#138 全員集結!『虹幻ズ』

 次の日から僕たち『ホロガーデン・アルタイル』のメンバーは、ポラリスのスタジオに行くことになった。

 ミニ四君イベント本番前のテストの為に。


「くくく⋯⋯ようこそ我らが城へ、ホロガーデンの諸君!」


 そうノリノリで待ち受けていたのはシオンだった。


「ここがポラリスの3Dスタジオか⋯⋯広いな」

「でしょー」


 そうすぐにメッキの剥がれたシオンが案内してくれる。


 僕たちの訓練したヴィアラッテアの3Dスタジオの3倍くらいの面積がある。

 ヴィアラッテアの方だと役者が5~6人くらいが限界なのだが、こっちだと20人くらいはいけそうだった。


「ポラリスへようこそ有介君」

「坂上さん、こんにちは」


 シオン達のマネージャーの坂上さんが出迎えてくれた。


「こんにちはー、坂上さん」

「今日はよろしくお願いします」

「ここがポラリスの新スタジオね⋯⋯」


 姉は気楽に、留美さんは礼儀正しく、そして映子さんは敵対心剥き出しだった。

 ヴィアラッテアの社長令嬢としては、スタジオ設備でポラリスに後れを取っていることが気に入らないのだろう。


「本日はよろしくお願いします」


 そう木下さんも挨拶していた。


「正直言ってホロガーデンの皆さんに来てもらえてよかったです」

「なんで?」


 そう姉が坂上さんに聞き返す。


「この新スタジオは同時に20人くらいまでモーションキャプチャーできるので、その性能のアピールになるからです」


「なるほど⋯⋯虹幻ズだけなら全員でも『7人』ですからね」


 そっか⋯⋯虹幻ズだけだとこのスタジオは性能を持て余すのか⋯⋯。


「こっちは4人だけど、そっちも5人でしょ? そうアピールになるのかしら?」


 うーん、今日の映子さんはなかなか挑発的だな。


「こっちは7人全員参加です」


 そう坂上さんが衝撃的なことを言ったのだった!


「え? でもレースは5人まででしょ?」


 こっちは4人しか集まらずしかたないから一般参加者まで募っているのに、あっちは7人だと!?


「そうです、レースに参加するのは5人だけだが司会進行と解説役であと2人も呼びました。 ⋯⋯社長命令でね」


「つまり出来るだけこの新スタジオの性能アピールしたいという考えなのね」


「そうです。 だからホロガーデンの皆さんも参加してくれて本当にありがたかった」


 うーん、なんか僕たちは利用されたようだった。

 でもまあ面白そうだしどうでもいいか、その辺は。


「⋯⋯ちょっと待ってください。 そちらは『7人全員参加』するって事は?」


 そう留美さんが気が付いたのだった。


「⋯⋯あ! アイさん!? アイさんも来るの!」


 これは大事件である!

 あの幻のVチューバー・アイが現場にやってくるという。


「ははは⋯⋯私もさっき『アイ』に初めて会ったけどさあ⋯⋯ビックリするよ、みんなも」


 そう少し引きつった感じで笑うシオンだった。


「アイってどんな子?」

「⋯⋯見た方が早いよ。 ネタバレしたくないし」


 ネタバレって何だよ?

 そんなに特徴的でユニークな子なんだろうかアイって?


 僕は『アイ』というVチューバーを思い出す。


 アバターのデザインは小学生くらいの幼女キャラで、服装は常に学生服の上から白衣を羽織った博士風のキャラだった。

 あと眼鏡もかけているな、しかしVチューバーに眼鏡なんか意味無いのでただのキャラ付けだろう、あざといよなあ。


 そして声もロリっぽいトーンである。

 その事から僕はアイの正体は中学生以下の少女だと想定している。

 これだと今まで顔出しNGだったのも理由になるからだ。


 ⋯⋯まああの声で正体が男とかは無いだろう、僕以外は。


 いや⋯⋯あんがいそうなのかもしれないな。

 アイは僕のことを男だと見抜いていたようだ。

 つまり同じ境遇だからこそ気づけるような点があったのかもしれない。

 もしもそうなら良いお友達になれるかもしれん。


「⋯⋯そっか、楽しみだなアイと会うの」

「楽しみか⋯⋯どうかな?」


 なんだこのシオンの反応は? そんなにアイの正体って変だったのだろうか?

 このVチューバーという世界は僕みたいな変人でも受け入れてくれたやさしい世界だ。

 だから僕もアイが何であろうとも受け入れて見せるさ!


 てか⋯⋯いろいろ理由をつけてみたが僕はアイの正体は『あの人』だと思ってるのだ。

 なので繊細なところ、けしてバカにしないチャカさないという心構えは出来ているのだった。


 そうしているとリネットとみどりさんも来た。


「こんにちはアリス」

「ようこそみんな」


「リネットにみどりさん、こんにちは」


 だがその2人の様子も変だった。


「どしたの?」


 そう姉が訊ねるのもわかる。


「⋯⋯ファンタスティックでした」

「もう近未来ってやつよねー」


 そう言葉を濁す2人である。


 そうしているとまた別の人が2人やって来た。

 この人がアイなのだろうか?


