#189 Reincarnation~生まれ変わる妖精
[今夜9時にホロガーデンの新人Vチューバーのデビューです!]
そんな公式アカウントのツイッターが更新された。
その結果⋯⋯公開前の配信に、すでに5万人以上アクセスしているという非常事態になっていた。
【ルシファおかえり!】
【帰ってくんな!】
【いや関係ない別人かもしれんだろ】
という傾向のコメントが流れっぱなしだった。
「ふう⋯⋯大丈夫。 私は大丈夫」
このままリスナーの前に出て非難される覚悟は完了した。
もしも私ひとりだったのならこんな覚悟は持てなかっただろう。
「私はひとりじゃない。 みんなが待っている」
Vチューバーの仲間たち、ルシファの復活を喜ぶリスナーのみんな。
⋯⋯もちろん非難するリスナーもいっぱいいるけど、もう怖いものなんか何もない!
「なにもできず、ただくすぶって生きる人生よりも私は⋯⋯みんなに注目されて輝きたいから!」
以前の私だったなら「私はスターなのだから自分で光り輝いてるのよ!」なんて思いあがっていただろう。
しかしもう十分に知っている。
このちっぽけな私を照らす灯りのひとつひとつが仲間たちなのだという事を。
「さあルシファの再デビューよ!」
そう気合を入れたのは配信を開始する2時間前だった。
⋯⋯しかし。
「⋯⋯あれ? 木下さんからメール来た」
もしかして何か予定変更でもあったのだろうか?
それともやっぱりルシファの再デビューは無しという決定か!?
恐る恐るそのメールを読む。
[木下:おはようございます揚羽さん。 あなた用の新アバターのデータを送りましたので、そちらをお使いください]
「⋯⋯どーゆーこと?」
この時点まで私は以前のルシファのアバターで出て行く気まんまんだったのだ。
そして私は送られてきたやたら重たい添付データの解凍を始める。
「もしかして新衣装とか?」
あるのだろうかそんなことが?
でも再デビューのための事務所のバックアップとも考えられるし⋯⋯。
そう思いながらその新アバターを起動してみると──!?
「な⋯⋯なんじゃこりゃあ!?」
そこには変わり果てたルシファの姿があった。
⋯⋯いやもはや原型など、どこにも残っていないよ⋯⋯コレは。
そのアバターと一緒に添付メモがあった。
読んでみると⋯⋯。
[西城パステル:揚羽さんご機嫌よう。 あなたの新しい門出に華を添えるべくがんばりました。 勇気をだすのよ、あなたは一人ではないのだから]
「⋯⋯はは。 ⋯⋯ははは。 コレでいくしかないのか〜。 ⋯⋯はあ」
コレではもうルシファとは言えないな。
ふと私はあのヘンテコなメイドに最後に言われたことを思い出していた。
『いいですか! 炎上した時にはもう元の完全な自分に戻れるとは思わない事です! そして何を捨てて何を守るのか選んでください! そうすれば以前と違った形でもファンに愛される事は可能なのです!』
そうか生まれ変わるのか私は⋯⋯。
再びこの新しい姿で!
⋯⋯私は捨てるものの大きさを改めて感じるのだった。
でも選んだのは自分だ、また愛されるために。
最後に私はこれまで自身の半身であったルシファのアバターを見つめる。
西城パステル先生が私の為に描いてくれた愛するキャラクターを⋯⋯。
「⋯⋯ありがとう今までの私。 さようなら」
そして新しいアバターを再度見つめる⋯⋯。
「でもコレはちょっとあんまりじゃないですかねえ? パステルママ⋯⋯」
その言葉は感謝と怨嗟どっちが多かったのだろうか?
それでも私は急いで新しいこのアバターの為の新しい設定を考えるのだった。
── ※ ── ※ ──
【ワクテカ】
【デビューする新人はどんな子なんだろ?】
【どうせルシファだろ?】
【いや別人かもしれんやろ】
そんなコメントが流れまくる配信でついに『私』は姿を表した!
「皆様! こんばんは! 私は今夜ホロガーデンからデビューすることになった新人Vチューバーの『シルファ』と申します!」
【は?】
【はえ?】
【ルシファじゃない?】
【ちがう別人だコレ???】
⋯⋯うん、完全に別物だよねー。
この私の新アバターは今までのルシファとは似ても似つかない外見だったのだから⋯⋯。
【金髪ロリキタ──!】
【ロリ看護婦さんwww】
【つるぺた幼女♪】
⋯⋯ああそうだよ。
今度のアバターは思いっきりロリのつるペタ幼女だよ!
