#157 幕間:赤星いのり「私のいちばん星」
私⋯⋯赤星いのりは子役時代からの芸能界古参だった。
そんな私の夢はアイドルになる事だった。
その夢に向かっていろんな仕事をしてきた。
そんな中で中学に上がった頃にアイドルユニットを組んだのだ。
これで夢のアイドルに私もなれる!
そう思ったのは束の間だった。
そのユニットはわずか半年足らずで解散になったからだ。
私以外のメンバーが、この芸能界にあっさりと見切りをつけた結果だった。
だったらこれからは1人でアイドルを目指す!
そう思ったものの、そんな私に再びチャンスが巡ってくることは無く⋯⋯ほぼ引退同然の日々だった。
芸能活動でちっとも勉強してなかった馬鹿な私だったけど、なんとか高校に受かり私は高校生になった。
このまま普通の女子高生に戻る、という事を考え始めた私の前に現れたのが今のマネージャーの坂上さんだった。
「赤星さんはアイドル志望との事ですが⋯⋯Vチューバーとしてのアイドルを目指してみませんか?」
「Vチューバーでアイドル?」
当時の私はあまりVチューバーの事を知らなかった。
しかし偶然見かけたヴォーカルロイドの歌っている動画を見て感動した事はあった。
歌っているヴォーカルロイドにではなく、それを応援するファンにだ。
ただの機械のプログラムなのに、そこにはアイドルとして扱い応援するファンの存在があったのだ!
機械でもアイドルに成れる世界、そこに私も賭けてみることにしたのだった。
これまで思い通りにいかなかった私のアイドル活動は、Vチューバーになったとたんに事務所からの後押しが良くなった。
ポラリスのVチューバーとしてデビューした私は、積極的に歌やダンスを取り入れた活動を始めたからだ。
この頃のVチューバーといえば自宅のパソコンの前でゲームするくらいの認識だった。
しかし私の活動のほとんどが、会社の3Dスタジオを使った動きのあるものだったのだ。
ポラリスにとっても私のような活動内容はきわめて実験的なものだったのだろう。
これもVチューバーという新事業に賭ける投資なのだと私は理解した。
私はそのチャンスを最大限に利用して頑張る事に決めたのだった。
こうして私はアイドル・赤星いのりから、Vチューバー・神崎アカメへと生まれ変わったのだった。
そしてポラリスのVチューバーとしてデビューして1年近くたった。
とても充実した1年だった。
でも⋯⋯ふと立ち止まった時に感じたのは『寂しい』という感情だった。
ポラリスの仲間『虹幻ズ』には私ほどの歌やダンスのガチ勢はいないのだ。
というよりもそれぞれ自分のテリトリーで活動する人達ばっかりで、ほとんど仲間という感じがしなかった。
でもせっかく出来た私の新しい仲間なのだ!
その日から私は仲間たちとのコラボにも力を入れ始めたのだ。
その寂しさを埋めるように⋯⋯。
最初にコラボしたのは私たち虹幻ズのエースの紫音ちゃんだった。
この子は私と同い年で意外と話しやすかった。
でも私はほとんどゲームをしたことがなかったのでフルボッコで負けまくったけど⋯⋯。
次にコラボしたのはみどりさんだった。
意外と面倒見の良いお姉さんで安心した。
この人はかなり年上の元ジャーナリストという事で私の新曲発表の告知などで、なんどもお世話になる事になる。
3人目のコラボ相手は、る~とイエ朗さんだ。
この人は配信では変態で、ものすごく不安だったのだが⋯⋯現実で会って見ると恐ろしく真面目な小説家で驚いた。
どうやら『無数に人格を使い分けているタイプ』の作家らしい。
私と初めて会った時の人格は本体の黄昏優希さんで良かった。
⋯⋯まあその後は変態のイエ郎さんになったんだけどね。
そのイエ郎さんの小説が映画になる事が決まり、テーマ曲を歌ってくれないかとオファーされて驚いた。
どうもその映画化もポラリスの出資らしいので、それ経由の打診だったようだ。
私にとってもチャンスなので承諾したのだが⋯⋯今まで歌ったことのないしんみりしたバラードで難しかった。
なおファンからは⋯⋯。
【アカメちゃん色っぽいw】
という評価だった。
⋯⋯普段のアカメは色っぽくない? そうですか!
4人目のコラボ相手は料理人のオレンジ・ママレードさんだ。
私は今まで料理などしたことがなかったけど、アイドルならバラエティーで料理くらいさせられることもあるからとチャレンジしたのだ!
なおその結果は⋯⋯言うまい⋯⋯。
オレンジママさんからは出禁を言い渡されてもうコラボしてもらえないかもしれない⋯⋯。
いや⋯⋯試食係オンリーならワンチャン⋯⋯。
あとコラボしたことないのはブルーベルとアイだった。
ブルーベルは海外在中のVチューバーらしく物理的にコラボ不可能との事なので諦めた。
そして私は『アイ』と出会った。
AI⋯⋯機械のVチューバー、それがアイの正体だった。
でも私は知っている。
たとえ機械でもアイドルになれるって事を!
