アゲハとコチョウ

風の国 レノ


この国では農作物がよく育ち、米や麦の産地。

パンやハーブティーはいろんな種類があり、そのほとんどが、このレノ発祥と言っていいほどだ。


風がよく吹く地方なので、風車が沢山あり、そのエネルギーを魔石に封じ他国への輸出もしていた。


この国はこの数年の間、聖騎士、魔法使いともにいい人材が生まれなかった。


力こそ全てのこの世界では、それはさげすまれる理由には十分になり得たのだ。


そこである日、風の国、中央部の大貴族、クローバル家は大金を使って賢者クラスの魔法使いを数人呼び、禁忌に手を出してしまった。


"転生術"


禁じられたその魔法は、他の世界から強者を呼び寄せるというものだった。


当主のガウロ・クローバルは迷うことなく"それ"をおこなった。


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風の国 レノ

中央都市レイメル


私、アゲハ・クローバルの夢は聖騎士だ。

私は今月で8歳の誕生日を迎えた。

父上は最近怖い顔をしていたけど、今日はとても機嫌がよかった。


私は朝から父上の書斎へ呼ばれた。

父上の書斎には入ると怒られるので、今まで入ったことはない。


「アゲハ、紹介したい人がいるんだ」


父上の隣に立っていたのは若い髪の長い男の人だった。

左手には見たことのない剣を持ってる。


「はじめましてアゲハ様、私はカゲヤマリュウイチといいます」


聞いたことのない発音の名前で少し驚いた。

父上がそれに続いて口を開いた。


「この方は剣の達人なんだ、今日からアゲハの先生になる人だよ」


「え?あの、カーティス先生はどうされたんですか?」


カーティス先生は私に2年間、剣を教えてくれた先生だった。


「カーティス先生は田舎の母親の面倒を見るために引退されたんだよ」


「そんな……」


私は寂しかった。

カーティス先生はとても優しくて好きだったからだ。

それに剣術を男の人から教わるなんて……


「今日から、カゲヤマ先生から教わるんだ、しっかり気持ちを切り替えて学んでくれ」


父上はそう言って書斎を出て行った。

私はカゲヤマ先生と二人になって不安だった。

怖い先生だったらどうしよう……


「アゲハ様は剣術はお好きですか?」


「は、はい」


「うん、嘘ですね」


突然の事に驚いた。


「お父さんの顔色を見て学んでも剣は強くはなれないですよ。これから一ヶ月の授業は剣術を学ぶ理由を探して下さい」


「学ぶ理由ですか?それは強くなるためではないのですか?」


「なんのために剣術を覚えるのか?これはとても大事なことですよ。一ヶ月経ったら教えて下さい。あとの授業は私とお話ししましょう」


なんだかよくわからない先生が来たと思った。

でも、この日から沢山のことをカゲヤマ先生から教わった。


カゲヤマ先生が持っていた剣の名前はカタナというらしい。

片側にしか刃がついておらず、剣が若干反っている珍しい剣だった。


またいろんな遊びも教わった、アヤトリというのだったりイシケリというのも教えてもらって一緒に遊んだ。


そうこうしているうちにあっという間に一ヶ月が過ぎた。


「アゲハ様、剣を学ぶ理由は見つかりましたか?」


「……わからないです。でも私はカゲヤマ先生やカーティス先生みたいに優しい聖騎士になりたいです」


「アゲハ様の心の中には、もう父上はいないようですね」


ここから私は7年間、カゲヤマ先生に剣を教わった。

カーティス先生が教えていた剣とは全く違うもので最初は驚いた。

普通、剣は抜剣したままなのに、カゲヤマ先生の剣術は剣をわざわざ鞘に戻す。

この作業が何を意味しているのかわるまで3年はかかった。

そして先生は教え方が上手くてすぐに上達した。


私は15歳になった年、この年の風の国の剣術大会で最年少で優勝した。


「アゲハ様、私にはもう教えることはないようですね。これを渡しておきます」


それは先生がいつも大事にもっていた剣だった。


「え?これは先生の大事な剣なのでは?」


「私の最初で最後の弟子の門出に送ります。この刀の名は胡蝶こちょう。私の父が作った刀です」


私は涙ながら、その剣を受け取った。


「これから、いろんな困難苦難がありましょう。しかし私の剣術とこの胡蝶が必ずアゲハ様を守ります」


「ありがとう……ございました……」


いつまでも泣いてる私の頭をポンと軽く叩き、先生は帰っていった。

私はこのコチョウと共に生きることを誓った。



必ず聖騎士になって先生への恩を返そう。

私はそう決意して数日後、聖騎士学校へ入るためにセントラルへ向かった。



転生者・カゲヤマリュウイチはこの後、すぐに行方不明になった。

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