地上最強ヤンキーの転生先は底辺魔力の下級貴族だった件

フランジュ

魔法学校編

プロローグ(1)

"天下無双"


ただそれだけを目指した。

それが北条慎吾の唯一の目的だった。


「なんでこんなに弱いんだ?」


月明かり、都内の人気の無い公園で慎吾は1人の不良の胸ぐらを掴んでいた。


「ゆ、許して…」


不良は鼻血を垂らし涙目で慎吾に懇願する。

その周りには数人の不良が倒れていた。

慎吾が胸ぐらを掴んでる不良は最後の1人だった。


「お前らが俺の学校の女子に手を出したんだろ?二度とできねぇ体にしてやるよ」


「ひぃ!」


慎吾は胸ぐらを離して不良の顔面にストレートを打ち込む。

骨が砕けたことは音で分かった。


「俺の前に二度とあらわれるな、俺の学校に近づくな、俺の学校の生徒に手を出すな、今度はその程度で済まないぜ」


慎吾の悪名はこの地区一帯にまで広がっていた。


"危険な高校生がいる"

"暴走族100人相手に勝った高校生"

"A県B市の悪魔"


異名は様々だが、この一人の高校生に勝てる人間はこの地域には存在しなかった。


高校入学から毎日喧嘩を売られ、それを買った。

それから一年が過ぎた頃、慎吾には敵はいなくなっていた。



________________




「ただいま」


アパートの二階奥、2DKの部屋に慎吾の母親がいた。

母親は椅子に腰掛け、中央のテーブルに顔を埋めて寝てしまっていたようだ。


「おかえり、また遅かったね」


母親は眠気まなこを擦り、椅子から立ちあがる。


「起こしちゃたったな、でもこんなところで寝てたら風邪引くぞ」


「そうね、あんたも早く寝なさい、どうせご飯は外で食べてきたんでしょ」


母親の呆れ顔を見て慎吾は苦笑いを浮かべた。


「まだ病気がよくなってないんだから、俺が帰ってくるまで起きてなくていいんだぞ」


「あんたが帰ってくるまでは、毎日起きてるわよ、心配だからね」


慎吾は、寝てたじゃねぇか、と言おうとしたが、やめた。

母親の苦労を察していたからだ。

それは母子家庭で女手一つで育てていたということ。

そして、ある日無理がたたって体を壊してしまい外出があまりできないというところからきていた。


「とにかく早く寝ろ、俺もシャワー浴びたらすぐ寝る」


「はいはい」


母親は多分、慎吾が外でなにをしているのかわかっていた。

なにかにつけて理由をみつけては喧嘩していること。

だが母親は一度足りとも詮索せず、いつも笑顔で帰りを待っていたのだ。

慎吾はそんな母親を見る度、なにかもどかしさを感じていた。



________________



翌日



「あいつらまた来やがった」


昨日の不良が慎吾の高校付近で待ち構えていた。

慎吾は物陰に隠れて数人の不良を見つめる慎吾。


「あいつら来るなって警告したのに……しかしさすがに遅刻するのはマズイから今日はスルーだな」


母親が悲しむようなことはしたくない。

慎吾は成績は決してよくなく、喧嘩にあけくれて矛盾しているようだが、学校には真面目に通っていた。


学校も終わり、帰り支度中に慎吾の悪友2人が話しかけてくる。


「今日久しぶりにゲーセンでもいかね?D高のやつらからカツアゲしようぜ」


「あいつら最近調子に乗ってますからね!」


慎吾は苦笑いを浮かべた。


「悪い!今日ちょっと用事あんだ」


二人は「珍しい!」と声をハモらせた。

慎吾は誘いを断ったことは一度もない。

そんな慎吾が用事というならば、相当な用事なのだろう。


「ついに……、ついに慎吾にも女ができたか」


「マジっすか慎吾さん……俺嬉しいっす!」


二人は何を勘違いしたのか、教室に他の生徒が残っているのにもかかわらず号泣し始めた。


「ばっか!ちげーよ!とにかく、今日はパス!明日行くぞ!」


慎吾はその場の空気に耐えられず、一目散に教室を出ていった。

二人はその背中を見ながら、ずっと泣いていた。


「今日は母さんの誕生日だからな、誕生日プレゼントなんて買うのいつ以来だろうな」


慎吾は何を買うか迷った結果、母親の好きなチーズケーキを買っていくことにした。


「知り合いのとこのバイトはキツかったけど、これだけはな」


慎吾は頬を少し赤らめ、数年ぶりの母親への買い物を済ませた。

いつもより早く帰るから母親もさぞビックリするだろう。


「早く驚く顔が見たいな。俺がプレゼントなんてな!」


慎吾は少し緊張しながら家路についたが、アパート前は物々しい雰囲気だった。

パトカーが何台も来ていた。


「なんの騒ぎだ?」


一人の警察官が慎吾に気付き近づいてくる。

その警察官は慎吾が前に暴行容疑で捕まった時によくしてくれた警察官だった。


「慎吾……」


「よう!おっさん。どうしたんだ?なんかあったの?」


警察官は重い口を開く。


「慎吾、お母さんが死んだ」


「は?どういう冗談?」


全く状況を掴めなかった。

慎吾は次第にことの重大さに冷たい汗をかき始める。


「昼くらいに騒音で通報がった。到着した頃にはもう遅かった。すまない……」


慎吾は持っていたケーキの箱を無気力に落とす。

放心状態になっていた。


「D高の生徒がウロウロしていたのを目撃した人がいた、今捜索中だ。お母さんは市民病院に運ばれた。行ってあげなさい」


慎吾にはもうその言葉は届いていなかった。

昨日の連中がやったことは、もうピンときていた。

慎吾は静かに歩きだした。

その歩みの先は病院なんかじゃない。

それは修羅へと向かった。


D高のやつらの溜まり場は、駅前から少し離れたゲームセンター。

慎吾は店内に入ると、ゲーム音よりでかい笑い声が聞こえた。


「あいつの母親死んだってよ!」


「あははは!アイツの母親が泣いてたの見たら昨日のことなんてどうでもよくなっちまった」


「これであいつも少しは懲りただろ!」


慎吾はもうなにも考えられなかった。

ただそこにいる数人の不良を、この世から消してやろう。

生まれてきたことを後悔させてやろう。

ただこれだけだった。


「北条……」


不良の一人が慎吾に気づく、慎吾はそいつの顔面を思いっきりぶん殴り、他の不良に向かう。

一心不乱にその場にいた不良の目を潰し、鼻を折り、至る所の骨を砕いた。


「全員、生きてこっから出られると思うな」


慎吾はまだまだやる気だった。

相手が命尽きるまでやり続けるつもりだったが、1人の不良が背後から鈍器で慎吾の頭を割った。


「化け物が……お前がおとなしくしてたら母親死ななかったんだよ」


その言葉を聞き終わった瞬間に慎吾は絶命した。


慎吾はただ誇れるものが欲しかった。

誰かに認めてもらいたかった。

それになんの価値がなかったとしても。



僕は"そんな彼をこの世界に転生させた"

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