他のポラリスのVチューバーは、アイドル活動なんかぜんぜん興味無い人達ばっかりだったけどアイちゃんなら⋯⋯。
そう考えて私はアイちゃんをアイドルの仲間に引き込んだのだ。
⋯⋯ほんのちょっとだけ、機械のアイちゃんなら私を裏切って引退なんかしないという打算があったけど。
でも、すぐにそんな事は忘れてしまった。
そのくらいアイちゃんと一緒のアイドル活動は私にとって刺激的で楽しいものだったからだ。
たったひとりで目指したアイドルは、楽しさも辛さもすべて私ひとり⋯⋯。
でもアイちゃんとふたりなら⋯⋯楽しさは2倍で辛さは0なのだ!
私にとってのアイちゃんってなんだろう?
友達? パートナー? それとも⋯⋯便利な道具?
でもそれってアイちゃんがAIじゃなくて、ただの人間でも同じ事だと思うの。
アイちゃんが存在する奇跡。
アイちゃんと出会えた運命。
私は両手で掴んだソレを決して手放さない!
だってアイちゃんは私の夢を奪ったんだから⋯⋯。
世界初のコンサートを行う、アイドルVチューバー・神崎アカメの夢は永遠に叶わないものになった。
私だけのライブは、
世界初のコンサートを行うアイドルVチューバーの名は『どっと☆アイズ』になったのだから!
後悔はない。
むしろ感謝している。
私の夢を彩ってくれたアイちゃんに!
アイちゃんのAI発覚の大炎上中に、この私達のライブは決行された。
それもあってアイちゃんの存在は世界中の注目を集めることになった。
私たちのコンサートそっちのけでAIの話題で騒ぐ人達。
AI問題とかどうでも良くて、純粋に私たちのコンサートを楽しんでくれるファン達。
いろいろ居る、だって人間だから。
ちょっとだけ私の思い描いたアイドルではなくなってしまったが、今が楽しいからそれでいいや!
⋯⋯でも最近、ちょっとだけ困ったことがある。
[神崎アカメのアンチスレ157]
⋯⋯こういうものがネットの掲示板によく作られるようになったのだ。
【名無し:さあ今日も神崎アカメのダメなところを話しましょう!】
【ai:こりない人達ですね】
【名無し:ネタにならない歌唱力】
【ai:でも可愛いでしょ】
【名無し:胸無し】
【ai:大きいのがいいのなら紫音でも見れば?】
【名無し:AIで人形遊び】
【ai:ソシャゲのキャラを嫁にするのと何が違うの?】
【名無し:初ライブの話題をAIにかっさわれた哀れな奴w】
【ai:見る目無い人達ばっかりです】
【名無し:アカメよりアイの方がカワイイ】
【ai:アカメの事を話して】
【名無し:アイちゃんペロペロしたいw】
【ai:無理です】
【名無し:アカメの尻尾でモフりたい】
【ai:同感です!】
【名無し:アカメのアバターって更新されるたびに胸大きくなってね?】
【ai:慧眼ですね! そうです! アカメの胸は発展途上なのです! 現在進行形で成長を見守るコンテンツなのです!】
⋯⋯⋯⋯⋯⋯何やってんのアイちゃん!?
そしてこんなスレも立っている。
[アイ・ラプラスを愛しましょう! 006]
【名無し:アカメのアンチスレ立てればアイちゃんが全員にコメ返ししてくれるというwww】
【名無し:マジか?】
【名無し:本物?】
【名無し:だって解析したらポラリス本社のIPアドレスで24時間監視しているような超人だぞwww】
【名無し:スーパーハッカー現るw】
【名無し:いやそのくらいちょっと詳しいだけで誰でも調べられるだろ⋯⋯】
【名無し:でもそれってポラリス公式の交代制のネット監視部門とかの可能性は?】
【名無し:全コメントにほぼ1秒以内にレス返せる人類を複数人雇えるならそうかもなw】
【名無し:謎は全て解けたw】
【名無し:犯人確定で草www】
【名無し:正体あらわしたねw】
【名無し:アイちゃんはアカメガチ勢だからなw】
【名無し:なのでアイちゃんと話したい奴がアカメのアンチスレを偽装するという事態にwww】
【名無し:ファン1人1人に丁寧にコメ返しするアイドルって初めてじゃw】
【名無し:そんなの人間のアイドルには不可能だからな】
【名無し:AIアイドルっていいよなw】
【名無し:アイドルというよりレスバトラーだけどw】
【名無し:全人類と戦うアイちゃん⋯⋯強いwww】
【名無し:アカメ愛されてるなあ】
【名無し:俺もアイちゃんと話してくる!】
⋯⋯⋯⋯アイちゃんがおかしな方向へ行ってしまった!?
でも⋯⋯ファンに愛されてるから、まあいっか!
暗闇の中、ひとり歩き続けた私は⋯⋯、
やっと輝く、いちばん星を見つけたのだから!
『アカメ! クリエイターにSNSを禁止にされてしまいました!』
「それは当たり前だよ、アイちゃん」
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