「やーやーやー! 皆さんヨロシク!」


 そう元気いっぱいに胸を張り、大声で挨拶する人⋯⋯なんか『虚乳』と書かれたシャツを着ている変な人である。

 もう声だけで誰かわかる。


「⋯⋯『る〜とイエ郎』さんですね?」


「そだよー! イエ朗です! イエイ! って、君がアリスちゃんなのかー! 声でわかる! アイちゃんの言った通り、ほんとに男だった。 お姉さんビックリだねー!」


 る〜とイエ朗⋯⋯ポラリス虹幻ズのVチューバーの1人で、リアルでは小説家の『黄昏優希たそがれ ゆき』という人だ。

 なぜ知っているのかって? だって公式ホームページに乗ってるんだから仕方ない。

 本名大公開でVチューバーやってる人って居るんだ⋯⋯というのが素直な感想だった。


 この『る〜とイエ朗』というVチューバー名も本名を改変したものだとわかる。

 優希ゆき⋯⋯行き、る〜と。

 黄昏⋯⋯黄色、イエロー。

 まあそういうことだ。


「今回僕はレースには参加しないけど実況役という事で参加します! 皆さん、ヨ・ロ・シ・ク!」


 めっちゃテンション高い人である。

 黙っていれば高身長で神秘的な黒髪のお嬢様という風貌なのに⋯⋯。

 あのハイテンションな性格と『虚乳シャツ』というファッションセンスが全てを台無しにしている人だった。


「みなさん初めまして、オレンジ・ママレードと申します」


 そう丁寧にお辞儀する上品な年配の女性は⋯⋯僕が見たことある人だった。


「井口みかんさんだ⋯⋯」


 この感動はどう言ったらいいのだろう?


 僕は中学に入った頃から料理をする事に目覚めた。

 まあ理由は母の手伝いだったのだが⋯⋯そのうちにこの声だと飲食店での注文がしづらいと思ったからだった。

 そこで自分で食べたいものを何でも作れるようにと色々ネットでレシピをかき集めたのだ。


 するとニコチューブで実演の料理教室をしているニコチューバ―・井口みかんと出会う事となった。

 つまりこの井口さんは僕にとっての料理の心の師匠である。


 ちなみにゲームの配信プレイをしていた美異夢さんに出会ったのもその頃だ。

 こっちはゲームに関する僕の魂の先生だな。


「あらあら、若い男の子なのに私みたいなおばさんの事を知ってくれているのね」

「もちろんです。 だって井口さんは僕の心の師匠なので!」


 ⋯⋯感動だった!


「誰なの?」

「知らない」


「井口さんは料理人の方で⋯⋯」


 ちっ⋯⋯ウチのつかえねー女共は。


 でも留美さんは若い女の子なのによく知ってたなあ。

 最近の留美さんはよく僕の料理の手伝いをしてくれるし、もしかしたら料理に興味があるのかもしれないな。


「井口さんもミニ四君のイベントに?」


 なんかこの人が料理以外している姿が想像が出来ない僕だった。


「私は解説役よ。 だって主人と一緒に遊んだ第1ブームからの現役世代ですもの、ちょっとそれは若い子たちに卑怯でしょ?」


 この井口さんというか、Vチューバー・オレンジママレードさんはなんと既婚者であることを公言しているVチューバーである。


『今日も愛する旦那様の胃袋を掴んで離さないようにね!』


 というのがキャッチコピーのVチューバーなのだ。


 まあそのチャンネル活動は料理教室なのでVチューバーにありがちなガチ恋勢とかは無縁だからかもだけど。


 なのでファンからは親しみを込めて『オレンジママさん』と呼ばれている。

 なんか僕からみても理想的に歳を重ねた大人の女性だった。




 そして『』がスタジオに運びこまれてきた。




 なんか金髪の小さな女の子が台車で押してくる。

 その隣をなんかギャルっぽい女の子が歩いていた。

 そして藍野さんもやってきて坂上さんと木下さんに挨拶している。


「初めましてホロガーデンの皆さん! 私が神崎アカメです!」


 そうギャルっぽい女の子が言った。

 そっかこの子が神崎アカメさんか⋯⋯。

 なんかイメージ通りの人だった。


 ⋯⋯じゃあこっちの小さい女の子がアイなのだろか?


「君がアイなの?」

「ノー。 私はアイじゃないわ」


 金髪の女の子はそう素っ気なく答えた。


 あれ? じゃあアイはまだ来ていないのか?

 それともやっぱり『あの人』がアイの正体なのだろうか?


 そんな風に考える僕たちホロガーデン・アルタイルのメンバーを、なんかじっと見つめる虹幻ズのメンバーたちだった。


「どうしたのシオン?」


 それにシオンは答えなかった。

 答えたのは神崎アカメさんだった。


「えー、ホロガーデンの皆さんにご紹介します! 私のパートナーで、虹幻ズの仲間の『アイちゃん』です!」


 ⋯⋯⋯⋯?


 そう神崎アカメが指し示す先には⋯⋯。

 金髪の女の子が運んできた台車に乗った大きなパソコンが鎮座していたのだった。


『初めまして皆さん。 私がアイです』


 そう聞き覚えのある声が、パソコンのスピーカーから聞こえたのだった⋯⋯。

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