第26話 本当の黄金
何でさ?!
俺はただ、ネメスとチオが決闘を通じて友情を結ぶ展開を期待したのに、何で俺がチオと決闘することに?
「おいおい、また決闘だってよ、ハビリくんが!」
「今回も一年生? 女の子?」
「ああ。でも、あの子は結構有名だぜ? 今年の入試のトップだってよ!」
「しかも言い寄ろうとした子爵家のハナオがぶっ飛ばされてるって」
訓練場の中央で向かい合う俺たちを、騒ぎを聞きつけたやじ馬たちが観戦モード。
互いに制服姿で向かい合う俺たちを皆が注目していた。
いや、決闘って実際学園の校則的に……
「ふぉふぉふぉ、これは興味深い。あのハビリ・スポイルドと近接格闘術なら王国最強と呼ばれた魔道格闘道場の娘……今年一番の有望株の決闘とは」
って、学園長までもが止めることなく観戦モードじゃねえかよぉ!? 何が、ふぉっふぉっふぉ、だ! あのジジイ!
「言っとくけど、決闘なんだからガチよ? あんたが先輩だろうが貴族だろうが知ったことじゃない。ボッコボコにするけど、嫌ならさっさと降参しなさいよね?」
っていうか、別に俺はこいつと決闘する意味ねえよな? ってか、そもそも俺が決闘する予定じゃなかったのに。
「せんぱ~~い、がんばれ~~~! フレッフレッ、せんぱい! フレッフレッ、せんぱい!」
本来決闘させるはずだったネメスは応援モードに……くそぉ、何でだよ。
つーか、本当に何やってんのか分かんなくなってきた。
どうする? もう、さっさと降参するか?
「じゃあ―――――活ッ!!」
「ッ!?」
と、どうしようかと悩んだ俺が一瞬で鳥肌が立つほどの気迫。
賑やかな野次馬たちも一瞬で静まり返る。
それは全て、目の前のチオから発せられた気迫……
「こぉ~……」
精神統一? 息をゆっくり吐き……こいつ、さっきまでのガチャガチャ煩い生意気なチビじゃねえ。
いかん、来るッ!
「魔極神正拳突き、せいッ!」
「ぬぉ?!」
一瞬で間合いを詰め込む踏み込みと、喉を目掛けて繰り出された貫手。
あと少し、後ろに飛びのくのが遅れていたら……
「魔極神上段蹴り、せいやぁ!」
踏み込んで放った貫手だが、そこからさらにもう一度地面を強く蹴って、バックステップして下がった俺に追撃――あ、コレ、届く―――水色縞々パンツ!?
「がっ!? ア――――」
当たった。ハイキック! 頭。揺れる。痛い。スカートでパンチら縞々……
「そ、そんな、先輩ッ!?」
「坊ちゃま、そんな小娘パンティーに目を奪われて?!」
やばい、声は聞こえるけど、意識が飛びそうで膝から力が……倒れ―――
「―――ら、れるかぁあ!」
「へぇ~」
「燃えろ!」
倒れられるわけがねえ。咄嗟に俺は唇を噛みしめながら掌を前に翳し、無我夢中でとにかくチオに向かって炎を放つ。
が……
「魔極神回し受けッ!」
「いい!?」
俺が放った炎を、チオは顔色一つ変えることなく、掌で炎を全て弾きやがった。
蒼炎じゃないとはいえ……素手で……
「って、テメエ……」
「へぇ、やっぱりあんたは少しはやるわね。一発目をちゃんと回避したし、二発目の蹴りで意識を途切れさせずに、ちゃんと反撃するんだから。でも、だからこそ分かるんじゃない? あんたと私の肉体的な力の差を」
「ッ!?」
そう、今の一瞬、そして蹴りが触れた瞬間に俺は全てを悟っちまった。
俺よりも背も低い、小さい女。
だけど、その体に一切の無駄のなく、鍛え抜かれた肉体。
寒気がした。
「な、なんです、あの子……先輩に……いや、でも今の動き……」
「ふん(まぁ、チオならあれぐらいは……とはいえ、流石の坊ちゃまの才能でも今のチオにはやはりまだ……まぁ、坊ちゃまにはまだ『アレ』があるが……というか、よくも坊ちゃまにお子様パンティーを……坊ちゃま、あとで小生のアダルティーなパンティーを存分にご覧くだされ。便利な穴も開いておりますので♥)」
見ている連中も静まり返っちまう。
そうだな、つか、こいつは奇跡の黄金世代の一人。
しかも……
「へっ、ツエーじゃねえか、お前。今のとか、どんなタネだ?」
「タネ? ふん、タネも仕掛けもないわよ。私はただ、小さいころからいっぱい特訓していただけ。毎日血反吐を吐くぐらい頑張ったら、誰でもこれぐらいできるわよ」
「……血反吐……ねぇ」
そうか、妙な覚醒で強くなっちゃうネメスと違って、こいつは普通に努力で強くなっているタイプ
もともと才能だってあっただろうに、それで怠けることもなく鍛えぬいて……
「でも、それなら魔法学園に入る必要ねえじゃねえか。十分強いのに」
「は? そんなわけないでしょ。私は魔法に関しては苦手だから、その苦手を克服するために入ったのよ」
でかい態度は、自分の積み上げてきた自信から。
そうやって考えると……あ……
やべぇ、こいつ現時点ではネメスより強いじゃねえかよぉ!?
つまり、俺の行動関係なしにそのまんま奇跡の黄金世代の力そのものなのである。
これは、普通にまずい。
「坊ちゃま……(仮に坊ちゃまがこれで負けたら、非常に傷心されるはず。そうなったら小生の出番。この自慢の胸で母のように坊ちゃまを抱きしめて甘えさせて……そうすればスケベな坊ちゃまは反応し、小生は坊ちゃまに身体を……おお、良いではないか! これは今日こそ処女消失できる! チオ、ガンバだ! 坊ちゃまを叩きのめして傷心させるのだッ!)」
だが、同時に……
「どうする? 降参するなら勘弁してあげる。だけど、まだやると言うのなら、恥をかかせちゃうけど、泣くんじゃないわよ?」
色々と半端な状態のネメスとは違う。
歪んでるから、特訓の手合わせのお願いもしづらいソードやマギナとも違い、何の遠慮も忖度もなしに戦える……王子のアレはバトルというよりは意地の張り合いみたいなのだけど……これは違う。
「わりーな。恥も涙も俺はもう慣れてんだよ。だから、それぐらいじゃぁ、やめる理由にはならねーよ」
「……あら」
「乗り気じゃなかったが……お前と真剣に向き合いたくなった」
俺は奇跡の黄金世代の一人に自分の力を試せる。
これって、かなり俺にもいい経験ってやつじゃねえかよ。
「ちょっとこっちも、ガチでいかせてもらうぜ!」
「ふん、懲りない男ね。ザコは嫌いだけど、しつこい男も嫌いよ。大体、あんたの炎なんて――――えっ!?」
ならば、存分に試させてもらおうじゃねえかよ!
「蒼炎ッ!!」
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