【でもルシファだよね声は?】
⋯⋯まあバレバレかあー。
『説明しよう!』
そう配信に割り込んで喋りだしたのはマロンだった。
まあ元々この初配信のゲストとしてホロガーデンの仲間全員がスタンバイしていたんだけどね。
『かつて私達の仲間だったあの子は死にました。 そして! 生まれ変わったのが彼女なのです!』
【転生したんかルシファは?】
【ルシファ死んでて草www】
【あのおっぱいは死んだのか⋯⋯】
【なんと変わり果てた姿にwww】
【でもなぜロリに?】
『ルシ⋯⋯やないシルファのリアルは、つるぺったんやったからなあ』
「ちょ!? ナージャ! 何言ってんのよ!」
『でもホントの事でしょ?』
『せやせや、ちょっと盛りすぎだっわ前のは』
『だから甥っ子に「おっぱいなんで大きの?」とか言われるんだよ!』
「ちょっとジュエル! それナイショだって!」
『あれ? そうだったの? ゴメンゴメン』
私はサーと血の気が引く。
私が大事に守ろうとした家族が⋯⋯このバカに!
【あのコメントってほんとにルシファの家族だったんだ】
【噂じゃ家族で弟あたりと言われてたよなあ】
【甥っ子だったのか疑惑の彼氏はwww】
【つるペタ合法ロリと暮らす甥っ子うらやま!】
⋯⋯信じてる?
あの嘘を! ⋯⋯いや真実も混ざってるけど。
⋯⋯しかし。
【許せないよな】
そういうコメントも流れてくる。
そうだよね⋯⋯みんな許せるわけない⋯⋯か。
【パットとか許せんよな】
【偽乳でワイらを騙してたんかルシファは!】
【おっぱい詐欺師め!】
【返せ俺たちのおっぱいを!】
「はあ!? あのおっぱいは私のよ! 返せとか言うな!」
『ないものを私のだとか空しくない? シルファちゃ~ん!』
「ジュエルてめえ!」
『おっぱい担当は私やマロンに任せて、シルファはアリスと一緒にこれからは貧乳担当ね!』
「じゃかましい! アリスの絶壁と一緒にするな! 少しはあるわ!」
【www】
【仲いいなあコイツら】
【ああこの感じ戻って来たんだなあ】
【戻ってきてないんだがおっぱいがwww】
いつの間にか謝罪会見みたいな覚悟と雰囲気は消し飛んでいた。
私はリスナーや仲間たちにヒドイ暴言を吐きまくる素に戻っていた。
でもそんな私を誰も責めたりはせず、むしろ暖かく笑いながら見てくれていた。
『こ⋯⋯これからのシルファさんは、あくみんの後輩なので⋯⋯先輩を敬うように!』
「あ? 言うようになったわね、あくみん!」
『ひゃう! ごめんなさいです! ちょっと調子に乗ってました!』
【あくみんはさあwww】
【あくみんはナチュラルに煽るからなあwww】
『これからよろしくお願いするにゃあシルファちゃん』
『ボクにもやっと後輩が出来て嬉しいですシルファ先輩!』
アリス⋯⋯コイツはさあ⋯⋯。
隠す気ないなこいつら。
私もワンチャンこのままシルファのフリして新人として擬態していこうかと思っていたが⋯⋯ぶち壊しだよ!
でも⋯⋯。
この仲間たちが居たから私は私のままでここに戻れたんだ。
その時だった。
ポーンと配信にポップアップ画面が映ったのだ!
私はあの時のトラウマを思い出す⋯⋯。
しかしそのウインドウには──!
[西城パステル:この子はちょっとだけ背伸びしたかっただけなの。 みんな許してあげてね]
【西城ママ来たwww】
【授業参観かなw】
【もう許してやるかwww】
【せやなw】
⋯⋯きっと今は雰囲気に流されているだけだろう。
本当に私が許された訳ではないのだ。
でも⋯⋯今なら言える気がした。
「みんな! 一度しか言いません!
ルシファはみんなを裏切って迷惑かけてごめんなさい!
ルシファは引退します、それは嘘じゃない⋯⋯でも!
これからはシルファとしてがんばりたいです!
もう一度だけ私を信じてください!」
きっと本当に許される日はずっと先なんだろう。
いや⋯⋯そんな日は永遠に来ないのかもしれない。
ここから先、たとえどれだけ苦しい日々だとしても私は挫けない。
私を信じて、私を愛して、私を待っててくれた人たちがいる限り!
【おかえり『シルファ』】
「ただいま、みんなっ!」
やっと言えた。
この言葉を伝えるために私は今ここにいる。
これからもずっと愛される私で居るために。
【で⋯⋯結局ルシファなの? シルファなの?】
【デビューなのかカムバックなのか?】
「う⋯⋯ルシファは死んだ姉さんという事で。 私は妹のシルファとして今日からデビューです」
私は30分で考えたテキトーな設定を説明した。
そうルシファは死んだのだ。
でもシルファとして私は生まれ変わったのだ。
仲間やファンのおかげで。
「ありがとうみんな! 愛してる!」
愛してるみんなを。
だからみんなも私を⋯⋯
これからもずっと!
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