天才の悩み
学科、実技ともに学年トップで、魔力量はセレスティー家に次ぐ大きい魔力を待つアインだったが、そんな彼が最も危惧していたことがあった。
「バディ……やっぱり、難関はここだよな……」
アインは全てにおいて完璧。
社交的で友達も多く、同性からの人気は高かった。
さらに教師からの信頼も厚く、すぐに学級委員長に抜擢された。
が、しかしこれはあくまで魔法学校の中だけの話。
「女の子に声をかけるなんて無理だよ……」
入学してから三ヶ月が経とうとしていた。
友達の多くは、入学初期にほとんどが、勇気を出して女子に声を掛けてバディを成立させていた。
しかし、女子が苦手なアインはあれこれ考えてしまい声を掛けられていなかったのだ。
闘技場 実技訓練授業
魔法は下級、中級、上級とランクが分かれている。
主な魔法は十種類あり、それぞれの属性でランク内の魔法の数は違う。
水の魔法は下級三つ、中級四つ、上級三つとなっている。
さらに魔法使いはそれぞれ2から3つ得意な魔法を持ち、その魔法をしっかり補助するためのスキル組みをするのが、魔法使いの中では常識だった。
アインが特に得意としたのは上級魔法の"水の聖剣"という魔法だ。
文字通り水で作られた剣は、全方向15メートルにも及ぶ範囲を攻撃できるが、詠唱が少し長い。
今日の実技訓練授業は魔法で動かしている小さなマトに魔法を当てるという、魔法使いには基礎だが、最も難易度が高いものだった。
「次!アイン・スペルシア!」
「はい!」
教官がアインの名を呼ぶ。
緊張するアインに30人もの男子生徒達が注目する。
マトはふわふわと変則的に縦横と浮いていた
アインは50センチほどの細い木のステッキを持ち、目を閉じて詠唱を始める。
「水の刃よ、我が敵を斬り裂け……」
アインの足元に青色の大きな魔法陣が現れる。
同時に握っていた木のステッキから水の剣が構成される。
その大きさはまさに特大剣。
アインその水の特大剣を両手に持ち上に構える。
「はああああ!」
アインは縦一直線に水の刃を振るう。
水の刃は一気にその剣身を伸ばして地面に叩きつけられた。
ドン!という音と同時に地面が割れ、
割れた地面には大量にの水溜りができるほどの水の量だった。
もはやマトは完全に消し飛んでいた。
「アイン・スペルシア、合格!」
教官が告げる。
それと同時に、それを見ていた男子生徒達は、アインを讃嘆していた。
上級魔法をこの威力、スピードで展開できる人間はそういないだろうと。
「アイン、お疲れ!」
そう声を掛けてくれたのは、教室で隣の席になった、トッド・ロスキアだった。
トッドは土の国の出身、髪は短髪で背がとても高く、褐色肌の筋肉質だった。
身分はそう高くは無いが、分け隔てなく皆に接し、その気さくさから、高い地位の貴族の友人は多かった。
「マトが粉微塵になっちまったな。さすがスペルシア家」
「いやぁ、そんな事はないよ」
アインは褒められるのに慣れておらず、苦笑いして受け流す。
「そういえば学校が始まって三ヶ月ほど経つが、バディは見つかったのか?」
「いや、それがまだなんだ……」
痛いところついてくるトッド。
アインが今一番悩んでいることだった。
「アインならすぐ見つかるさ!」
「そうだといいけどなぁ……もしこのまま対抗戦まで見つからなければどうしよう……」
「大丈夫だって、俺だって見つけられたぐらいだならな」
トッドは自分に親指を向け話すが、自慢しているわけではなかった。
なにせバディというのは、よほど人間性に問題ない限り、自然に見つかるものだと皆が思ってるからだ。
「誰か気になってる女子はいないのか?まぁ今、残ってる女子となると、やっぱりローズガーデン家の令嬢かな?」
「うーん……」
アインは昔、ローズガーデン家の令嬢のマルティーナとは食事をしたことがあった。
しかし、あまりの高飛車で人を見下す態度にトラウマを植え付けられていた。
しかも現在マルティーナが従える執事と取り巻き達はほぼ離れる事はない。
よほどの猛者でない限り、あの女性には近づきさえしないだろうとアインは思った。
その中でアインは一人の女性を想像していた。
「気になる子はいる……」
「お!誰なんだ?」
トッドは興味津々で聞き返す。
その目は血走っている。
「アゲハ・クローバルさん……」
「風の国のか!あの方ならアインにピッタリだな!」
「そ、そうかな……」
アインは自分の立場から色んな女性と出会ったが、あそこまで可憐な女性は見たことがなかった。
トッドはこのアインのカミングアウトにみるみるテンションが上がる。
アインはそのテンションに引いてしまい苦笑いした。
「確か、相棒曰く、アゲハ嬢はまだバディが決まっていないみたいだぞ」
「え?そうなの?あんなに綺麗なのに……」
これはチャンスだとアインは思った。
あんなに強くて綺麗なら一緒に水の国へ帰っても家族は喜ぶだろうと思ったのだ。
「でも、なんか、誘われてもみんな断ってるみたいだな」
「え!」
その話を聞いて急に怖気付くアイン。
まだバディを申し込むことすら決まっていないのに断られたら、嫌われたらどうしよう、という言葉が脳裏を過ぎる。
「明日、昼、中庭で!セッティングしてやるよ!」
「え?は?」
色んな悪い思考しているアインを尻目に、突然ヤバいことを言い出すトッド。
トッドの表情は満遍の笑み。
その顔は本気だった。
「いいから任せとけって!」
そう言って背中をバンと叩き、その衝撃でアインは前のめりになり、眼鏡がずれる。
この時のアインの表情は引き
男、アイン・スペルシアの一世一代の告白が始まろうとしていた。
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