ろで束ねている、ローブ姿の魔法使い。
もう1人は短髪で髪が薄い緑色で少し銀色が混ざっている。
こちらもローブを着た魔法使いだった。
短髪の魔法使いが長髪の魔法使いに問いかける。
「エイベル、見えたか?」
「ああ一瞬だけ。風の魔法使いの方に赤い線が走ったと思ったら杖に何か当たった。その衝撃で、あの魔法使いが数メートル上空に吹き飛ばされたんだろう」
「あれは魔法じゃえねな。二つ名の通りなら"拳"か。しかし恐ろしいスピードだ。あのスピードどう対処するんだ?俺はあんなのとトーナメントで当たりたくねぇぞ」
「弱点はあるさ。弱点がない人間など存在しないよワイアット」
そう言って二人の魔法使い、エイベルとワイアットは闘技場を後にした。
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闘技場 医務室
ベッドに横たわるロイの隣にリナは椅子に座わり、悲しそうな表情で意識がないロイを見ていた。
「あなたにだけ痛い思いさせたわね……こうならないための戦略だったのに……」
リナはロイの手を握る。
「あなたが技術も無い私をなぜ誘ったのかはわからない……その理由を知りたくても私には聞く勇気が無いわ。"正々堂々"聞ければいいんだけどね」
リナは本当は怖かった。
ロイはただ目に入った自分だから選んだのではないかと。
そこに何の意味も無いということを知るのにリナは恐怖を感じていた。
自分の性格の悪さは自分が一番よく知ってる。
家にいた時も"お前は誰からも選ばれない"と散々言われていた。
ロイは薄らをと目を開ける。
「ロイ!よかった!」
「ああリナ。僕が君を誘ったのは"一目惚れ"だったんだよ……」
リナは驚いた表情をして言葉を失う。
ロイは少し意識がありリナの話が聞こえていた。
「入学式で見た時から、君に声をかけようと決めていた。ロックハート家の令嬢の噂は聞いてたけどそんなのは関係ない」
「ロイ……」
リナは涙を流した。
こんな自分でも選んでくれる人がいたのだと。
意識が朦朧とするロイはさらに続ける。
「来年は勝とう」
「ええ!」
ロイは普段見せない笑顔になり、リナの頬をつたう涙を手でそっと拭った。
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