第5話 妹は空腹には勝てない



 レスターヴ王国国立図書館


ここは世界最高峰の図書館であり、最新の技術も取り入れられている。


その中でもとある魔術師によって作られた”人の軌跡”と呼ばれるシステムは世界に衝撃を与えた。


その内容は指定した人の情報が分かる、というもの。


簡略化した伝記といったところだ。


程度はあるが、経歴、使用魔法、血縁関係などといったものの現時点の情報が分かる。


このシステムを利用しに図書館に来る人も少なくはない。



      ◆◆◆



 ファルカ・ライデイン


彼もまたこのシステムを利用しに来た1人である。


昼食を終えて昼休み。この時間に彼はこの図書館に来ていた。


「あのデタラメな強さ…きっと只者ではない。」


自分の担任を思い浮かべながら散策する。


担任、つまりシア・レスターヴの資料を探す。


さっきから同じところをぐるぐるしているようにしか思えない。


「どこだよ、どこにあるんだよ。」


これじゃあ、きりがないので司書を探す。


結局、さっきのシアの話に出てきた司書に話を聞くことになった。





 「これですね、どうぞ」


淡白な司書の声。シアの”人の軌跡”を手渡してもらった。


気怠げな空気をかもしだしているが、本に対しては真面目なのだろう。


あ、そうだ。と思い出したように司書は言う。


「返却は二週間以内にお願いしますね」


「わかりました」


ファルカは”なんだたったそれだけか”と少し安心した。


そして、その資料を手に図書館を去る。



      ◆◆◆



 あ、あぁああっっっ!ウドン!ウドンが襲ってくるっっ‼‼


そこでわたしは目を覚ました。夢かぁ助かった。


ウドンに化けていた龍に襲われるっていう、なんとも可笑しな夢でした。


え、この世界に龍はいるのかって?いますとも。


魔族を抜いたモンスターの中では最強クラスって言われてるよ。


実物には会ったことはないんだけどね。


どうやらわたしは居眠りをしていたようです。


気づけば午後の授業の5分前でした。


授業って言ってもさっきの実習の反省的なものだけどね。


さて、行きますか。


このとき、わたしはまだ昼食をとっていないことを忘れていた。



      ◆◆◆



 1年1組のホームルームに着き、扉を開ける。


良かった。黒板消しが落ちてくるイタズラは無いようだ。


チャイムが鳴り、午後の授業が始まる。


「みんな昼休みは休憩できた?しっかり休んだから授業をしようか」


そう言ってわたしは振り返り用の紙を配る。


これもわたしのためにリリアが作ってくれていたものだ。


暇なのかなって思うくらい仕事をしてくれる。


「これに今日の実習の反省や改善点を書いてね〜」


これにて役目終了。本でも読もうかな。


生徒たちが振り返りを書き始める。


うんうん真面目で良いことだ。


グギュルギュルルルー

 

ふと、誰かの腹から音が聞こえた。


どうやらみんなには聞こえてないようだ。


聞こえたのわたしだけ?なんて思うが違う。


そういえば今日、昼食をとっていない。


じゃあさっきの音は…わたしだ…


とは言っても授業終了まで残り…50分!?


緊急事態発生です。やばいです。


抜け出すか、それとも耐えるか。


教室の後ろの方に目をやると学長たちが見学に来ていた。


これじゃ抜け出せないじゃん!!


結局、この時間の記憶は空腹感以外なかった。



      ◆◆◆



 授業が終わり、わたしは購買へ走る。


購買にまだパンが売ってあることを信じて走る。


購買につくと、シャッターが閉まる直前!!


まだ間に合う!と加速するが、売り切れの文字が見えたのでその場に倒れ込んだ。


誰もいない食堂にはわたしの腹の音だけが響いている。


もう社会人なのに情けないや。


あ、もうヤバいかも、誰かぁ食料をぉぉ


すると、トントンと誰かわたしの肩を優しく叩いてくる。


リリアかな?もしかして食料!?


喜びのあまり飛び起きるが、そこにいたのはリリアではなかった。


「大丈夫ですかシア先生。お昼ごはんを食べていないようでしたから心配したんですよ」


スラっと背が高く、どこか弱気な男性。


1年2組の担任のナスカ・カルタルア先生だ。


はい、とわたしにパンを渡してくれる。


「え、ナスカ先生良いんですか!?」


「ええ、そのためのパンですから」


めっちゃ優しいやん。かっこいい。


ところで君たち。


さっき弱気でスラっとしているって言ったからひ弱なイメージを持ったのではないか?


実はナスカ先生は教師になる前、軍でバリバリの魔法使いをやってたんだよ。


しかもお兄と同じ部隊で同級生。


だからお兄から少し話を聞いていたのよ。


「まだまだ新任なんだから僕達をもっと頼ってください。」


ナスカ先生がフッとわたしに笑いかける。


「ありがとうございます。わたしもなるべく無理はしませんので」


「ええ、体調最優先でお願いします」


場に笑いが起きる。


「それでは僕はこれで」


「はい!本当にありがとうございました!」


わたしはナスカ先生に手を振る。


ナスカ先生は優しいなあ。パンが3つも入ってるや。


え?ナスカ先生について知りたい?


彼は既婚者ですよ。


好きになっちゃた方…残念でした!



      ◆◆◆



 魔法学園では寮の見回りを教師が交代ですることになっています。


今日はわたしの番なのです。夜8時までは長いなあ。


帰りたいの一言に尽きるね。


そうはいっても仕事だからちゃんとはしますよ。


さっきナスカ先生にもらったパンも食べないと。


そうして、わたしは寮の裏側の芝生へ足を進める。


芝生でパン食べるのってなんだかピクニックみたいだね。


「あ」


「あ」


そこの芝生にはファルカがいた。しかも上半身裸で。


手には剣を持っている。


どうやら剣の素振りのようだ。


「あの…そんなに見ないでください……」


顔を真っ赤にしてファルカは言った。


「先生に見られるの嫌?」


「生徒の裸見て何が楽しいんですか?」


楽しくはないよ?からかいたいだけじゃん!


「その剣かっこいいね国宝?」


「先生、話を逸らさないでください」


バレたか。ごもっともすぎる。


「……先生はどんな武器を使うんですか?」


あ、わたし?わたしはねぇ……

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