運命の出会い

アインはとあるストレスに悩まされていた。


"バディが見つからない"


対抗戦に出る絶対条件がバディの有無だ。

これがどうにかならない限り先には進めない。

妹のことを思うと焦る思いもあり、さらにストレスとなっていた。


そして"アルフィス・ハートル"という男子生徒も気になった。

入学式の日、一瞬だけ目が合ったが、あんな男が聖騎士を倒すだなんて……

アインはこの二つを考えただけで胃を痛めた。



セントラル南西部

ショップ ミーティア


アインは休日の際は、一人で出掛けていた。

特にお気に入りの場所はセントラル南西部にある花屋だった。

小ぢんまりとした室内にはびっしりと植物が置いてあり、気に入ったものがあれば購入して自室に置いていた。


そんなことを繰り返していたら自室が草だらけになっており、管理が大変になっていたが、アインは苦には思わず、むしろ心が休まった。


休日、アインはいつも通りこの店に足を運んだ。

運動がてらにジョギングしてこの店に向かうのは通例だった。


ショップのドアを開けるとカランと客の来店を知らせる鈴が鳴る。

アインは店に入ると深呼吸した。

この店の空気がとても好きだったのだ。


店を見渡していると先客がいた。

いつもはガラガラで自分しかいないのに、珍しいこともあるなとアインは思った。


その客の姿を見ると髪は金髪で内巻きのワンカール、背は170センチ近くの褐色肌女の子だった。

服装を見ると聖騎士学校のブレザーで、まじまじと植物を見ており、アインには気づいていない。


アインは気にせず、店の奥の会計場所まで向かう。


「店長、頼んでいたものは届いてますか?」


「ああ、肥料だろ?届いてるよ」


初老の店長にアインは財布から硬貨を取り出し渡す。

店長は硬貨を受け取り、小袋をアインに渡した。


「珍しいですね、お客なんて」


「失礼なやつだな、これでも結構来るんだぞ」


少し失礼なこと聞いているが、アインは店長とは顔馴染みなため冗談も言い合う。

アインは男性に対してだけはコミニュケーション能力が高かった。


「最近、あの子、ちらほら来るんだが、おそらく植物初心者だな」


「ふーん」


アインが少しその子を見る。

じっと植物を見るその眼差しは真剣そのものだった。

アインは店長に向き直る。


「じゃあ帰ります」


「おう、また頼む。お前が来ないとこの店潰れちまう」


「この店繁盛してるでしょ」


アインは笑いながら店長に手を振って歩き出す。

アインは聖騎士の女子の後ろを通るように店を出ようとしたが、その子が持っていた植物が気になった。


「あの、その植物はやめた方がいいですよ」


「へ?」


女子がアインを見る。

アインは自分から声をかけたことが不思議でならず、さらに女子と目があったことで緊張感でいっぱいだった。


「そ、その植物は育てづらいです。慣れてる人でも気をつないとダメなやつなんで」


「そ、そうなんですか……じゃあこっちはどうでしょうか?」


その子は二つ気に入った植物があったのか、もう一つの植物をアインに見せてきた。


「その植物なら俺も持ってて、比較的育てやすいですよ。ずっと成長するので、愛着湧くと思います」


そう言うと、その子の表情は明るくなり、笑顔を見せる。


「ありがとうございます」


ニコニコと会計に向かう女の子を見ていたら、店長と目が合ったが、その顔は明らかにニヤけていた。


アインが店を出ると、その子も続いて出てきた。

話し好きの店長が、客と会話せずに店から出すなんて珍しいなと思った。


「あの、教えて頂いてありがとうございます!私、聖騎士学校に通ってます、マーシャ・ダイアスと申します!」


「俺は魔法学校に通ってるアイン・スペルシア。よろしくね」


お互い笑顔で自己紹介した。

アインはこの時、あまり緊張せずに会話できていることが不思議だった。


「もし、よかったら、お礼にお茶でもどうでしょうか?近くに美味しいハーブティーが飲める店があるので!」


「え?……うん。じゃあ、お言葉に甘えて」


アインは少し戸惑ったが、せっかく誘われたのだからと二人で近くの店に移動した。

ここのカフェもこれまた小ぢんまりしており、室内には客はカウンター席に一人いるだけでガラガラだった。

アインとマーシャは入り口近くのテーブル席に着き、ハーブティーを注文した。


「ここのハーブティーは絶品なんです」


「へー。にしては店があまり混んでないような……」


「穴場ってやつなのかもしれないです」


フフっとマーシャが笑う。

それに続いてアインも笑みをこぼした。

そんな会話をしていると、すぐにハーブティーが届けられた。

ハーブティーを二人同時に啜る。


「美味しい」


「美味しい」


二人は声がハモる。

そして二人で顔を見合わせて笑い合う。

もはやその姿は付き合いたての恋人同士を通り越し、長年連れ添った熟年夫婦のようだった。


「でも、こんなところアインさんのバディさんに見られたら怒られちゃうんじゃないですか?」


「え?俺はバディいないけど……」


「へ?」


「お恥ずかしながら、まだ見つかってないんだ。誘うのが苦手で……」


アインは苦笑いして頭をかく。

マーシャはその姿を不思議そうに見ていた。

とても誘うのが苦手というようには見えなかったからだ。


「マーシャさんこそ、こんなところバディさんに見られたら大変なんじゃないですか?」


「私もバディはまだいないです……私ちょっと変なので……」


「え?」


マーシャは苦笑いして少し俯く。

少し気まずい間があったが、アインはその間に耐えきれず口を開く。

 

「じゃあ、バディ組みましょうか!なんちゃって!」


「はい、喜んで!なんちゃって!」


二人は作り笑顔で、この先の人生にも影響を及ぼすであろう重大な決断をその場のノリだけでしてしまったのであった。



______________________



魔法学校校門前 



アインの口元は緩み切っていた。

あまりにも異様な表情に教室までの道中、周りの生徒らはかなり引いていた。


「おはようアイン!なんかいい事でもあったのか?顔がニヤけてるぞ」


後ろから声をかけてきたのはトッドだった。

アインの次に教室に入って一緒に席に着く。


「トッド!俺ようやくバディが見つかったんだよ!」


「マジか!やったな!」


トッドは自分の事のように喜んでいた。

それを見たアインも胸を撫で下ろす。


「で?どんな子なんだ?」


「凄く優しい子なんだ。この子となら一緒に頑張れる!って思ったよ。トッドと一緒で土の国出身だよ」


「へー、名前はなんて言うんだ?もしかしたら親戚かも」


トッドが冗談混じりで聞いてきた。

ほんとに親戚ならすごい偶然だ。


「マーシャ・ダイアスって子だよ。妹の名前に似てるから親近感も湧いちゃったよ」


「……マーシャ・ダイアス……だって?」


アインが笑顔で話す中、その名前を聞いた瞬間、トッドは笑顔を一転させ顔を引きらせた。


「……アイン、悪いことは言わない、マーシャ・ダイアスとだけはバディを組むな」


「は?急になんだよ」


アインの困惑も当然だ。

あれだけアインのバディ探しに協力していたトッドが、いきなり組むななんておかしな話しだった。


「"ダイアス家の呪われた子"……土の国じゃ有名な話しだ」


「どういうことだよ……」


この言葉にアインはますます訳がわからなくなった。

全く状況を掴めずに、ただトッドの怯える姿だけが目に映る。


アインのバディ探しはクライマックスを迎えていた。

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