第14話 志し
「あっ、できました! マギナさん、あなたの言う通りにやったらマナの剣できました!」
「一度コツさえ掴めばもう忘れることはありません。……特にあなたは」
翌朝から始まった特訓だが、やはり勇者は勇者だった。
今まで田舎でまともな魔法教育とか受けていなかっただけで、コツさえ教えればできる……という俺と同じタイプだった……まだ物足りないが……
「さて、魔法の後は小生と実戦訓練だ。体力……いや、そなたには足りないもので満ちている。さぁ、小生と実戦特訓だ(まぁ、才能は有り余っているので経験積めば積むほどすぐに一流に達するが……とはいえ、早急に前回並みに鍛えねば……前回のこの時期、坊ちゃまを叩きのめしたとき……あのときの怒りをキッカケに達した力にはまだ程遠い……)」
「はい、お願いします! とりゃああああ!」
教えたことはすぐにでき、一度跳ね返されても立ち上がる根性を見せて食らいつく時にはさっきよりも鋭くなっている。
受付で足切りされた時はすぐに心が折れていたが、一度やる気になればどこまでも伸び……てくれないとマジで困る。
本当に、もっと一瞬でドカーンと強くなってくれ。
「今のところ、みるみる内に伸びていってるな……天才ってやつ?」
「何とも……今までまともな環境での訓練や指導を受けていなかったので、最初は伸びるでしょう……問題は、どこで頭打ちになるか」
「……そうかぁ……」
「ところで御主人様……蒼炎の形状形態コントロール……更に向上していますね」
「おお、そうか?」
「ええ……(前回の御主人様はまるで努力されなかったので知りませんでしたが……やはり御主人様も傑物ですね……というか、このまま伸びれば奇跡の黄金世代として……いえいえ、御主人様は魔王軍と戦うより私とのメスブタライフに集中していただきたいのですが……)」
そして、何だかんだで俺もやればできる子だったようで、何だか自分自身も調子がよくなってきている。
このまま強くなれば、前回守ることも何もすることもできなかった未来を変えることも?
と言っても、既に結構色々とズレてきているからどうなるか分からないのは怖いんだがな……何よりも、ネメスが強くなってきているとはいえ、まだまだ前回俺をぶちのめしたときよりは格段に弱い。
「先輩はどんな勇者を目指しているんですか?」
「……は?」
休憩中にネメスが純粋な目でそんなことを聞いてきた。
「い、いや……俺は別に……勇者を目指しているわけじゃねえけど……」
「えっ!? 何でですか! 先輩ほど強くて才能もあって、それに人を惹きつけ立ち上がらせる力のある人がどうして!?」
「い、いやいやいやいや、あんまり買いかぶんなって。俺はそんな大層なものじゃ――」
「むぅ~~~、そんなの納得できません! 先輩が勇者を目指さないなんておかしいと思います! だったらどうして魔法学園に? こうして特訓だってしてますし! 先輩は、僕たち後輩を引っ張っていってくれるんじゃないんですか?!」
「いや、魔法学園は家の事情で……そ、それに特訓はあくまで今後のことを色々と……まぁ、色々と」
まさかネメスに俺が勇者を目指していたとまで勘違いされるとは思わなかった。
俺が勇者を目指してないと言うと本気で怒って詰め寄ってきた。
「じゃあ、先輩は将来何になろうとしているんですか!」
「え? しょ、将来……?」
それは、いくらでも考える時間がありながらも結局今まで考えないようにしていた俺の将来のこと。
(ドスケベライフ! ……と、それはさておき、小生も気になる。前回の坊ちゃまは最後は惨めであった……だが、今の坊ちゃまは?)
(メスブタライフ! ……と、言いたいところですが、御主人様の目指す道とは一体……?)
なんか、ソードとマギナも「キュピーン」と目が光って俺に身体を向けて話を聞く姿勢の様子。
ただ、俺はそう言われても……将来か……
「俺は――――」
俺が勇者を目指していないのは本当だ。
軍総司令の親父の息子と言っても、俺は親父たちに見放されてからは好きなようにさせられたから、親父たちのように国に尽くそうとかそういうことを考えてもないし、世界や人類のために魔王軍と戦おうとかも思ったこともない。
真面目に生きているのも将来のためじゃねえ。ただの、前回からの償いみたいなもんで、自己満足。
ただ、鍛えているのは……
――お兄ちゃん、大丈夫?
あのとき、ゴミみたいに生き倒れていた俺を……
「……将来困ったときに何とかできるだけの力を今のうちに身に着けようとしているだけだ」
「むぅ、なんですかそれー! 先輩はもっと大きな志を持たないといけないと思います!」
とりあえず、それを言えるわけもないので、今はそういうことにしとくことにした。
すると……
「まったくだ! それが我が国を支える名家の子息だというのは実に嘆かわしい!」
「「「「ッ!?」」」」
そのとき、屋敷の庭に随分と荒々し声が響いた。
一体だれかと思い顔を向けると……ふぁ?!
「うぇ?! あ、え?」
筋肉粒々の巨漢。野性味溢れる眼光と逆立った緑の短髪。
漆黒の鎧を身に纏い、全身から溢れる武のオーラは……
「ぶ、ブドー王子ッ!?」
この国の王子様だった。
「え、うぇ!? お、王子!? って、じゃあこの国の!?」
「な、なんと……」
「な、何故ここに……」
王子の顔を知らないネメスは慌てて立ち上がり、ソードとマギナも動揺した様子で起立した。
いや、本当に何で王子がワザワザここに?
しかも……
「うふふ、お邪魔するね、ハビリ♪」
「うぇ!? 姫様も!?」
なんか姫も居るし!?
「やぁ、ハビリ。朝から訓練とは……本当に心を入れ替えているみたいだね」
「だが、少しホッとした。王子自らが視察に来られたところ、だらしのない姿や奴隷と戯れているところではなかったのだからな……」
そして、その後ろに付き従うように親父と兄貴も居るし。なんで?
いや、まずは……
「久しいな、ハビリよ」
「は、はい! お久しゅうございます、王子! 本日は一体どのような……」
とにかく俺は片膝付いて頭を下げる。
近寄られるだけでとんでもなく息が詰まるし、プレッシャーが凄い。
帝国の王子にして、兄貴と同等の力を持った帝国最強の一人なんだからそりゃそうなんだけど、昔から怖いんだよこの王子様は。
「お前を見に来た」
「……え?」
「実は本日雑談で、ただの七光りのバカ息子だったはずのお前が心を入れ替え、更に目を見張る才能を見せたと、ゴウエン総司令とレツカが言うものでな……いかに肉親とはいえ、贔屓や誇張はせん二人がそこまで言う才能ならば興味も持とう。この国の未来を担うかもしれんのだからな」
「え……えええ?」
「さらに、我が妹までもが昨日のお前の行動について熱弁するものでな……これはもう直接見に来ねばと思った次第だ」
俺を見に来た……前回は俺に毛ほども興味なかったはずの王子が、俺を見にワザワザ宮殿から?
いや、来なくていいんだけど!?
「そそそ、それなら、じ、事前に連絡くだされば……」
「事前に教えては、取り繕ったり、何かを隠そうとしたりするであろう?」
「うっ……」
さらに……
「とにかく、私はお前の力を見たい。それを見るには……自分で直接戦うのがよかろう」
「は?」
「立て。そして私と今すぐ立ち合え!」
口に出しては決して言えないけど……なんか脳筋王子が介入してきて、ほんと前回から大幅に変わるわけ分からん展開になっちまった!
ってか、そういやこの王子もいずれ死ぬんだよな?
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